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012 反魂香

 時間の惜しかった私はアルフレードにマリナを預ける旨を手短に伝え、必要な情報を得るために治療用の品について質問する。


「マリナの治療に必要なものを教えてもらえませんか。マリナがそうなってしまった原因は私にもあるので、それを探す手伝いをしたいんです」


「話してもいいが無茶はしてくれるなよ。後日、君の訃報を聞かされて後味の悪い思いはしたくないんでな」


「無茶をする気はないですよ、死ぬ気なんてさらさらないですから」


 アルフレードは呆れたように深いため息を吐いた。


「若いね、全く。マリナ君を連れて盗賊から逃れて来るだけのことはあるね。そのこと自体には感謝をしているから教えるがね、眉唾な代物だぞ」


「眉唾でもマドゥロさんはそれがマリナを救えると思ってるんですよね」


 精神樹界エリュシオンの存在やスキルツリーの見た目などが伝わっているのは、過去にマリナと同じような症状に陥って治った人が過去にいたからだろうしね。


 もしかしたら私の世界の地獄とか天国とかみたいに人間の妄想から生まれたものかも知れないけれど、この世界にはスキルなんていう不可思議な力が存在してるくらいだから伝承の信憑性は高いとは思う。


「まぁ、そうなるな」


「それで、その代物ってどんなものなんですか」


「無駄話が過ぎたな。精神樹界エリュシオンからマリナ君の魂を呼び戻すのは『反魂香』なら可能だろう」


「ハンゴンコウですか」


「あぁ、死者の魂すら呼び起こすとされる御香だな。胡散臭い伝承などで稀に名を見掛ける程度のものだ」


 探し物が御香だと聞かされ、私はマリナが運んで来た積荷を思い返していた。


 マリナの家って薬剤師じゃなくて調香師だったのかな。


「もしかしてなんですが、その反魂香の材料をマリナ達に集めさせてましたか?」


 私の指摘はそれほど的外れでもなかったのか、アルフレードは薄く笑んだ。


「それなりに頭はまわるようだが、残念ながら君の想像はハズレだ。私が彼らに探させていたのは伝承にすら存在しない代物だからな」


 情報すらない物を探させるならマリナのスキルは必須と言ってもいい。


 だからこそアルフレードはマリナを早急に保護しようとしていたんだろうと理解した。


 これなら彼がマリナを害することはほぼほぼないはず。


「そういうことですか」


「こちらの事情を話しても構わないが、君には必要のないことだろう」


「えぇ、そうですね。それで反魂香には何が必要なんですか。マリナのスキルがなくても探せるくらいなんですから材料はわかってるんですよね?」


「そうだな。必要なものはただひとつ。魄楊ハクヨウと呼ばれる香木だ。スキルツリーと程近い性質を持った樹で、魔素の豊富な土地にごく稀に生えることがあるらしい」


 魔素という新たな単語に首を傾げたくなるが、この世界では常識的な言葉なのだろう。


「この付近で最も魔素の豊富な場所だと何処になるんですか」


「それならここから東にあるネブリーナ大森林だな。だが君ひとりで行くのはお勧めしない。あそこは年中濃霧に覆われている上に強力で危険な魔獣が多く生息してるからな。護衛に冒険者を雇うにしても並みの金額では誰も引き受けてはくれないだろうよ」


 魔獣って私が森で遭遇したナイトハウンドみたいな生物のことかな。


 大きさからして明らかに普通の動物じゃなかったもんね、あの狼。


「ナイトハウンドとかですか?」


「そうだな。外縁部はナイトハウンドやバンディットエイプの生息域になっているが、奥地には魔法を使うような種も多いと聞く。森の奥に踏み込むなら少なくともランク4以上の冒険者が十数人は必要だろうね」


 ランクの基準はわからないけれど、スキルランクと似たようなものなら最高ランクは7かな?


 その辺りのことは冒険者って人たちの組合みたいなところで聞けばわかるよね。


「だからこの件は私に任せてもらうと安心出来るんだがね。前途有望な少女を危険な場所に送り出す趣味は私にはないんでな。そもそも広大なネブリーナ大森林に魄楊があるとは限らないしな」


 アルフレードの言わんとすることはわかる。


 でもその無茶を成し遂げることの出来る能力が私にはあるんだからやらないなんて選択肢を用意する気はない。


「わかりました。情報ありがとうございます」


 ここで聞き分けのない発言をしても聞き入れられるはずもないし、素直に進言に従うフリでやり過ごそう。


「忠告を素直に聞き入れてくれるのなら助かるね」


 アルフレードは疲れた表情で私を見据えてそう言った。


 私の浅い考えはお見通しみたいだけど、釘を刺すくらいで見逃してもらえた。


「それとヘラシャード滞在中、この家は好きに使ってくれて構わない。ここは元々マリナ君たちのために私が用意したものだからな。彼女を助けてもらった礼だとでも思ってくれ」


 マリナが連れ出されてしまったら宿をどうするかと考えていただけに願ってもない申し出だった。


「そういうことでしたら遠慮なく、好意に甘えさせて貰いますね」


 そう返すとアルフレードは虚な表情のまま微動だにしないマリナを横抱きに抱え上げ、この家を後にした。


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