決戦⑬
「ぐぁああああ!!」
バーンは、【嫉妬の悪魔】ククル・ヘヴァリウスの出現させた
黒い空間によって左腕をもぎ取られてしまった。
「やっぱ筋肉っていいよねー。憧れる。」
【嫉妬の悪魔】は黒い空間を出現させ、
そこに入ったものを転移する能力を持っている。
バーンの左腕だけが黒い空間に通され転移したことで強制的に切断されてしまった。
「大丈夫か?」
「あぁ……。どうってことねぇよ。」
切断された断面は、バーンの炎の能力で焼いて止血している。
アセナはバーンの荒技に驚きながらも心配している。
「油断するからそうなるギョギョ。次から気を付けたらいいギョギョ。」
ギョギョはおそらく励ましているんだろうが、まったくそうは感じない。
「ちょうどいいさ。新技に左腕が邪魔だったからな。」
「次は右手も、もらうかんねー。」
ククルの二つ括りの髪の毛が揺れたと思ったら、いつの間にか姿を消していた。
「クッ!警戒しろ。また来るぞ!」
「安心しろ。俺に同じ技は――。」
バーンの右腕の周りに黒い空間が現れる。
咄嗟にバーンは黒い空間から右腕を引き抜き、
「通用しねぇ!【嫌悪解放:焔光】!!」
術を唱えると、右腕が真っ赤に燃える。
その炎の光が黒い空間の中を照らし出し、そこにククルの姿を見た。
「げっ!」
「【嫌悪解放:グラン・ボケルーノ】!!」
バーンの右手から炎の弾が発射される。
ククルは堪らず黒い空間を閉じて避難する。
「ちょっと!まじサイテーなんですけど!?髪ちょっと焦げたじゃん!」
ふたたび、ククルは姿を表す。
またしても出てくる瞬間がまったく見えなかった。
「知らねぇよ。さぁどんどん来い。次はもっとチリチリにしてやるよ。」
「はぁ?まじ最悪なんですけど。そんな子はお仕置き。」
ククルが指を鳴らすと、バーンの下に黒い空間が現れる。
突然地面がなくなり、踏ん張ることができなくなったバーンはなされるがまま落下してしまう。
そして、もう一度ククルが指を鳴らすと、真上にもう1つ黒い空間が出現する。
これは……!?
「うぉおおおおお!?」
「あはははは。まじウケるんですけど!」
バーンは落下すると同時に、真上の空間から出現し、また落下する。
いわゆる無限ループ状態に陥ってしまった。
「はい。これで一人目。」
バーンは、自分の状態を理解したのか悲鳴を上げるのを辞めた。
「おい、どうにかなんねぇか。これ。」
「お似合いギョギョよ。」
「後で丸焼き決定だ。外来魚。」
揉めている場合ではない。
三人ともこの状況にされてしまったら、どうすることもできない。
「次はギョギョが行くギョギョ。」
「任せて大丈夫か?魚くん。」
「魚じゃねぇギョギョ!半魚人ギョギョ!!【嫌悪解放:海底逍遥】。」
ギョギョが術を唱えると、
ギョギョの足元の地面だけ水のようになり地中へと潜っていった。
「え、すごっ!地面の中に潜れんの!?まじ魚じゃん!」
なるほど。
地面の中であれば、空間を作られることがないということか!
「ギョギョォォォォォ!!」
「はい。二人目。」
感心した私が馬鹿だった。
しかし、このままではまずい。
残すは私一人。
同じように無限ループに陥ってしまえばそこでゲームセットだ。
でも、妙だ。
初めからそのつもりであれば、出会ってすぐにでも三人まとめてすれば良いこと。
しかし、【嫉妬の悪魔】はそれをしなかった。
どうしてだ?
「はい。お姉さんが最後だよ。お姉さんはどんな凄い技持ってるの?」
ククルは少しずつこちらに寄ってくる。
「ねぇ?どんな技なの?神様なんでしょ?ウチに見せてよ!」
なんだ?なぜ攻撃してこない。
何か技の発動条件でもあるのか?
「早く見せろっての!!」
シュンッ!
ククルはいつの間にかアセナの近くに転移していた。
手にはナイフを持っており、それで突き刺そうとしている。
やるしかないのか。
アセナは獣の爪を生やして、反撃する。
しかしククルはその場には既に居なかった。
「へぇ~。お姉さん獣の爪持ってんだ。カッコイイ~。」
ククルはニヤニヤしている。
「いいなぁ~。ウチも欲しいなぁ~。」
そうか……!
そういうことか!
「さよならお姉さん!」
アセナの足元に黒い空間が現れる。
しかし、アセナは獣の姿に変化してその場を離れていた。
「えぇ!?狼になるんの!?凄すぎん!?」
アセナが飛んでいる先に黒い空間が現れるが、
空中で方向転換しそれをまた避ける。
「チッ!ちょこまかと!」
アセナは走り、飛び、ククルが出現させる黒い空間を避けきる。
そして、人間の姿に戻りククルの背後に付く。
「今、発動するとお前も巻き添えだぞ。」
「へぇ~。よくウチの技の発動条件が分かったね。」
「お前は【嫉妬の悪魔】だ。おそらく、相手の技や特徴に嫉妬することで
対象を転移させることができるんだろう。」
「せいかーい。」
ククルが指を鳴らすと、背後に黒い空間が現れる。
ドスッ
「な……!?」
アセナの背後からナイフが突き刺さる。
ククルは自分の前に黒い空間を出現させ、ナイフを投げてることで
背後からの攻撃を可能にした。
「そのナイフ毒塗ってるから。シクヨロ。」
「グッ……。」
ドクンッ!
即効性の毒なのだろうか、少し身体の様子がおかしい。
アセナは背中に刺さったナイフを抜き、捨てる。
ククルはまたしても転移し、アセナから距離を置く。
「ほら、早くしないと毒が回ってくるよ?」
「まずい……。」
目がグルグル回り、立っていられない。
思わず膝をついてしまう。
「それじゃあ、三人目ごあんな~い。」
ドガーーーーン!!!!
「な、なに!?」
ククルが振り向くと、煙が立ち込めていた。
「ほぉら。言った通りだろ?」
「ギョギョが先に言ったギョギョ。」
その煙の中で、男が二人歩いてくる。
「な、なんでウチの無限ループを抜け出せたの!?」
「あ?簡単だ。水蒸気爆発だ。」
「水蒸気爆発……?」
「水が高温の物質に接触することで起こる大量気化現象ギョギョ。」
「あいにく、熱と水はあったんでね!」
バーンとギョギョは肩を組み、自慢げに話す。
二人はその爆風によって無限ループを抜けだしたようだ。
「な、なら!もう一回はめてあげる!」
「同じ技は通用しねぇって言っただろ?」
バーンは、一瞬にしてククルと距離を詰める。
「【嫌悪解放:プロミネンス・インパクト】!!」
バーンの切断された左腕が炎を纏い、再生する。
「これでもくらいやがれぇええええ!!!」
「がぁあああああ!!!!」
バーンの超高温の左ストレートによってククルは全身を焼かれる。
「ま……まだ……、やれる……。」
「やれないギョギョ。」
「!?」
次にギョギョが地面を泳いで近づいてきた。
「しまいギョギョ【嫌悪解放:海闊貫槍】!!」
空から巨大な水の槍が振り落とされ、ククルに貫通する。
「ぐあぁああああああ!!!!」
そして、ククルは灰のように消えていった。
「やるじゃねぇか。魚人。」
「……。まぁ魚人ならいいギョギョ。」
二人は勝利の証としてハイタッチを決めた。




