決戦⑱
「コーリンを取り戻してくれ。」
ディードは地面に座り込みながらケーゴにそう告げる。
コーリンの巨大な一撃を耐えたダメージで、
ディードの身体は既に限界に達していた。
常人であれば気を失っていてもおかしくない程、身体はボロボロだ。
そんな状態でも弟子のことを考えている。
「取り戻すって言われても……。」
「ケーゴ、お前ならできる。」
ディードはケーゴのことをまっすぐ見て、ちゃんと名前を呼んだ。
「あれを使え。あれなら奴に届く。」
「でもあれはまだ……。」
ケーゴは自分に自信がなくて二の足を踏む。
バシンッ!
「!?」
バーンがケーゴの背中をおもいっきり叩き鼓舞する。
「なにウジウジしてんだ!俺達も援護する。やれること全部やろうぜ!」
「そうだよ!やっちゃおうよ。」
「ギョギョ!」
【嫌われ者】の三人がケーゴの背中を押す。
一緒に盾を支えたことで絆が生まれているのがわかる。
「……、わかったよ!3秒隙を作ってくれ。それで十分だ。」
「よっしゃ!いくぞぉ!!」
バーンたちは、椅子に座っているオーエンに向かって走っていく。
「ケーゴ。嫌だろうが、コーリンと戦った時のあの絶望を思い出せ。
あいつの中にそれがあるはずだ。」
「分かってるよ……。忘れもしねぇ、あの感覚……。」
ケーゴは目を閉じて感覚を研ぎ澄まし、遠く離れたオーエンに集中する。
オーエンの身体の中にコーリンの気配が隠れているはず。
おそらく、そこにリップのものも一緒にある。
それを見つけ出すんだ。
「うおぉおおお!!!」
「おや、炎くんじゃないか。君も僕に【人生】を取られに来たのかい?」
バーンは身体を燃やして、全力で走っている。
オーエンはニコニコと椅子から立ち上がり、瞬間移動のようにバーンの横に立つ。
「もらい。【穢術:小さな掌、大きな世界】。」
スカッ
オーエンの右手は空を切る。
バーンの姿は靄がかかったように消えていく。
「かかったな!そっちは【陽炎】だ!」
「なるほどね。意外と器用なんだ。」
本物のバーンはオーエンの後ろに立っていた。
バーンは死角から全力でオーエンに殴り掛かる。
「【嫌悪解放:ヒート・ザ・スタンプ】!!」
バシッ!
「あまいよ。ちゃんと気配を消さなきゃ。」
「!?」
オーエンはバーンの拳をいとも簡単に受け止め、再度右手を構える。
「気配を消すってこういうことギョギョ?」
「!?」
ザバーーーンッ!!
突如ギョギョが地面から現れる。
ギョギョの力で地面は水のようになっており、オーエン耐性を崩す。
「やるねぇ。でもまだまだ。」
しかし、オーエンは力強く足を振り下ろし水を蹴って上へとジャンプする。
「水を蹴ってジャンプできるか普通!?」
「普通はできないかもね。」
「まぁ、てめぇが普通じゃねぇってのは知ってたがな。」
「!?」
「おらぁあああああ!!!」
バーンの陰からスイがおもいっきりジャンプする。
「【嫌悪解放:百万力】!!」
「チッ!」
ドガーーーンッ!!!
スイの一撃をオーエンは両手でガードして防いだ。
しかし、スイの馬鹿力と踏ん張りが効かない空中だからか
オーエンは地面へと叩きつけられる。
「「「ケーゴォォ!!!」」」
「うるせぇ、分かってるよ。ありがとな。
【神力展開:神器解放・形状不明】。」
【ミストルティン】は、目で見ることができない。
そのため扱う者にもその形状は不明をされている。
また幾度と形を変え、定まった形を持たないのも特徴である。
その不規則性から一振りするだけで自分を傷つけてしまうこともある。
【ミストルティン】とは、真に心を通わせた者のみが使うことのできる武器。
修行時には一度も使いこなすことができなかった武器。
それを今ケーゴは手にしている。
三人が必死で作ってくれたオーエンの隙。
ケーゴはその一瞬の隙をついて、オーエンの身体の中にある
コーリンの気配めがけて【ミストルティン】を振るう。
「言うこと聞きやがれぇ!!!【ミストルティン】!!」
「!?」
目ではまったく見えないが、
着実に中が迫ってきていることをオーエンは悟った。
本能なのかオーエンは自然とコーリンとリップの【人生】を
格納している左胸を抑えていた。
「だりゃぁあああ!!!」
ケーゴはまるで【ミストルティン】の切先が見えているかのように
一本釣りの要領で腕を高く振り上げる。
すると、オーエンの左胸に向かっていた切先の行方が背中側に変わる。
そしてオーエンの背中に突き刺さり、身体を貫通し
コーリンとリップの【人生】を体内に引っ張り出すことができた。
「ガハッ!!」
「よっしゃああ!!!受け取れ卜部!!!」
そのまま【ミストルティン】を操作し、
コーリンの【人生】である黒い球体だけを卜部へと投げつける。
「コーリンにブチ込めぇ!!!」
優しくそれをキャッチした卜部は、コーリン目がけて走り出す。
コーリンは剣を構え迎え撃つ態勢を取る。
「ガァアアアア!!!」
「コーリン、その鎧似合ってねぇよ。脱げよ。」
卜部はコーリンの斬撃を避けて、球体をコーリンの胸に目がけて押し込む。
「目覚ませぇ!!!コーリン!!!!」
黒い球体は鎧に完全に吸収され、鎧の内側から眩い光があふれだす。
「ガァアアア……あああああ!!」
バリィイイイインッ!!!
鎧ははじけ飛び、コーリンの姿が現れる。
「う……、私は一体……?」
卜部は、座り込んでいるコーリンに手を差し伸べる。
「おはよう。さぁ反撃開始だ。」




