013 出発準備
アルフレードが家を出てしばらくすると外からガタゴトとした音が聞こえ、どんどん離れていく。
どうやらアルフレードは馬車の荷台にでもマリナを載せて運んで行ったらしい。
マリナを横抱きにして街中を歩いてたら目玉って仕方ないだろうし、この家を用意したのがアルフレードなら馬車も元は彼の持ち物だったりするんだろうしね。
それはいいとして私は私のやることを一刻も早く推し進めようとルートコンダクターの案内先を魄楊採取に設定する。
空中に魄楊が生育している土地までのナビゲートが表示され、目的地までは183㎞となっていた。
別の世界なのに単位は一緒なのかなとも思ったけれど、単に使用している私が理解しやすいようにスキルの方で調整して㎞表記にされたのかも知れない。
それにしても距離的に徒歩だとどのくらいかかるんだろう。
去年の持久走のタイムどのくらいだったかな?
今はメールで『疲労』『息切れ』『睡眠』『空腹』を除去出来るから休みなく全力で走り続けることも難しくないし、もっと早く走れるとは思うけどさ。
馬車とかに相乗りさせてもらった方が楽できるかも知れないけど、休み休み進むことになるだろうから逆に遅くなっちゃいそうな気がするんだよね。
加えて私のいた世界と違って道なんてまともに舗装されてないから馬車でもそんなに速度出ないだろうしさ。
それに自発的な行動を取れないマリナがまともに食事摂れないことも考えると少しでも急いだ方がいい。
今すぐにでも出発したいところだけど、最低限の準備は必要だよね。
私はテーブルの上に山積みにされた市場で買い漁って来た品々を眺め、どうしたものかと悩む。
メールで『空腹』を除去出来るから何も食べなくても平気みたいだけど、なんとなく落ち着かないんだよね。
かといってここに並んだ食料を全部持っていくとなるとメールボックス圧迫しちゃうし、なんて思いもしたけれどすぐに考えを改めた。
制服や手提鞄は一式としてまとめられているのだから食糧もひとまとめに出来ても不思議じゃない。
そう思い至った私は食料を詰めるのによさそうな入物を探す。
部屋の片隅に置かれていたちょうどよさそうな大きさの木箱を見つけ、ホコリを払って食料を詰め込んでフタをした。
すると目論見通りにバラバラに表記されていた品々が添付リストから消えて『食料箱』として統合された。
あと用意するものは調理器具とか火起こしの道具くらいかな。
睡眠は取る必要がないからテントとかいらないだろうしね。
ホコリっぽいキッチンを物色して刃物やら鍋やらを見つけ、食料箱と同じメールに添付する。
メールの本文にはわかりやすく料理関係一式とだけ記入して保護した。
最低限の準備は整ったので暗くなる前に出発しようと家に鍵をかけ、鍵は手提鞄の中に入れてメールに添付して保管した。
どこかで落としでもしたら大変だしね。
家を出てヘラシャードに入ったときとは別の城門に向かう途中、食欲を誘う匂いが漂ってくる。
私はその匂いに惹かれて一軒の屋台に立ち寄って、串焼きを2本購入した。
それを頬張ろうとして動きを止める。
メール画面を開くと添付リストに新着バッヂが付いていた。
添付リストに新たに名を連ねた『串焼き2』の存在に私は、自分で料理しなくても出来合いの物を買って保存すればよかったのだと今更のように気付き、無駄に時間を使ってしまったかと肩を落としたくなった。
でも同じ物ばかり口にするのも飽きるだろうし、調理済みの品を添付して保管するとなると箱詰めするのも難しいだろうと自分自身を納得させて萎えた気持ちを振り払った。
私は串焼きをメールに添付して『複写』で増やした物を取り出してパク付きながら城門へと足を進めた。
串焼きを食べ終えると添付リストに『栄養』なんてものが増えていた。
それを目にした私はひとつの考えを思い付き、マリナ宛に8時間毎に『栄養』を添付したメールを送信するよう『予約』設定した。
それから数分経っても城門に着く様子はなく、手持ち無沙汰となった私は、市場での買い物の際になるべくお釣りが出るように買い物をすることで店員さんの手に触れて増やした『宛先』に『鑑定』を添付したメールを送信していった。
次々と返送されてくる鑑定結果を見ていたのだけれど、スキルって誰でも持ってるってわけでもなく、さらには似たようなスキルを持ってる人が存外に多いのだと知った。
商売をしてる人は大体似たようなスキルを得る物なのか、そういったスキルを得たからその職業に就いたのかどっちなんだろうね。
どっちにしても今回の目的のために使えそうなスキルはあまりなかった。
使えそうなのは『目利き』『採取』辺りかな。
ただどれもスキルランク低くて1番高いものでもランク2止まりで、ほとんどが0や1ばかりだった。
スキルランクがスキルツリーの樹齢に依存するならもっと高いものが多くてもよさそうなのにね。
でも同じものがいくつもあったりするところを見ると樹齢が長くてもひとつのスキルツリーに複数の人が繋がってて力が分散しちゃってランクが低くなっちゃうとかあるのかな。
そういった点も考慮すると他に同じスキルを持っている人がいなさそうなマリナが、どれほど特別なスキル持ちなのかを強く理解させられた。