決戦⑳
オーエンの攻撃によって【ミストルティン】は破壊されてしまった。
【穢術:限界設定】とは自分に制約を設けることで
自分の能力を強化させる術。通常の肉体強化よりも制約を設ける分、
より強力な力を発揮することができる。
「でも、お前はこれで俺を殺せなくなったんだよな?なら何も怖いもんはねぇ!!」
「【殺せない】んじゃない。【殺さない】んだよ。」
オーエンは首を鳴らしながらそう言い放った。
「【限界設定】は【できない】という制約をつけるんじゃない。
【してはいけない】という制約を設けるんだよ。
気にすることは多くなるけど,その分より強力な力を得ることができる。」
いつのまにかオーエンはケーゴの後ろに移動していた。
「殺しちゃいけないけど、動けなくはしてもいいからね。」
「な!?」
「おやすみ。【武器の神様】。」
まずい。
このままではケーゴがやられてしまう。
肉体強化を行っていても、この距離を一瞬で移動することはできない。
なら、さらに肉体強化を重ねるしかない!
「【神力解放:豪雷】!!」
ズドーーン!!
身体の中心に一本の大きな雷が落ちたような感覚に襲われる。
身体のそこからパワーが湧き上がってくる。
これならいけるかもしれない!
「させるかぁあああ!!!」
「!?」
全力で足を一歩踏み出すと、一瞬にしてオーエンに追いつくことができた。
肉体強化の重ね掛けがここまで強力だったとは考えもしなかった。
「【神力解放:豪】!!」
ドゴンッ!!!
「ガハッ!!」
俺の放った一撃がオーエンに直撃する。
その勢いでオーエンを吹き飛ばすことができた。
しかし、次の瞬間心臓が弾けるような強い鼓動を感じた。
ドクンッ!
「!?」
急に身体が動かなくなり、その場に倒れこんでしまう。
「お、おい!卜部大丈夫か!?」
何が起きているんだ?
身体に力が入らない。声を出すこともできない。
しかし不思議と意識ははっきりとしている。
倒れこんだ俺を心配そうにケーゴが覗き込んでいる。
「スイ!ハンナさんを連れてこい!」
「は、はい!」
スイは急いでハンナさんを呼びに走っていく。
「限界がきちまったか……。」
ディードはバーンに肩を借りながら俺の側にくる。
限界?
「【嫌悪解放:持たざる者】による肉体強化に加えての【豪雷】。
度重なる肉体強化の反動に身体がもたなかったんだ。」
「卜部!!【十種刀:生彩の芽吹き】!」
コーリンが回復技を使ってくれるが、身体はまだ動かない。
「よくも僕の身体を傷つけてくれたね……。」
オーエンは、口から出た血をぬぐいゆっくり立ち上がる。
やっぱり、あの一撃だけじゃ駄目だったか。
「後悔しても貰わないとね。【穢術:限界設定】。」
「まずい。くるぞ……!」
みんな逃げろ。
肉体強化をしていないみんなが、オーエンの攻撃をくらってしまったら……。
「卜部さん!」
リーリィが俺にかぶさり、俺を守ろうとしてくれている。
だめだ、リーリィ。逃げてくれ。
そうじゃないと、リーリィが死んでしまう。
「【君を蹴らない】よ。【おもいっきり殴る】からね。」
オーエンがこちらにゆっくりと向かってくる。
目で確認しなくても強大な力が近づいてくることがわかる。
「リーリィ。ちょっとすまん。」
ディードはリーリィに声を掛けて、俺からはがす。
そして、
ドゴーーンッ!!
ディードは俺を全力で殴りつけた。
「ディードさん!?」
「俺の残りの神力をお前にくれてやった。どうせこの身体じゃもうろくに動けねぇからな。
おい、起きろ卜部。お前はみんなを守るために強くなったんだろ!?」
ディードさんに殴られた部分が少し温かくなってくる。
「なんだ、倒れてるじゃないか。まぁ手加減はしないけどね。」
オーエンがもうすぐ近くまで歩いてきている。
肌で感じる脅威が一歩ごとに巨大なものになっている。
「起きろ!!卜部!!!」
「卜部さん!!!」
「残念でした。時間切れだよ。」
オーエンが拳を振り上げる。
まずい。
このままじゃ、みんなまとめて殺されてしまう……!!
「卜部。約束したよな?」
「!?」
どこからか、懐かしい声が聞こえた。
その声は優しくてそして力強い。
目を瞑っているので姿は確認できないが、この声はあいつしかいない。
「リーリィ様を泣かせるんじゃねぇよ。」
「すまん……。約束果たさなきゃな。」
「ほら、くるぞ。卜部。リーリィ様を頼む。」
「あぁ……、任せてくれクロム……!!」
ドガーーーンッ!!!!
「へぇー。受け止めるんだ。」
「卜部さん!!」
俺は起き上がり、強化されたオーエンの一撃を受け止める。
クロムは姿はどこにもなかった。
でも確かにクロムは俺を励ましに来てくれたんだ。
クロムとの約束を果たす為に、もう1度戦わなければならない。
「もうみんなには指一本触れさせない!!!」




