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月に嗤う(2000  作者: 悠木 大輔
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8

「げぇーっ!?」


翌朝。


士度の部屋に声が響き渡った。

部屋には普段着(着物ではあるが)に着替えている真理の姿。

士度はまだ寝巻きのままだ。


「いきなり人の部屋に入って来たと思ったら……今日の授業受けろだぁ? 何でだよ! 自由参加だぞ!」


「何となく……な。どうもここにいる連中皆ひと癖ありそうな奴らだから。それに上級生とやらにも挨拶し……何? どした?」


いきなり頭を抱え出した士度を見て真理が尋ねる。


「い、いや、久し振りに授業に出ると思うと頭痛が……」


「え? あの森に行ったのって冬休み初日だよな。せいぜい3日ぶりじゃ……」


士度が目を明後日の方へ向ける。


「あぁ! お前また学校サボってたな……って、うちのクラス休みの宿題かなり出てるんだ。早く帰らなくちゃ!」


「ふっ、俺なんてなぁ終業式の日に担任から電話来たんだぜ? 『君はまず夏休みの宿題を終わらせようね』だと」


「だっせー。夏休みの宿題なんて10月中には終わってるだろ普通」


どちらも正しくはないのだが。


部屋の障子が開けられた。

立っていた刃が告げる。


「辰の刻に授業が始まるから出たけりゃで出ろよ。この廊下まっすぐ行ったら突き当たりにある大部屋だから。じゃ」


真理は怪訝そうに言った。


「刃は出ないの?」


「あぁ。めんどい、サボる。辰は出るからわかんねーとこあったらあいつに聞け」


そう言うと屋敷の外へと走って行った。


「……なぁ俺らもサボんねぇ?町に遊びに行こーぜ」


士度が真理を見て言う。

真理は人差し指を立てながら真面目な顔をして士度に詰め寄る。

気圧されたように士度は後退る。


「昨日気付いたんだけどな……」


「あ、あぁ……?」


「例え町に行ったとしても、この時代の金を持っていないからたいして面白いことないんだよ……」


「それが本音か」


士度は得心してため息をついた。





◆◇◆◇◆◇


ウワーンッ


子供の鳴き声が響き渡った。


今は休み時間。

辰が席を外している時に事は起こった。


先程紹介された上級生6人が、習字をしていた小さな子を泣かせたのだ。


子分1(名前を聞いたが覚える気がなかったので真理が勝手につけた)が、ヘラヘラ笑いながら言った。


「あーぁ。進助君に墨なんか飛ばすからそうなるんだよ~?」


「ま、自業自得ってやつ。いつもは辰がいるからって調子に乗ってるだろ」


モテなさそうな(と士度は思った)子分2が後に続く。

どうやらこいつらは遠隔操作の力を持つらしい。何故なら子供の手元にあった墨入れが突然ひっくり返り、小さい子供2人が真っ黒になったからだ。


「ほら、土下座でもしろよ。今は辰もいないぜ」


半端なヤンキー風の副リーダーらしき男が脅す。後ろではリーダーの進助がニヤニヤと笑っている。

まだ小さい子供達は泣きながら土下座をしようとしていた。

するとわざとらしい真理の声がした。


「どこの時代にも弱い者いじめってあるんだねぇ。これはきっと人間の深層心理に深く関わっているに違いない」


真理が顎の下に手を当てて、うんうんと頷く。

士度は面倒事には関わりたくないとばかりに寝たフリをする。

真理はそんな士度を横目で見て軽く舌打ちをしながら、馬鹿6人組(今名付けた)を睨む。


「おい、新入り。お前何か勘違いしてないか?」


子分3が口を開く。こいつは授業中に何度も注意されていた。千里眼の持ち主らしい。続き子分4が言う。


「『力持ち』はな実力が全てなんだよ。弱い者は強い者に従う、そういう世界なんだよ」


真理が白けた顔で子分4を見上げる。先程からフワフワと飛んで鬱陶しい。飛行能力が、子供2人の持つテレパスより強いのだろうか。

肩を竦めため息をつく。


「えーと。そりゃあそうなんですけどね。私には年齢が上だという事だけで偉ぶっている集まりに見えるんですよ、先輩達。正直、不愉快。みたいな?」


突如真理の体は後ろに弾き飛ばされた。

進助と呼ばれた男が力を使ったらしい。


(念動力のかなり強いやつか……)


真理は強かに打ちつけた頭をさすった。


「黙って聞いてれば言いたい放題だな。新入りだからって甘くはしねーぞ。お前ら辰と親しくしてるみたいだが……あいつらは親にまで捨てられているからな。これから仲良くしてもろくなことはねーぞ。必要ない人間なんだからな」


薄目で事態を見ていた士度の顔色が変わる。


(あいつら、真理の逆鱗に触れたな。寝よう、そうしよう)


士度が本格的に机に沈み込んだのを知ってか知らずか、真理がボソボソと何かを呟いている。


「………ったら……」


「あぁ?」


子分3が聞き返す。


「だったら」

真理が起き上がった。


「お前ら」

一瞬で力をためる。


「私より弱いんだから」

ターゲットは進助以外の5人。


「私に服従しろやぁぁっ!」


叫びと同時に5人が炎に包まれる。

火柱。

殺しはしないが時間が経てば相手はかなりの重傷を負うだろう。直接火が触れないように加減はしている筈だが、先に酸素がなくなっていく。

5人の驚きの声が苦しむ声に変わり合唱のようになる。


ペタ


5ヶ所から上がる火影がゆらめく部屋を真理は進助に近付いていく。


ペタ


進助は危険を感じ庭へと転がり出る。


(まずい)


士度は飛び起き子供達を避難させる。


(あいつ、マジで殺す気か?!)


真理の方へ駆け出しながら、振り向きもせず部屋の火柱を自身の水柱で相殺する。


進助が真理に向かい口を開く。

彼は真理が怒っている理由を、仲の良い辰達が馬鹿にされたからだと思っているようだ。


「あ、あいつらは役立たずなんだ! 仕事を選ぶんだぞ! 殺せないんだ!」


その直後、廊下の向こうから辰が叫びながら走ってくるのが見えた。


「馬鹿! やめろ! そいつらはここに長居する気はない!」


「黙れよ、辰!」


ふいに士度の体が軽くなった。と思った途端宙を舞い、進助の元に人質として引き寄せられた。念動力だ。


いつの間にか我に返っていた真理が青ざめた。

別に士度が人質に取られたからではない。


「……あっ……」


真理の視線は、士度の頬にできている数cm程度の傷に注がれていた。

恐らく宙を舞っている間に切ったのだろう。

士度が怒鳴った。


「てめぇ…俺の顔に傷をつけるたぁ良い根性だ!」


バラバラバラーー


天から何かが落下する音が聞こえてきた。

士度が進助にめがけて大量の氷を降らせたのだった。


辰が恐怖のあまり屋根に登り震えている子供2人を下ろした頃には、軽く焦げてしまった5人と気絶している進助が転がっていた。



◆◇◆◇◆◇


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