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017 さらなる能力

 魔法で退路を絶たれ、逃げ場はない。


 迫る巨大なヤドカリを前に足留めになりそうなものを添付したメールを立て続けに送信する。


 ヌシは威嚇するように両碗のハサミを開閉させ、カチカチと鳴らす。


 なかなかメールは届かず距離はどんどん詰められて行く。


 あとわずかで直接攻撃されてしまおうかというところで、ヌシは急に脱力したようにバランスを崩した。


 数秒前に送信した『筋断裂』が効果を発揮したのか、一部の脚の動きが鈍った。


 明らかに効果があるとわかった私は『筋断裂』を添付したメールを数秒毎に送信するよう予約する。


 少なからず稼げた時間を無駄にしないよう私はヌシの魔法に対抗するために、ヌシの鑑定結果メールに添付されていた『魔導の心得』のファイルを開いた。


 すると即座に脳内に魔法に関する知識が流れ込むが、それだけだった。


 確かにスキルによって魔法に関する知識は得られた。


 でも得られた知識によって私には魔法を自力で使うことが出来ないのだということも理解させられた。


 私には魔法を使うのに必要な魔力が存在していない。


 この世界の人間は大気中に溶け込む魔素を呼吸で肺から取り込み、酸素とともに血液を介して全身の細胞に供給し、細胞内器官で魔素を魔力に変換する機能が備わっているのだが、この世界出身ではない私の身体にはその機能が備わっていないのが大きな原因らしい。


 私の肉体では魔法を直接行使することは出来ない。


 出来ないが、魔法そのものを使えないわけではない。


 ヌシによって何度となく放たれ、この身に受けた魔法は添付リストに全て登録されている。


 私に対して使われた魔法ならメールを使って相手に魔法を送信することは可能だった。


 ただ氷雪系統の魔法ばかりを使用してくるヌシ相手に、その魔法をそのまま返したところで効果を発揮するとは思えなかった。


 動きの鈍っていたヌシの全身が淡く緑色に発光する。


 光に包まれたヌシは、動かし辛そうにしていた脚に活力を取り戻し、突進の速度と勢いを増す。


 ヌシは今も立て続けに受信しているはずの『筋断裂』の効果を克服してしまっているようだった。


 その様子からヌシが再生能力を高める『リジェネーション』を使用したのだと『魔導の心得』の知識から察する。


 スキルがあっても氷雪系統の魔法しか使用していなかったので、他の魔法に関しては適性がないものだとばかり思い込んでいた。


 驚きに身体を硬直させていると右腕よりも数倍の大きさはありそうな左腕のハサミが振り上げられ、強力な魔力反応と白い冷気を帯びる。


 咄嗟に左腕を掲げるようにして前に出しながら身体は氷柱により強く押し付ける。


 遅々としながらも進んでいた氷柱の消失に伴って私の身体は、氷柱に出来た私型の窪みに嵌まり込む。


 氷柱ごとハサミで両断されなければどうにかなるはず。


 直後、左腕ががちりと巨大なハサミに挟み込まれると同時に『コールドエッジ』『左腕切断』が添付されたメールが送り付けられて来た。


 これ幸いと私は新規メール作成の手間を省くように、受信したばかりのメールを転送してヌシ相手にそのまま送り返した。


 すると普段なら数秒はかかる送信相手へのメールの受信が、ヌシに直接触れていたからか即座になされ、巨大な左腕のハサミがずしりと音を立てて地面に落下した。


 左腕を失った痛みによる硬直とヌシが直接的な攻撃手段を一時的にでも失ったスキを逃さぬように私は、右前方に跳ぶ。


 ヘッドスライディングするように地面を滑り、どうにか完全に退路を絶たれた状態を脱した私は、再度フロストピラーの壁に向けて駆けた。


 ヌシのスキルによって魔法能力を得た私なら、ヌシから再追撃されるまでの時間に余裕のある今のうちに私自身にフロストピラーを使用することで、あの壁を乗り越える足場を用意可能だとルートコンダクターによる導きが出されていた。


 その指示にかすかな違和感を抱いたが、余計なことを考えている暇はないとそれに従うことにした。


 わざとヌシに捕まって『胴体両断』のような添付ファイルを受け取って送り返すなんて方法を取れなくもないだろうけれど、彼らの住処に勝手に乗り込んでこっちの都合で荒らしてしまった手前そんなことをするのは気が引けた。


 ヌシはあくまでも魄楊を守っているようだからここを離れれば追っては来ないと思う。


 私を追えば魄楊が無防備になっちゃうしね。


 だから私は逃げに徹することにした。


 ヌシの魔法なら切断された左腕も再生させられるみたいだしね。


 なんてことを考えられる余裕を持ってしまったのがいけなかったのか、私の足が地面に張り付いたように強制的に動きを止められてしまった。


 視線を落とすと両足が太腿の半ばまで氷に覆われ、メールボックスには『フリーズバインド』が添付されたメールが届いていた。


 氷柱の消失速度を思えば、両足を拘束する氷も簡単な消えそうもないと容易に想像出来る。


 背後から凄まじい速度でヌシが迫って来る音がする。


 その速度は先程までの比ではなかった。


 さっきまでは使用していなかった自身の肉体を強化するような魔法を使用したのかもしれない。


 なぜ今になってと思う反面、次々と新たな魔法を繰り出すことでヌシのスキルランクが上がり、使用可能な魔法が増えたんじゃないかとも思えた。


 ただでさえスキルランク4だったというのに、そこからさらに上がったかもしれないとなると頭が痛くなる。


 ちらりと背後に視線を向けるとヌシの左腕はすっかり元通りに治っていた。


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