6
長屋というよりは小さめの屋敷と言った趣だった。
高い塀に囲まれ、中は小さな林となっている。木々を抜け進んだ先に長屋があった。
士度と真理は半ば強制的に着替えさせられた。
2人は客間に座り、辰が来るのを所在無さげに待っていた。
「懐かしいなぁ、着物着るの。夏祭りの浴衣以来だぜ」
士度がしみじみ言った。
「最後に着たの、小学生だっけか? 竜侍が着物の裾踏んで、政樹巻き込んでスッ転んだって聞くよな。で2人が大喧嘩になって、祭り楽しみにしてた伊沢がキレたっていう」
真理が慣れない着物をパタパタしながら答える。
「私、学校の友達と回ってたから見てないんだよ。士度は何してたの?」
「俺?祭りでやんちゃしてる中高生にカツアゲ」
「まぁそんなとこだと思ったよ」
「……なぁ」
ふいに、士度が真面目な声になる。
「あいつら俺たちがいなくなったの気付くと思うか?」
真理は少し悩んだが明るく返す。
「流石に気付くだろ。どうしても駄目なら伊沢さんがいるし。伊沢さんがあの森に行けば、時間移動が行われたとすぐ気付いてくれる」
「ま、俺らのリーダー格だからな。このペンダントが繋がらなくなったらすぐ来るとは言ってたから。……でも、伊沢があそこから関東に着くまで2日はかかるだろ」
「んじゃ、竜侍達がどれだけ早く能力者を倒すか……」
ガラッ。
突如障子が勢いよく開いた。
戸口に立っていたのは辰ともう一人。
30代位だろうか、浪人風(ちょんまげがないのでなんとなくそう思った)の男。全体的に黒っぽい着物を着ているので、決して善人ではない印象を与えている。
男と辰がつかつかと部屋に入り、真理達の前にある机をはさみ並んで座った。
男が口を開く。
「拙者は轟、この長屋を営んでいる。辰が言うにはお主ら二人力持ちだそうだな。敢えて何者なのかは聞かぬ。どうやら間者でもなさそうだ。もし住む処に困っているようならば、しばらくここにいたらどうだ」
そう言って轟は2人を見た。
「……!」
こいつー!
2人は同時に感じた。
轟の目は決して光と相容れることはない物を孕んでいた。
士度が警戒しながら口を開く。
「あーっと……俺達別に長居する気ないんで。気を使わずに……」
「いつ出ていっても構わぬ。本音を言わせてもらおう。力持ちの中には幕府に敵対するけしからん者もおってな。其奴らの仲間を一人でも増やすわけにはいかぬのだ」
(敵になりやすい者を囲っておく、ってわけか)
真理は考え口を開く。
「成る程。では遠慮なくここにしばらく住まわせて戴きましょう」
士度が驚いたように何かを言いかけたが、それを視線で制し続ける。
「ですが何分勝手がわからぬもので……。宜しければどのような方々がいらっしゃるのかお教え願いたいのですが」
そこで初めて轟がニヤリと笑った。
「それもそうか。長屋の案内は辰にしてもらえ。ここにいる大人は拙者1人だ。どのような力を持つかはおいおいわかるだろう。生徒は10歳に満たぬ者が2人、16歳になる者が2人、18~20で元服しておらぬ者が6人だ。今日は休日なので授業はないが、興味があるのなら明日からの参加は自由だ」
そう言うなり立ち上がる。
「では、拙者は用事があるのでこれで失礼する」
と、現れたときと同じように勢いよく客間から出ていった。
轟の足音が遠ざかるのを確認すると、
「もうすぐ昼なんだけどねぇ」
と辰が立ち上がりながら言った。
「今日は休みだから皆まだ寝てるんだよ。ま、案内はするから」
2人も辰に倣い立ち上がり、後をついて歩き始めた。
真理がおずおずと聞く。
「あのー、さっき『仲が最悪』って言ってたけど。そんなにひどいんですか?」
辰は顔だけ振り返りながら、
「あぁ。チビ達2人は関係ないとして、問題は私達2人と上級生6人だね」
と渋い顔を作り言った。
「私達2人って、さっき轟さんが言っていた同い年の?」
士度が聞く。
すると、辰は驚いた顔になり体ごとこちらに向き直った。
「あれ、言わなかったっけ? もう一人の同い年は刃。私の双子の弟」
「双子ー?!」
真理が驚いて言う。
「え? 君達の世界に双子っていうものはない?」
「いや、別に世界が違うわけじゃ……」
「突っ込むな真理。ややこしくなる。あ、いないってわけじゃなくて、ただ珍しいだけ。特に男女の双子は」
「……そう。あっここが廁だよ」
辰は少し何か考えた様子だったが、そのまま案内を続け始めた。
◆◇◆◇◆◇