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014 更新時間

 城門前に着き、認証装置に手を触れて手続きを済ませる。


 登録時と違って鑑定メールが届くことはなく、すんなりと街の外に出れた。


 ただ手荷物など何も持っていなかったからか、不審がられたので、近場まで採集に行くだけだと雑な言い訳をして誤魔化した。


 すぐにでも駆け出したかったけれど、城門を出た直後に走り出したら不審者感がヤバいので我慢して数分間は足速に街道を進んだ。


 1㎞くらい進んで、もう門兵の目を気にしなくても大丈夫だろうと判断した私は、最短距離を進むべく街道を外れるようにして全力疾走を開始した。


 緩やかな起伏の土地を何時間も疾駆し続け、日が傾いても足を止めることなくルートコンダクターのナビゲートに従って進み続けた。


 私の身体能力を超えた無茶な運動量に途中『筋断裂』なんて怖いものが添付されたメールが届きもしたけれど、即座に除去に登録して走り続けた。


 やがて日は暮れ、辺りはすっかり暗くなってもルートコンダクターのナビゲート表示は、暗闇の中にあってもくっきりと視認することが出来た。


 だから私は明かりもなしに前へ前へと周囲に目もくれずに進み続けた。


 月が昇って仄かに景色が明るみ、足元には青い影が落ちた。


 ヘラシャードを出て数時間、遥か遠くに見えていた峻険な山々の裾野から広がる深い森は、随分と近くなっていた。


 月明かりに照らされた森は黒々とした影を落とし、部外者を拒んでいるかのような不気味さがあった。


 私はアルフレードから入手した『感情抑制』で恐怖心を無理やり捻じ伏せ、森の中へと突入しようとしたところで着信音と同時にルートコンダクターのナビゲートが眼前から消失した。


 何事かと思って一旦足を止めて新着メールをチェックするとログインボーナスが届いていた。


 それ以外に変わった点は見当たらず、なぜルートコンダクターが急に機能しなくなったのか焦りを覚えた。


 ここまで来ていきなり道標を失ってしまったら遭難は必死だと脳裏に過ぎる。


 さっきまでは感情抑制で捻じ伏せられていた恐怖心が一気に湧き上がり、私を苛む。


 それを追い払おうと感情抑制を再度行使しようとしたが、添付ファイルが開封済みで使用不可になっていた。


 私は慌てて感情抑制を添付した新規メールを送信し、数秒間の長い待ち時間の後に受信したメールを即座に開封して添付ファイルを開いた。


 するとさっきまで感じていた焦燥はすっかり鳴りを潜め、平静さを取り戻せた。


 そこに至って私はスキルの添付ファイルの効果が、ログインボーナスが送られてくるタイミングでリセットされるのではないかと推測した。


 それならと私はルートコンダクターを添付したメールを自身に送り、確かめてみると推測通りの結果が出た。


 道標を取り戻し、深く息を吐く。


 目的地までの距離は残り40㎞に迫っていた。


 休みなく100mを全力疾走する速度で走り続けた成果は充分に出ていた。


 現在時刻は、たぶん22時半前後。


 ログインボーナスのメールが送られてくるのが、私がこの世界に来た直後のことだったし、バイト帰りの最中のことだったから大体そのくらいの時間のはず。


 ヘラシャードを出たのが午後3時くらいだろうし、これなら魔獣にさえ出くわさなければ開門の時間くらいにヘラシャードまで戻れるんじゃないかな。


 せっかく準備したけれど、食料を使うことはなさそうだね。


 とにかく先を急ぐべく、不気味な森へと踏み込む。


 ざっざっと落ち葉を踏み締め、鬱蒼とした樹々の間を縫うように駆けていると聴き覚えのある遠吠えが響いて来た。


 これだけ大きな音を立ててしまっているのだから獣に見つかってしまうのは時間の問題だとは思っていたけれど、今は無視して駆け続けた。


 次第に視界が白んでいく、霧が出て来たということはネブリーナ大森林に入ったと判断していいのかな。


 視界が狭まってもルートコンダクターのナビゲートを見失うことはない。


 私はただそれに従って進み続けた。


 低木が枝葉を揺らす音が複数迫る。


 新規メールを開き、宛先は空白のまま『気絶』『疲労』『息切れ』『筋断裂』を添付したものを用意して複写で数を増やす。


 1通で複数の魔獣に送信出来ればいいけれど、いっぺんに襲って来るなんてことはしないだろうし、順次宛先に登録された対象に足止めのメールを送り付ける準備をして待ち構えながら走り続けた。


 横合いから大きなものが飛び出し、私の脇腹に喰らい付く。


 喰らい付いたナイトハウンドは大きく首をふって私を転ばせる。


 大型獣の強靭な筋力に抵抗出来るだけの力のない私は、されるがままになりながら用意していたメールを即座に送信した。


 それが届く前に2頭目が現れ、攻撃を仕掛けて来た。


 直後、1頭目が気絶した。


 すると間近にまで迫っていた2頭目のナイトハウンドは、警戒するように距離を取ってひと吠えした。


 がさがさと音を立てて迫っていた気配が止まる。


 それを横目に立ち上がり、私は制服に付いた泥汚れをはたき落としもせずに再び駆け出した。


 ナイトハウンドの一部は私から距離を取って追跡して来ていたようだけれど、無視してナビゲートに従って霧の深い森の奥へ奥へと入り込んで行った。


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