表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/125

決戦⑫


「【穢土掌握:譎詭変幻(けっきへんげん)】。」


 【色欲の悪魔】は2つ目の【穢土掌握】を唱えた。


「さぁ、一緒に狂いましょう。」



 【悪魔】が所有している固有結界【穢土掌握】。

 自分だけに付与効果を与える結界を展開し、戦いを優位に進める。


 それが【大罪の悪魔】の戦い方だ。

 通例であれば、【悪魔】1人に対して1個だったはずが、こいつは2個も持っている。



 油断できない。しかし、ただ倒すのみだ。



「一瞬で終わらせてもらうぞ。」



 さっきの戦いで分かったが、スピードや攻撃力はそこまで高くない。

 俺は、【色欲の悪魔】に一瞬で間合いを詰めて左脇腹に拳を打ち込む。



ドガッッ!



「わ、私を殴るんですか!?」

「もう精神攻撃は効かない!」


 俺が拳を振りぬくと、アイナの吹き飛んでいく。

 拳には、肋骨を折る確かな感触が残った。攻撃が通ったぞ。



「ひどいですね。」



 立ち上がったアイナは、右手で殴られた左脇腹を触った。

 すると、触った部分が1度粘土のように柔らかくなり、再び形を戻す。


 まるで、身体を作り変えたように。



「これで受けたダメージは0です。何度でもいきますよ。」

「やっぱりお前は化け物だ。アイナさんじゃない。」

「その論法ならあの子だって化け物ですよ?同じように私が作ったんですから。」



 うなだれているアイナさんを指差し、笑う。

 リーリィはアイナさんの肩を抱き、励ましの言葉を投げかけている。


 立ち直るにはもう少し時間が必要だ。



「それじゃあこういうのはどうですか?」



 アイナは自分の両足を触り、獣のような形に変える。



ザッ!



 アイナは獣の足で踏み込み、倍以上の速度で距離を詰めてくる。



「は、はやい!」

「こういうこともできるんですよ?」


 次は右手を強靭な腕へと変化させ、俺に攻撃してくる。



「クッ!【神術解放:(ゴウ)】!」



 防御に特化した【(ゴウ)】で受け止めるが、それでも吹き飛ばされてしまう。



「卜部さん!」

「だ、大丈夫――。」

「大丈夫じゃないですよー?」



 いつの間にか両手とも腕を変化させている!?


 アイナは吹き飛ばされた俺に余裕で追いつき、強靭な両腕で俺を地面に叩きつけ、

 マウントポジションから何度も追撃をくらわせる。



「ぐぁあああああ!!」



 戦闘力がない分、身体を変化させてそれを補っているのか。

 アイナはマウントポジションのまま俺を見下ろす。



「もうおしまいですか?卜部さん。」



 【色欲の悪魔】はアイナさんのような屈託のない笑顔を見せる。


 くそっ……。

 今のでかなりダメージを受けてしまった……。



「それじゃあ、最後はこんなのでどうですか?」



 アイナは右腕をドリルのような形に変化させる。

 回転し、命を削り取る音がけたたましく鳴り響く。



ギュイィィィィィン!!!



 そんなものにも変化できるのか!?


 アイナの下半身は鉄のようなものに変化されており、振りほどくことができない。



 まずい……!やられる……!!



「さようなら。卜部さん。」

「【神力展開:屋烏之愛(おくうのあい)】!!」



バチィンッ!



 その時、桃色の閃光がドリルに直撃した。

 光の向こうには、しっかりと立つアイナさんの姿があった。



「そこまでです!【色欲の悪魔】!!」

「立ち直ったんですか?私の分身ちゃん。」



 【色欲の悪魔】は足の変化を解き、アイナさんの方へ向かっていく。



 俺がいくらボロボロだからって敵に背後を見せるのは、得策ではない!



「あ、卜部さんはそこで見ててくださいね。」

「なに!?」



 アイナが指を鳴らすと、地面が粘土のように変化し俺を捕らえる。



「いいでしょう。私とあなた、どっちが本物か勝負しましょう。」

「勝ったほうが本物ってことでいいんですか?」

「もちろんですよ。あなたが勝てればですけどね?そうだ。」



 【色欲の悪魔】は自分の身体を触り、衣装を黒く変化させる。



「これで見分けが付きますね。」

「気が利くんですね。化け物にしては。」

「化け物は、同じですねよ!」



ガキンッ!!!



 レイピア同士が激しくぶつかり合う。


 しかし、【悪魔】の方のレイピアの切先はくねくねと動き始め、

 アイナさんの喉元に目がけて突き進む。



「【神力展開:愛糸豪竹(あいしごうちく)】!!」



 アイナさんはそれを寸前で避けて術を唱える。

 するとレイピアは光を帯びて太くなり、ランスのような形となる。



「あぁああああ!!!」



バキィンッ!!



 アイナさんは力を込めてランスを振りぬき、レイピアをはじき返す。

 そして隙のできた【悪魔】目がけて、ランスを突き刺す。



「私が本物のアイナです!!」

「それはどうですかね?」



 アイナさんが突き刺したランスは確かに、【悪魔】の身体を貫通した。

 しかし、身を削ることは一切できなかった。


 【悪魔】は、身体にランスがちょうど通る穴を作り攻撃を交わしたからだ。



「な!?」

「ドーナッツって好きですか?」


 【悪魔】は、突き刺したランスの横に再度身体を作り変え、アイナさんと距離を詰めた。


「チェックメイト。」



ザシュッ!!



 【悪魔】は腕をランスのように変化させ、アイナさんを貫通させた。



「あ……が……。」

「アイナさん!!!」



 貫かれたアイナさんの手から、ランスがこぼれ落ちる。



カランッカランッ



 悲しく金属の音がこだまする。



 【悪魔】は腕を元に戻し、突き刺されていたアイナさんは地面に落とされる。



「そ、そんな……。アイナさんが……。」

「本物には勝てませんよ?それじゃあ私の元に帰ってきてください。」


 【悪魔】は倒れこんでしまったアイナさんに、触れる。



 だめだ……。

 このままじゃ、アイナさんが消されてしまう……。


 アイナさんは俺達の命の恩人なんだ。

 このまま黙って見過ごすわけにはいかない。


 今度は俺が助けないといけないんだ。


 今やらないでいつやるんだ。

 まだ1度しか成功していないが、あの技を使うしかない。


 俺はみんなを守るために強くなったんだ!



ドガーーーンッ!!!



「な、なんですか?」


 激しい煙が巻き起こる。

 そこから一人の男が歩いてくる。



「アイナさんに触るな。」



 身体から煙を纏いながら俺は、【色欲の悪魔】のもとへ歩いてゆく。

 【色欲の悪魔」はアイナさんから手を離し、警戒する。



「私の術を破ったんですか?力で?」

「あぁ。」

「それが本当なら、あなたこそ化け物ですよ?」

「あぁ、そうかもしれない。【嫌悪解放:持たざる者】。」



シュンッ



 俺は一瞬で【色欲の悪魔】の前に立つ。



「な!?速――。」



ドガーーーーンッ!!!!!



「そ、そんな……!一撃で……!?」

「俺が込めたのは力じゃない。想いだけだ。」

「それでこの力……!?それこそ……、化け物ですね……。」



 【色欲の悪魔】はそう言って笑うと、灰のように消えていった。



 俺は、【悪魔】が消えた後もアイナさんが消えずに残っていることを

 見届けると意識を失ってしまった。



「卜部さん……!!」



 意識が薄れゆき視覚、嗅覚、触覚がシャットアウトされていく中で、

 リーリィの声だけが完全なブラックアウトまで耳に響いていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ