修道院②
大男との修業が幕を開ける。
10年分の苦労を1週間で体験するという修行だが、俺は果たして耐えられるのだろうか?
教室のような部屋で木の机に座らされている。
最初は、座学みたいだな。
ガラガラ
大男が、教室の扉から腰を屈めて入ってくる。
神父服に白衣とインテリそうな眼鏡を着用していた。
形から入るタイプなのか?
「それじゃあ1日目始めるぞー。」
「よ、よろしくお願いします。」
「俺の名前は、ディード 今日からお前の師匠となる男だ。師匠と呼べ。」
「押忍。師匠。」
「1日目は、神職者になるための基礎中の基礎だ。」
ディードはそういうと俺の机に広辞苑くらいの分厚さの本を置いた。
本の重さで木の机が悲鳴をあげる。
こ、この量が基本なのか?
「これは、神職者になるための基礎知識が書いてある神聖な書物だ。」
「こ、これを1日で全部暗記するんですか……?」
「暗記?ちげーよ。」
「え?じゃあ?」
「これはな、こうすんだよ!」
ビリビリビリ!!
ディードは、両手で勢いよく本を真っ二つに裂き出した。
えぇぇぇぇぇ!!神聖な書物じゃないの!?
「神職者は、神さんを守る。それだけ覚えてればいいんだよ。それが基礎だ。」
「は、はぁ。」
「1週間後には、お前もできるようになってるから安心しろ。」
俺は一週間でそんなゴリラになれるだろうか。
いや、なりたくないかな?
「神職者になるためには、まず回路を開かなきゃならねぇ。」
「回路?」
「あぁ、神さんから神力をもらう為の回路だ。」
神職者は、神様と契約することでその神様の神力を受け取ることができる。
その為には、神力を自分の身体に受け入れる入り口みたいなものを作らないといけないらしい。
「才能のある奴は、生まれつき回路が開いてるらしいが、俺はそんな奴見たことねぇ。ちなみに真面目に修行すれば、回路を開くのに3年はかかる。」
「さ、三年!?」
「それを一瞬で開けるんだ。ワクワクするだろ?」
ディードは、ずいずいと俺の方へと歩みを寄せてくる。
大男に距離を詰められる気持ち、わかります?恐怖でしかありませんよ。
「あはは……、ワクワクっていうか、ドキドキ?いやゾクゾク?」
「大丈夫だ。ちっとばかしチクっとするだけだ。」
「チクっとですよね?チクっと!」
「あぁ。チクっとだ。根性入れろよ?いくぞ?」
「は、はひぃぃぃ!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
一方その頃
「今日から1週間お世話になります、リーリィと申します。よろしくお願い致します。」
「私は、この修道院でシスターをしています、ハンナです。困ったことがあったら何でも言ってくださいね?」
私は、卜部さんが1週間神職者になる修行をしている間、この修道院のお手伝いをすることになった。
ハンナさんは、修道院に来た時にお庭で子供たちと仲良く遊んでいたシスターさん。
ハンナさんのお話を聞くと、この修道院のことが少しずつ分かってきた。
この修道院は、神父のディードさんが取り仕切っていて昔はもう少し栄えていたそう。
村の情勢が悪くなってからか、信仰者が徐々に少なくなり、今では孤児院のようなことをしているんだって。
ハンナさんは、ここの子供たちを本当の子供のように愛していて、子供たちからの人望も厚い。
ディードさんがあの調子だからか子供たちは、あまりディードさんには懐かないんだって。
その後も、ディードさんについて色々教えてくれたけど、話の大半がカッコいいとか、すごいとかでよっぽどディードさんのことが好きなんだろうなって思った。
出会って少しお話しただけで、ハンナさんにものすごい癒しのオーラを感じてることができて、ハンナさんにとってこの仕事は天職なのかもしれない。
ハンナさんのオーラに癒されていると、その至福の時間を卜部さんの大声が、切り裂いた。
「リーリィー!!!!!治して!!!痛い!!鼻折られた!!!」
「待て!!男だろうが!!」
「卜部さん!?」




