決戦㉒
「奴を倒すただ1つの方法は、卜部が【神威超越】を行うことだ。」
【神威超越】は神職者が到達できる1つの極点。
回路内の神力を逆流させることで、
想像を絶する肉体強化と術を発生させることができる。
しかし、それによる身体的ダメージは計り知れない。
すでに卜部は、【嫌悪解放:持たざる者】と【豪雷】の肉体強化の二重掛けを試している。
それに【神威超越】を重ね合わせることで、
1発で倒せる肉体強化とオーエンの【人生】だけを討ちぬく精密さが身につくはずだ。
「でも……、それじゃあ卜部さんの身体は……。」
「あぁ、おそらく強力な神力に身体がもたねぇ……。」
「そんな……。」
リーリィは絶望する。
さきほどの卜部を守るという決意が、いかに浅はかだったかを思い知らされる。
ここまで身体を酷使しなければ敵わない相手。
おそらくこの方法を伝えれば、卜部さんは迷わずに実行するだろう。
でも、それじゃあ……。
リーリィの決意が揺らぐ。
「卜部を信じよう。」
後ろから声が聞こえる。
振り返るとそこにはアセナさんたちが立っていた。
スイがハンナさんたちを呼んで戻ってきたようだ。
倒れていたアセナ、クロエ、アイナも無事だ。
「アセナさん!!」
「もしもの時は私が全力で癒します。卜部さんを信じましょう。」
ハンナは胸に手を当て、大きくうなづく。
「卜部ならやれる!ウチは信じてるで!」
「私を救ってくれた卜部さんならやれます。」
クロエとアイナも気持ちは同じようだ。
あとは、卜部さんにこの作戦を伝えるだけだ。
私も卜部さんを信じています。卜部さんならきっとやれます。
「ほらほら!時間がないよ?」
「卜部!戦うんだ!【十種刀:華火】!!」
コーリンは、オーエンに向かって剣技を放つ。
オーエンはその技をいつか吸収した誰かの【人生】を犠牲にあえて受け止める。
一瞬ついた傷も、その誰かの【人生】の終わりとともに消えて無傷の状態に戻る。
卜部は、誰かの【人生】を傷つけてしまうことを恐れて攻撃できないでいる。
そうこうしている間にも、【絶望の悪魔】の結晶はゆっくりと地面に降り立とうとしている。
「君の【人生】ももらおうかな。【穢術:小さな掌、大きな世界】。」
「しまった!」
躊躇しているあまり、オーエンからの攻撃に対しても無防備になっていた。
オーエンの光る右手が卜部へ伸びていく。
コーリンは技の硬直で間に入ることができない。
や、やられる……!!
「ボサッとするな、卜部。【神力展開:神獅爪牙】」
「アセナさん!?」
獣の姿に変身したアセナさんが、
巨大な爪の斬撃をオーエンに浴びせ攻撃を中断させる。
オーエンは巨大な爪を受け止めたが、勢いで飛ばされる。
「奴だけを倒せるかもしれない方法がある。」
「ほ、本当ですか!?」
「あぁ、だがその方法はあまりに危険だ。命の保証はない。それでもやるか?」
アセナは真剣な顔で卜部にそう問う。
自分の命のかかった重大な決断だ。
返答に時間がかかるのは仕方がないとアセナは考えていた。
しかし卜部はそうじゃなかった。
「当たり前じゃないですか。」
卜部は、きりっと笑う。
アセナは卜部を見くびっていたと深く反省する。
あの小僧が、ここまで男に成長するとはな。
「コーリン。少しの間、時間を稼いでくれ。」
「分かりました!」
「卜部、乗れ。」
「はい!」
アセナは卜部を背中に乗せて、ディードの元へと飛んで行った。
「コーリンだけで時間が稼げると思ってるの?」
「あぁ、死ぬ気で稼がせてもらうぞ。【十種刀:後光・煌星】。」
術を唱えると、コーリンの身体が輝きだす。
「小細工したって、意味ないよ。【穢術:限界設定】!」
ガキンッ!
コーリンは、オーエンの拳を剣で受け止める。
「へぇー。肉体強化術か。」
「フッ。どんな制約をつけたのか、楽しみだな。」
コーリンはなんとか時間を稼ぐ。
卜部が帰ってくることを信じて。
「卜部。お前には俺の神力が流れている。今なら【神威超越】が使えるはずだ。」
原理は【持たざる者】と一緒だ。回路を逆流させて神力を磨き上げる。」
ディードは卜部に【神威超越】の方法を伝授する。
「やってみます。そうすればオーエンだけを倒せるんですよね?」
「あぁ。もちろんだ。」
【絶望の悪魔】の結晶はもう地面すれすれのところまで来ている。
「もう時間がない。一発で決めろ!」
「押忍!!」
卜部は、自分の中の回路に集中する。
「【神術解放:豪雷】。」
1つずつ肉体強化術を重ねていく。
これで二重掛け。さっきは身体が持たなかったが、今のところ安定している。
「やれ!卜部!!」
「【神威超越】!!!!」
ドクンッ!
心臓が一度強く脈打つのを感じた。
身体の中の回路が激しく逆流を始める。
【嫌悪解放:持たざる者】で既に逆流していた神力がより早く逆流する。
身体が急激に熱を帯びてくる。
足がガクガクと震え、立っているだけでやっとだ。
気が付くと無意識に膝に手を置いて、上体を支えていた。
「耐えろ!卜部!」
「くそぉおおお!!」
まるで重力が強くなったかのように、上からとてつもない力で押され始める。
やばい……。このままじゃ倒れてしまう。
諦めかけたその時、身体に優しい手が振れる。
「卜部さん、大丈夫です。」
「リーリィ……?」
リーリィが触れてくれた箇所だけ、なぜか俺を押さえつける力が弱まるのを感じた。
これならいけるかもしれない!
「リーリィ……。一緒に戦ってくれるか……?」
「もちろんです!」
「押し返せぇ!!!卜部ぇえええええ!!!」
「うぉおおおおおおお!!!!!!」
ドガーーーンッ!!!
「卜部の野郎。やりやがった。」
そこには、肉体強化を三重掛けしてもなお立っている卜部の姿があった。
「終わらせよう。この戦いを。」




