表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月に嗤う(2000  作者: 悠木 大輔
7/14

7

確かに双子は珍しい。

それも男女で同じ顔が並べばある意味壮観である。


今、真理達は刃の部屋へ来ていた。

寝起きらしく刃の目が据わってはいるが、それ程悪い顔でもない。

やはり男女の違いはあるもののベースが同じなだけある。考えてみれば辰も美人の部類だ。


「で。こいつらが新入り?」


「そう、士度と真理。歳も私達とほとんど変わらないから別にタメ口でいいよね」


「俺は別に構わねーけど。でもあいつらにはやめさせとけよ」


先程から黙っていた真理が口を挟んだ。


「あいつらって、上級生の?」


「ああ。辰、まだ紹介してねーの?」


「チビ達には済ませた。あいつらは起こす気がしない」

辰は少しバツが悪そうに頬をかきながら言った。


士度は部屋をぐるりと見回していた。

一人部屋なだけあって流石に散らかっている。しかし押し入れの中はどうやら整頓されている様だ。意外と几帳面なのかもしれない。


「今から君達の部屋に案内するから。奥にいっぱい余っているから好きな所を使って。今日1日、外へ行こうと自由にしなよ」



◆◇◆◇◆◇


部屋に荷を置き2人は外に出た。


話の流れからするとここは江戸で間違いないようだ。

昨晩までと気持ちを切り替えて、2人ははしゃいでいた。


「やっぱり江戸時代っていったら江戸だよ。よかったあ縄文時代じゃなくて」


「お前って何で縄文にこだわんの? 弥生でも良いじゃん」


「いや、私は最悪米が食べられればいつでも良い。縄文は稲作始まってないだろ? ……あっ、武士だぞ! おさむらいさんだぞ、本物!」


往来の真ん中を闊歩していた侍を指差し、ひととおりはしゃいでいた真理だが、唐突に真面目な顔になり士度の目を見た。


「なぁ士度。お前、刃についてどう思う?」


士度は想像してなかった質問に面食らった顔をしたが、ふいに何か思い当たった様に真理の肩を掴む。


「そうか、お前もついに……」


「はあ?」


「あいつはきっと几帳面だから、ずぼらなお前にゃぴったりだと思う! ガンバ!」

とウインクし、あまつさえ親指を立ててポーズを作っている。


「馬っ鹿じゃねーの。違うわ。何かあいつ変じゃないか?」


思い切り殴られた頭をさすりながら士度が聞き返す。


「変?」


「あぁ。つかめないって言うか……蝋燭みたいな……うん、そんな感じ。ゆらゆら動いて固定されていない人間性……みたいな?」


「俺、お前と違って人間の機微には疎いから。でも……確かにここに来てから何か違和感があるんだよな。昨日の夜の事といい……行ってみるか?」


士度は思い立ち言った。真理も頷く。

2人は昨晩の出来事があった場所へ歩き始めた。




◆◇◆◇◆◇


ザワザワザワ…



「おい、まただよ……」


「今度は菊丸屋の旦那一家だとさ……」


野次馬の人だかりができている。

輪の中心には、十手を持ったお役人とおぼしき者が数名。


士度は人だかりをかき分け奥に進み、真理もそれに続く。




そこには往来中に飛び散った血と、その血の持ち主であったと思われる死人3人が、顔に紙をかけられ横たわっていた。


紙は恐らく役人が配慮してかけたものだろう。辺りの人だかりを見渡し、役人の1人が高らかに宣言した。


「今回の一件も、先例と同様辻斬りによるものと考えられる。再三呼び掛けているが夜間の外出は控えよ。ではこの者共を連れて行く。退け!」



人だかりが2つに割れ、屍が運び出される。

ある夫婦の会話に真理の耳が止まった。


「しかし役人も冷たいじゃないかい、あれだけで済ませるとは」


「仕方ねぇよ。菊丸屋にゃほら、あまり良くねぇ噂もあったからな」


「そういえば今までの仏さんも……」


士度に待っているように言い、家路へと向かう夫婦を呼び止めた。


「すみません! その噂って一体……」





野次馬も次々と帰りだす。

江戸という町にしかない独特の活気が黄昏に食われ始める。

夢の中にいるような浮遊感。


昼と夜の一瞬の隙間に見せる紅の陽が真理達を照らしていた。



◆◇◆◇◆◇


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ