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確かに双子は珍しい。
それも男女で同じ顔が並べばある意味壮観である。
今、真理達は刃の部屋へ来ていた。
寝起きらしく刃の目が据わってはいるが、それ程悪い顔でもない。
やはり男女の違いはあるもののベースが同じなだけある。考えてみれば辰も美人の部類だ。
「で。こいつらが新入り?」
「そう、士度と真理。歳も私達とほとんど変わらないから別にタメ口でいいよね」
「俺は別に構わねーけど。でもあいつらにはやめさせとけよ」
先程から黙っていた真理が口を挟んだ。
「あいつらって、上級生の?」
「ああ。辰、まだ紹介してねーの?」
「チビ達には済ませた。あいつらは起こす気がしない」
辰は少しバツが悪そうに頬をかきながら言った。
士度は部屋をぐるりと見回していた。
一人部屋なだけあって流石に散らかっている。しかし押し入れの中はどうやら整頓されている様だ。意外と几帳面なのかもしれない。
「今から君達の部屋に案内するから。奥にいっぱい余っているから好きな所を使って。今日1日、外へ行こうと自由にしなよ」
◆◇◆◇◆◇
部屋に荷を置き2人は外に出た。
話の流れからするとここは江戸で間違いないようだ。
昨晩までと気持ちを切り替えて、2人ははしゃいでいた。
「やっぱり江戸時代っていったら江戸だよ。よかったあ縄文時代じゃなくて」
「お前って何で縄文にこだわんの? 弥生でも良いじゃん」
「いや、私は最悪米が食べられればいつでも良い。縄文は稲作始まってないだろ? ……あっ、武士だぞ! おさむらいさんだぞ、本物!」
往来の真ん中を闊歩していた侍を指差し、ひととおりはしゃいでいた真理だが、唐突に真面目な顔になり士度の目を見た。
「なぁ士度。お前、刃についてどう思う?」
士度は想像してなかった質問に面食らった顔をしたが、ふいに何か思い当たった様に真理の肩を掴む。
「そうか、お前もついに……」
「はあ?」
「あいつはきっと几帳面だから、ずぼらなお前にゃぴったりだと思う! ガンバ!」
とウインクし、あまつさえ親指を立ててポーズを作っている。
「馬っ鹿じゃねーの。違うわ。何かあいつ変じゃないか?」
思い切り殴られた頭をさすりながら士度が聞き返す。
「変?」
「あぁ。つかめないって言うか……蝋燭みたいな……うん、そんな感じ。ゆらゆら動いて固定されていない人間性……みたいな?」
「俺、お前と違って人間の機微には疎いから。でも……確かにここに来てから何か違和感があるんだよな。昨日の夜の事といい……行ってみるか?」
士度は思い立ち言った。真理も頷く。
2人は昨晩の出来事があった場所へ歩き始めた。
◆◇◆◇◆◇
ザワザワザワ…
「おい、まただよ……」
「今度は菊丸屋の旦那一家だとさ……」
野次馬の人だかりができている。
輪の中心には、十手を持ったお役人とおぼしき者が数名。
士度は人だかりをかき分け奥に進み、真理もそれに続く。
そこには往来中に飛び散った血と、その血の持ち主であったと思われる死人3人が、顔に紙をかけられ横たわっていた。
紙は恐らく役人が配慮してかけたものだろう。辺りの人だかりを見渡し、役人の1人が高らかに宣言した。
「今回の一件も、先例と同様辻斬りによるものと考えられる。再三呼び掛けているが夜間の外出は控えよ。ではこの者共を連れて行く。退け!」
人だかりが2つに割れ、屍が運び出される。
ある夫婦の会話に真理の耳が止まった。
「しかし役人も冷たいじゃないかい、あれだけで済ませるとは」
「仕方ねぇよ。菊丸屋にゃほら、あまり良くねぇ噂もあったからな」
「そういえば今までの仏さんも……」
士度に待っているように言い、家路へと向かう夫婦を呼び止めた。
「すみません! その噂って一体……」
野次馬も次々と帰りだす。
江戸という町にしかない独特の活気が黄昏に食われ始める。
夢の中にいるような浮遊感。
昼と夜の一瞬の隙間に見せる紅の陽が真理達を照らしていた。
◆◇◆◇◆◇