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月に嗤う(2000  作者: 悠木 大輔
9/14

9

「埋めようぜ、目が覚める前に」


にこやかに微笑みながら士度が言う。

士度の笑顔に恐怖を感じながらも真理は一応突っ込む。


「……いや、そこまでしなくても……」


満面の笑みのまま士度は、


「お前がそう言うなら、」

と、どこかからスコップを取り出した。


「先に穴に入れておいて、目が覚めたら土をかけよう」


「……」


笑顔を絶やさず庭に穴を掘り続ける士度を、真理は無言で見つめていた。


「そういえば辰……」


時折爽やかな笑い声をあげながらひたすら穴を掘っている士度を、若干引きながら見ていた辰に声をかけた。


「……ん?……というかあの子平気?」


「士度の事?平気平気。あいつ無傷伝説を作りたがっているだけだから。」


「そ、そう。で、何?」

真理が真面目な顔になる。


「さっきの男が気になる事言ってたんだけど……殺せない……って何?」


辰の顔が曇る。

すると頭上から声がした。


「仕事だよ」


見上げると、いつから居たのであろう刃が塀の上に座っていた。わざと上級生を踏むように降りながら続ける。


「この長屋はな、幕府にとって都合の良い暗殺者を育てているんだ」

刃が空を見上げながら言う。目が眩むほどの青く眩しい空が広がっていた。


「幕府に敵対する勢力を潰すんだよ」


「刃!」

辰が窘めるが聞かない。


「本当の事だろ。お(かみ)の名の下、人を殺す事が認められているんだよ」


「やめろ、違う……! 私達は人殺しなんかじゃない!人殺しなんて只の殺人狂じゃないか。私達は違う……私達は…」


辰の言葉がふいに止まった。

熱い。

目の前の真理が発熱している。


「し、真理……?」


「ごめん。ちょっと……」


そう言うと真理は林の方へ駆け出して行った。


「……。何だあいつ」


真理の背を目で追いながら、刃が訝しげに言う。

すると穴を掘っていた士度がニュッと顔を出した。スコップに体を預けながら言う。


「親に捨てられたとか、人殺しとかあいつ聞きたくないんだよ」


「え?」


辰が驚いたように聞き返す。

士度は暫く目を瞑った後、ため息と共に言った。


「あいつ、父親殺してるから」


「な……?!」


辰も刃も目を見張る。


「正当防衛……えと、不可抗力?みたいなもんだよ。あいつが5歳の時、父親があいつを殺そうとしたんだよ。おかしくなってたんだろうな。それを止めようとした母親があいつの目の前で殺された。……父親の方は骨も残らない程燃やされたってさ。……それから……」


士度はバツが悪そうに続けた。


「俺もあんまその言葉得意じゃないんだ……俺も、知り合いを殺してるから……」


呆然としている2人にスコップを返すと、うって変わったような口調で言った。


「じゃ、俺部屋戻るわ。穴は掘り終わったから後は適当にそいつら埋めといてくれ。今日の授業はもうないよな?」


自分の部屋へと歩いていく士度を見て、二人は顔を見合わせる。


「刃……言ってみようか」


ようやく聞き取れる声で、辰が小さく呟いた。



◆◇◆◇◆◇


「お前、最近あまりにキレやすくないか?」


士度は、自身の部屋で道具(戦闘用具ともいう)を調整している真理に話しかけた。


真理はちらりと上目遣いに士度を見て他人事のように言った。


「そうだねぇ。おかしいねぇ」

首を傾げながらも調整する手は止めない。


「おま……それだけかよ?!」


「わ、わかったから揺らすなよ、手元が狂う。……何かがおかしいとは思うんだよ。気付かないか? いつもより力の量が増えているって言うか……」


「え、お前もそう思ってたのか? 確かに普通なら倒れるくらいの力を使っても平気で動けたけど。てっきり時間移動のオプションみたいなもんかと……」


「いやそんなオプションないわ。でもキレやすいのには自分でも参った。辰達と顔合わせづらい」


「あっちも気まずそうだったからなぁ(俺が色々話したから)。そろそろ謝りにでも来るかもよ?」


「謝る? 何でだよ。悪いのは私……ゲッ」


廊下の方から話し声が近付いてくる。辰達だ。


「私、出掛けてるって言って!」


そう言って真理は部屋の奥の押し入れに飛び込む。それから数秒後、障子の前に人影が現れた。


「入るぞー」

一言断って刃が障子を開ける。後ろから出てきた辰が部屋を見渡し問いかける。


「あれ、真理は? 君達に話したいことがあって……部屋にいないからここかと思ったんたけど……」


「あぁ、出かけたぞ」

士度が事も無げにいう。隠れている真理は胸を撫で下ろしたが、


「押し入れに。


続けて士度が言った言葉を聞いて、真理は怒声と共に勢い良く襖を開けた。


「てめぇ、士度! 裏切ったな!」


「裏切ったなんて人聞きの悪い」

士度は心外だというように首を振った。


「俺はただお前に言われたことを忠実に守りつつ、本当の事も言っただけじゃないか」


「それを裏切りと言うんだぁぁ!」


にこやかに笑う士度の首を絞め続ける真理を制して、刃が口を開いた。


「座れよ。話したいことがあるんだ」



机をはさみ4人が座る。


辰が最初に口を開く。

「まず……ごめんね、真理。私軽はずみな事を言ってしまった」


「え、全然気にしないで! それよりこっちこそごめん。本当は薄々きづいてたんだ。この長屋がそういうことをやってるって。昨日町で色々聞いてね……辻斬りの被害者は幕府に反抗していた者だって。轟って人の言ってた事とも一致していたから」


「そっか……」

辰は目を伏せていた。数瞬の躊躇いを見せた後、大きく息を吸い真理達の方を真っ直ぐ見た。


「あのね、君達に話しておきたい事があるんだ……」


◆◇◆◇◆◇


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