決戦⑰
コーリンは俺の目の間で闇に包まれ、黒い鎧を身に纏った。
顔までしっかりと鎧で覆われており、コーリンの顔は確認できない。
「さぁ、コーリン。こいつら全員殺しちゃってよ。」
「コ……ロス……。」
手には剣とは言えないような、
禍々しく黒いオーラを放っている鋭利な物体を持っている。
全身から殺気のようなものが溢れんばかりに漂っている。
「コーリン!目を覚ませ!」
「コ……ロス……!!」
垂れ流されていた殺気がすべて剣に集中しているのがわかった。
そして次の瞬間、目の前からコーリンの姿が消えた。
「!?」
気が付くと、コーリンはオーエンの前で剣を構えていた。
「ほう。まだ抗うのかい?」
「コロス……!!!」
ブォンッ!
コーリンの斬撃の波動で神殿の壁が崩れる。
しかし、その斬撃をオーエンはジャンプして余裕そうに避けていた。
「言うこと聞かない子はお仕置きだ。」
ドゴーーンッ!
オーエンは空中でコーリンの顔に蹴りを入れる。
一発の蹴りとは思えないほどの衝撃が神殿内に響く。
鎧を纏ったコーリンはその一撃で壁まで吹き飛ばされ、倒れこんでしまう。
「【穢術:小さな掌、大きな世界】。」
ドスッ!!
オーエンはいつの間にか、倒れこんでいるコーリンの目の前に追いつき
術を唱えてコーリンの胸に右腕を差し込んだ。
「ガッ……!!」
「君の【人生】貰うよ。」
ザシュッ!!
オーエンは右手を思いっきり抜き出し、黒い球体をコーリンから奪う。
「躾には痛みが1番だからね。」
オーエンは黒い球体を思いっきり握る。
「ガァアアアアアアア!!!」
すると、鎧のコーリンが叫び出す。
【人生】を奪う?
リップも同じようにあの技をくらってしまい、言うことを聞かされていたのか?
「【魔戒装甲:パンドラ】に乗っ取られたら、痛みも感じないよ。
諦めて身をゆだねるんだ。コーリン。」
「ガァアアアアアア!!!……。」
そして、コーリンの声は完全に消えていった。
あの黒い鎧に人格を乗っ取られてしまったのか……?
「さぁ、【パンドラ】あいつらを殺してよ。
コーリンの【人生】はもういらないでしょ?貰っておくよ。」
オーエンは自分の胸に黒い球体を押し当てて、体内に吸収する。
すると、オーエンの身体が光り出しオーラがより一層濃くなる。
まずい……、取り返さなければ。
でも、取り返すことなんてできるのか?
そんなことを考えていると、一瞬にして視界が黒色に染まる。
「!?」
目の前にコーリンが剣を構えている。
「ガァアアア!!!」
「避けきれない!?【神術解放:豪】!!」
ドゴーーーンッ!!!
俺は両手に力を貯めて、コーリンの上段からの一撃をなんとか防ぐ。
しかし、叩きつける力は緩まるどころか、どんどん強くなっていく。
「コ、コーリン……。」
あまりの力に膝をついてしまう。
まずいこのままじゃ、つぶされる……。
「おぉおおお!!【神力展開:業】!!!」
ガキィン!!
ディードさんが横からコーリンの剣を殴りつけ、
なんとかはじき返すことができた。
「ディードさん!」
「よそ見するな、もう一発くるぞ!」
「ガァアアアア!!!」
「「【神術解放:豪】!!!!」」
ドガーーンッ!!
二人で、コーリンに向かって拳をぶつけるが、
その一撃は剣によって防がれてしまう。
流石に二人分のパワーだけあって、衝撃で後ろに少し飛ばすことはできたが、
俺達の【豪】を受けて、剣はひびの1つも入っていない。
「化け物じゃねぇか……。」
「ディードさん有難うございます。」
「いや、弟子同士の熱い戦いに水を差しちまった。」
ディードはコーリンがあんな状態になってもまだ弟子だと思っているんだ。
「【嫌悪解放:持たざる者】は解くんじゃねぇぞ。もし解いたら次は使えないと思え。」
「え?なんでですか?」
「その技は諸刃の剣だ。身体へのダメージが大きすぎる。」
二人で話していると、コーリンは天高く剣を構えた。
そして、その剣から出る黒い光は空まで伸び、どんどん幅が増していく。
「おいおい。あの技はこの距離でも射程圏内なのか?」
ゴゴゴゴゴッ
大気が揺れ、気を抜くと吸い込まれてしまいそうな引力が発生している。
「こりゃやばいな。」
ディードは仲間のもとへ走り出す。
「ディードさん!?」
「俺はあいつらを守る!お前はなんとかして生き延びろ!」
「わかりました!」
俺は、落ち着いて眼ではなく心で現状を見る。
とてつもなく大きな矢印が上から降り注いでいる。
これをどうにかして避けなければならない。
「うぉおお!お前ら!なんでもいいから盾用意しろ!」
ディードは走りながら、
バーン、ギョギョ、ケーゴ、スイ、リーリィに指示を出す。
「お、おぅ!【嫌悪解放:ヴァルカン・ペジオニーテ】!!」
「【嫌悪解放:超深海躍層】!」
「【嫌悪解放:万防力】!」
「【神術展開:神器解放・守護盾】!」
各々が防御の術を唱えだす。
いくつもの盾が自分たちの身を守るために現れる。
しかし盾のすき間から覗く黒い光は、圧倒的なまでの絶望感を与えてくる。
盾の後ろで皆は無意識に身を寄せ合い、固まっている。
「うぉおおお!!!!」
ドスーーンッ!
ディードが皆が出現させた盾を飛び越えて、みんなの前に着地する。
「何やってんだお前ら。大丈夫だよ、俺がなんとかする。」
コーリンは力を最大限まで貯めた剣を全力で振り落とす。
「ガァアアアアアアアア!!!!」
「歯食いしばれ!【神威超越】!【神力解放:鼇・極】!!!」
ディードが両手を前に出すと、そこには巨大な盾が出現する。
ドガーーーーンッ!!!!!
「ぐうぉおおおおお!!!」
ディードは全力で押しつぶされないように、盾を支える動きを見せる。
盾は遥か頭上にあるが、その場で力を加えることができるようだ。
「耐えろぉおおおおおお!!!」
ディードの身体から血が吹き出す。
筋肉の繊維が千切れる音が聞こえてくる。
コーリンの剣に押されて、徐々に盾の高さが低くなってくる。
クソッ……。
【神威超越】でも敵わないなのか……?
ダメだ……、筋肉がイカれちまって、力が入らなくなってきやがった。
ここまで、なのか……?
「「「「うぉおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
「!?」
みんなが一斉に上に両手を上げて、盾を支える。
「何かっこつけて終わろうとしてんだよ!!」
「そうギョギョ!!」
「力なら任せてください!」
「諦めるなんてダセェんだよ!おっさん!」
「おまえら……。」
みんなが全力で盾を支える。
しかし、徐々に盾にひびが入り始める。
「ま、まずいぞ……!」
「こ、壊れる!?」
「【神力展開:宙を舞う金貨】!!」
ドガーーーンッ!!!
ディードの盾は粉々になり、みんなが出した盾も一瞬にして崩壊してしまった。
しかし、全員生きていた。
「い、生きてる……?」
「よかったです……。斬撃が逸れる確率を上げましたので……。」
全員が倒れているすぐ横に、大きな溝ができている。
もう数センチ位置がズレていたら、全員死んでいただろう。
「卜部さんは!?」
「見ろ。大丈夫そうだぜ。」
卜部は、攻撃が放たれるより前にコーリン側へ全力で走っていたようだ。
剣による攻撃のため、柄の部分は安全地帯だ。
「よかった……。」
「そうだ、ケー坊。お前に頼みがある。」
「な、なんだよ。」
「コーリンを取り返してくれ。」




