決戦⑯
「介添人の名のもとに、万物の事象、理を示せ。
【魔術:虚空記録回廊・兇】。」
リップは、俺の言葉を信じて【絶望の悪魔】の復活の魔術を唱え始める。
その瞬間、紫の光が天まで登り空を染めていく。
俺はリップに約束したんだ。
この復活の魔術が終わる前に【傲慢の悪魔】を倒すと。
そのためには、目の前のコーリンをまず倒さなければならない。
おそらくコーリンは、【傲慢の悪魔】オーエンの技でリップを
人質に取られており、言うことを聞くしかないんだ。
苦しむリップを強く抱きしめることしかできなかったコーリンは、
俺と対峙しても今にも泣き出しそうだ。
「コーリン。手を抜いたら、リップくんが苦しむことになるよ?」
オーエンはニコニコしながらコーリンを脅してくる。
その言葉にコーリンは震えが止まらない。
「コーリン。本気で来い。」
「すまない……。」
剣を構えたコーリンはただ立ち尽くすのみでなかなか向かってこない。
ならばこちらから行かせてもらう!
ガキィンッ!!!
「!?」
「リップは俺が救ってやる。コーリンは自分の信念に従え。」
俺はガントレットで剣とつばぜり合いに持っていき、こっそりと想いを伝える。
「なにこそこそ話してるの?お仕置きが必要かなぁ?」
オーエンは手に持っている球体にナイフを突きつける。
コーリンは先程とは打って変わって、強く腕を振る。
「その必要はない。私が卜部を討つ。」
もうその眼に迷いはない。
ただまっすぐと俺を見つめている。
「ありがとう卜部。後悔するなよ。」
「望むところだ。」
互いの信念を賭けた戦いの火蓋が切って落とされた。
俺は、みんなを守るため。
コーリンは、リップを守るため。
「【魔剣:霞・暗転】!」
剣から黒い煙が現れ、コーリンの姿をくらませる。
でも、俺には攻撃の方向が分かる。
前まで心臓に走る少しの動悸だけだったが、気を失ったことが影響しているのか
今でははっきりと矢印が見える。
そして、その方向からコーリンが剣を振りかざし現れる。
俺は横にステップし、おもいっきり拳を突きつける。
「【神術解放:豪】!!!」
ブワンッ
拳があたったコーリンの姿はまるで蜃気楼のように歪む。
「なに!?」
「強くなったのは、お前だけではない!【嫌悪解放:千鳥】。」
コーリンが分身し、三人になる。
しかもその三方向から矢印が見える。
「【魔剣:鳥籠・堅牢】。」
三重の斬撃が俺を取り囲むように残り続ける。
触れば腕ごと持っていかれそうなほど鋭利な見た目をしている。
「これで終わりだ。【魔剣:公明の礎・白夜】!」
これは先程の戦いでケーゴ、バーン、ギョギョ、リーリィの力を合わせて、
やっと防ぐことができたほどの巨大な技だ。
コーリンの剣全体が黒い光を発し、巨大な黒い剣へと変身する。
それをおもいっきり振りかざしてくる。
「やるしかねぇ!【嫌悪解放:持たざる者】!!」
「まさか、この感覚は……、【神威超越】なのか……?」
ドガーーーンッ!!!
「卜部さん!」
煙が晴れるとそこにはコーリンを技を受けきってもなお
立ち続けている卜部の姿があった。
「あいつ、【神威超越】をものにしているのか!?」
ディードは、驚きを隠せずにいた。
【神威超越】とは、神職者のみが使える最終奥義。
神力を回路の中で逆流させることで、より濃度の高い神力に磨き上げる。
奇しくも卜部の【嫌悪解放:持たざる者】は、【神威超越】と酷似していた。
【持たざる者】は【武器の神に嫌われている】という【嫌悪】を反転したもの。
【武器が使えない】効果を反転させ、【武器を使わなくても良い程強くなる】。
その手段として、神力の回路を使った逆流手法が無意識に用いられた。
卜部自身はそのことに全く気が付いておらず、コントロールもできていない。
【神威超越】を熟知しているディードでさえ、1日三回で身体がボロボロに
なってしまっているのにも関わらず、卜部はそれを2回も実行している。
「なるほど、あれを防ぐか。」
「全力で行くぞ!」
一瞬でコーリンとの距離を詰める。
「【神術解放:豪火】!!!」
「【魔剣:産土の加護・盲愛】!!!」
パリィィンッ!!!
「な!?」
コーリンの防御壁を粉砕する。
そして俺はとどめを刺すためもう一歩踏み込む。
「これでおしまいだ!!!【神術解放:豪】!!!」
「勝手におしまいにしないでよ。」
パシッ
「な、なに!?」
俺とコーリンの間にオーエンが割って入ってきた。
しかも俺の一撃を素手で簡単に受け止めた。
「コーリン、あれ使いなよ。」
「しかしあれは……。」
「手を離せ!」
どんなに力を入れてもオーエンの手から抜け出すことができない。
「口答えは許さないよ?」
「はい……。」
「それじゃあ仕切り直しだ。」
ブンッ
オーエンが俺を振りほどくと、その勢いで吹き飛ばされてしまう。
あの細い身体のどこにこんな力があるんだ。
「コーリン。ドレスアップだ。」
「卜部、私を殺せ。そして……、リップ様を頼む。【魔戒装甲:パンドラ】。」
コーリンが術を唱えると、身体にどす黒い闇がまとわりつく。
その闇は粘度が高く、一瞬でコーリンを飲み込んでしまう。
「コーリン!?」
「あぁああああ!!!」
痛みを耐える悲鳴ではなく、何かに抗うようなそんなコーリンの声が響く。
そして、その声が聞こえなくなったとき、
目の前には黒い鎧を纏った何かがそこにいた。




