006 メールの検証
眠りに落ちたマリナを横目に空いたベッドに腰を下ろし、私は眠るために横になることはせずにメールの操作画面を開いた。
メールに添付された『睡眠』ファイルを開かなければ眠る必要もなさそうだったのも理由のひとつだけれど、街に入る前にメールの各項目を改めて調べておきたかったのである。
昨日の盗賊の件のように、この世界ではひとに殺されるということがあまりにも日常に近いところにある。
だから私に与えられた最大の自衛手段であるメールのことはきっちりと知っておく必要があった。
生活資金として送られて来るログインボーナスメールもいつまで送られて来るかわからないし、唐突に打ち切られて露頭に迷うなんてことになってからじゃ遅しね。
取り敢えず1番重要そうなのは添付の仕様で、中でも添付するとリストから消えるものとそうでないものがあるのが気になった。
末尾に数値が記入されていた貨幣は添付すると同時にリストから記載が消えていた。
それに対して『気絶』『疲労』『息切れ』などのようなものは何度も添付しているのにリストから記載が消えることはなかった。
ぱっと思いつくのは物質的に存在してるかどうかが判定基準になってるってことだけど、1度も添付していないのにリストから記載が消えた物もあるんだよね。
消えたのは『ベルナルドの遺体』で、彼の死体に触れた直後のわずかな時間だけ添付のリストに記載されていたのか、距離的に離れてしまったから記載が消えてしまったのか判断が難しいところだった。
もしかしたら野生動物に遺体が喰い荒らされて原型をとどめていなくなったからかもと考えもしたけれど、それはないとすぐに考え直した。
証拠としては微妙だけれど、添付のリストの1番上に記載されている『制服』がスカートが破れてしまった今も何の変化を見せていなかった。
ただスカートがそもそも『制服』に含まれてない可能性もなくもなかったので、試しに新規メールに『制服』を添付するとブレザー、ブラウス、スカート、リボン、靴下がまとめて消えて一瞬にして下着姿にされてしまった。
どこまでが『制服』に含まれているか確認が取れたので、すぐに添付ファイルを開こうとしたけれど、そのまま別のことを検証することにした。
作成したばかりの新規メールに対して、まだ1度も使用していない『複写』を使用する。
物質的なものなので『添付』同様に在庫数が変動するような操作をすれば、どちらかのメールから『制服』の添付ファイルが消えるかどうかが確かめたかったのである。
結果は、想像に反してメール操作画面上では添付ファイルを何の問題もなく複写出来てしまった。
これでどちらのファイルを開いた後も制服が出て来くれば、今後着替えに困ることはなくなるかもしれない。
マリナの衣服を見る限り、この世界の衣類の着心地はあまりよさそうには見えなかった。
特に下着なんかはそうなんじゃないかな。
可能なら着回せる数くらいは増やしたいよね。
なんて淡い期待を抱きながら私は先に複写元のファイルを開く。
すると一瞬にして制服を着た状態に戻る。
けれどそれは添付前と全く同じというわけではなかった。
私はスカートの裾を摘んで軽く左右に広げてみるとさっきまで裂けていたはずなのに、裂ける以前の状態に戻っていた。
なぜそうなったのかわからず首を傾げ、少し考えてからこのことは一旦後回しにして『複写』による物品複製の成否を確かめることを優先することにした。
複製に成功していたとしたら制服ファイルを開いたときに、制服を二重に着込むことになりそうだったので制服一式を脱いでベッドの上に畳んで置く。
改めて制服ファイルを開くとついさっきと同様に制服への早着替えをさせられていた。
ベッドの上に目を向けるとそこには畳まれた制服がきちんと残っていた。
どうやら複製は成功してしまったらしい。
これって大丈夫なのかな?
だって添付出来る物ならなんでも増やせるってことだよね。
それこそお金だって増やせるだろうし……とも考えたけれど受信メールボックスに残せる数が限られてるから難しいかな?
20通くらいしか受信メールボックスには残せないみたいだし、物によっては添付ファイルの容量が大きすぎるなんてこともあるかも。
保護してなかったらメールに添付して保存してた物が一瞬にして消えちゃうなんてことになりかねないからおいそれとは試せないね。
その辺りの検証をするのは今は難しそうだから別の機会にやるしかないかな。
ただ今回の検証で1番の誤算は制服が修繕されてたことだよね。
何で直ったんだろう。
添付リストに記載された時点ではスカートが裂けてなかったからかな?
なんてことに頭を悩ませていると新着通知が立て続けに鳴った。
また『睡眠』のメールかなと受信メールボックスを開くと1通は『空腹』が添付された物で、もう1通は『★』というよくわからない物が添付されていた。
内容をよく見てみると本文に『スキルランクが上昇しました』との一文が添えられていた。