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世界最強の神獣使い  作者: 八茶橋らっく
第6章 【最後の魔神】
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後日譚その7 ある日の昼下がり

久しぶりの投稿になります。


コミカライズは現在、Pixivコミックにて連載中です。


よろしくお願いいたします。

 

 ある日の昼下がり。


 マグは畑で収穫した野菜を籠に入れ、家──彼らが暮らしている山小屋──に持ち運ぼうとしていた。


 太陽の光を受け、瑞々しく育った野菜たちに、マグは笑みを浮かべる。


「今日もたくさん収穫できたなぁ。でも、最近、かなり多いような……」


 野菜が旬に入ったのか、思いの外、収穫量が多い。


 嬉しいのが半分、困ったのも半分。


 一緒に暮らす神獣たちもよく食べるとはいえ、ここしばらく、野菜も余り気味だ。


「今度クズノハが来たらお土産で持たせようかな……んっ?」


「うーん、ん~……うにゃっ!?」


 家の影から可愛らしい唸り声が聞こえてくる。


 他にも、バチバチと小さな稲妻らしき音。


 ──この声、ローアかな。それに魔力も……。


 マグは玄関に籠を下ろすと、家の裏を覗くように、静かに様子を窺った。


 ……すると。


「ちょっとだけ、ちょっとだけ……にゃっ!?」


 普段通り、人間の姿で活動中のローアは、人差し指に魔力を溜めていた。


 けれどその魔力は迸る稲妻となり、ローアの頭上の木々を焦がした。


 さらに魔力は拡散し、周囲へ流れ、


「うわっ!?」


 マグの足下まで飛んできたので、彼は思わず飛び上がった。


「えっ、お、お兄ちゃん!? ごめんなさい!」


 ローアは魔力を弱め、慌ててマグへと駆け寄ってきた。


「だ、大丈夫だ。でも……どうしたんだ? 新しい修行?」


 実のところ、ローアは日々、マイラと一緒に魔力を扱う修行をしていた。


 それは元々、マイラだけの日課だった。


 けれどローアは「もっと上手く、強くなりたい!」と言い──本人曰く、ドラゴンとしての本能──マイラと一緒に、日々励んでいた。


 マイラも「ローアはドラゴンだから、魔力の出力自体は、神獣の中でも強い方。でも繊細な扱いはまだ苦手らしいから、練習するのもいいかもね」と言い、ローアに付き合っていたのだ。


 だからマグは、ローアが何かしらの新しい修行でも始めたのだろうか、と思っていた。


 しかし、ローアは少しだけ困り顔だった。


「修行と言うか……。なんて言ったらいいかなぁ」


 ローアはしばらく視線を泳がせてから、小さな口から息を吐いた。


「……魔力が変」


「変? ……どうしたんだ?」


「上手く制御できないの。少し力を込めると、前よりずっと強い魔力が出ちゃう」


「そういうことか……」


 ──指先に魔力を溜めていたのは、少しずつ魔力を出して、調整していたと。


 けれど、ローアの思っていた以上の魔力に、本人も困り果てていたらしい。


 それであんな声を出していたのかと、マグは合点がいった。


「一人で困っていないで、皆に相談しよう」


「えっ、でも……」


「いいから、いいから。皆も力になってくれるよ」


 マグはローアの手を軽く握って、家に戻る。


 その際、ローアは足を止めかけたが……。


 不安げにマグの顔を見上げると、一つ頷いて、マグについて行った。


 ***


「……というわけで。皆、ローアに協力してあげてほしいんだ」


 居間兼キッチンにて。


 フィアナ、マイラ、リーサリナと、同居している神獣たちが勢揃いしている中、マグは事情を語った。


 当のローアは何故か普段の快活さを潜め、落ち着かなさげにしている。


 すると真っ先にフィアナが口を開いた。


「はぁ……。ちびドラにもこの時が来たかぁ」


 フィアナは、抱えていたミャーを床に下ろすと、椅子から立ち上がってローアのもとへ。


 するとローアの前にしゃがんで、ローアの肩に手を当てる。


 途端、ローアが一瞬、目を瞑って小さく跳ね上がるものの、


「……本当だ。魔力が結構高まっているね。でも表面には出ないように抑えている。でもこんだけ高くなっているんだから、結構前から変化していたんでしょ? 人間で言うところの、成長痛みたいなもんだから、辛いはずだけど。なんで隠していたのさ」


「それは……」


「本当ね。一緒に修行していたのに、私も気付かなかったわ。ごめんね、ローア」


「私も、一緒に暮らしていたのに、全く……」


 それぞれがローアを労ると、ローアは恐る恐る、といった面持ちで、


「……皆、笑ったり……しない?」


「……はぁ?」


 フィアナが素っ頓狂な声を上げた。


 それも、呆れ混じりといった表情で。


「だ、だって! 縄張りもあって、魔神も倒して。修行だってしているのに……。今更、魔力の制御ができないなんて……恥ずかしいかなって……」


 ──そうか。それでさっきからローアの様子が変だったんだ。


 ローアの雰囲気が暗いことは、マグもよく分かっていた。


 魔力の制御が上手くできず、ローアも不安になっていたのもあるだろうし、マグもそう思っていた。


 けれど、ローアが語ったように、一番の理由は違ったのだ。


「あのねぇ……」


 フィアナは大真面目な表情になった。


 時たまローアをからかうようなことも言うフィアナだが、今回は一切茶化さずに。


「ここにいる神獣全員、ローアと似たような経験はあるはずだよ。神獣だって成長するんだから。魔力が高まると、制御しきれない時期だってあるさ」


「……そうなの?」


「当たり前。寧ろローアはまだマシな方だよ。あたしなんて、翼の動きが鈍くなって、しばらく飛べなかった。……まあ、ローアもこれから、しばらく調子の悪い可能性が……」


「えっ……やっぱり、しばらくは……!?」


 驚いたローアが小さく飛び上がった。


 すると、マイラが「大丈夫よ」となだめた。


「変だったら言ってちょうだい。私の力で、不調を和らげてあげるから」


「わ、私は一緒にいてあげることしかできませんが……。でも、言ってください。一人でいるよりマシですから」


「み、皆……!」


 神獣たちの温かな心が嬉しかったのか、ローアは小さく涙ぐんでいた。


 マグもしゃがんで、ローアと目線を合わせた。


「だから言っただろう? 皆も力になってくれるよって」


「うん。……お兄ちゃんの言ったとおりだった」


 と、ローアが目尻の小さな涙を拭った、その時。


「……まあ、こういうのは本来、周囲の成竜たちが教えるものなのだろうが。ローアは他のドラゴンより独り立ちが早かったから、仕方がないの」


「クズノハ……!」


 一体いつからそこにいたのか。


 お土産と思しき袋を手に、クズノハがやって来ていた。


「驚かせてすまぬ。ただ、やって来たはいいものの、どうも入りづらい雰囲気を感じてな。不躾ながら、壁に狐耳を付けて盗み聞きしてみれば、切実な話だったもので。入るタイミングを窺っていたのだ」


 そしてクズノハは、ぐっと親指を立て、サムズアップをした。


「任せよ。この妾によい案がある。マグの力も借りるがな」


「流石クズノハだ……!」


 マグの魔術修行の時も、リーサリナの時も、その他に知恵を借りたい時でさえ、多くはクズノハがなんとかしてくれた。


 だから今回も頼りにしている……という旨を、マグが語ったところ。


「……」


「や、やめよローア! そんな目でこちらを眺めるでない! 分かっておる! 魔術修行の時のように、マグに無茶な真似はさせぬ! 約束じゃ!」


「なら、いいけど……」


 ──そうだった。俺、クズノハの鬼……もとい九尾式の特訓で、気絶したんだった……。


 ローアはマグ以上に、それを覚えていたらしい。


「クズノハ、具体的にはどうするの?」


「うむ。よくぞ聞いてくれた。簡単なことよ。大きな魔力が制御できぬなら、制御できぬ分を外に逃がしてしまえばいい」


 フィアナは腕を組んで「そっか」と数度頷く。


「魔力の高まりに体が追いついていないから、こうなっているわけだし。体が成長するまで、定期的に余分な魔力を逃がせばいいわけね。でも……どうやるの? それができているなら、あたしも昔、苦労しなかったけど」


「私も同感ね。神獣の力を使って魔力を消費しようとしたって、その魔力行使が上手くいかないんだもの。今のローアには、ブレスだって簡単じゃないはず」


「うっ、うにゃー……」


 マイラの指摘はその通りらしく、ローアは苦々しい声で、視線を逸らしてしまった。


「でも、クズノハさんはマグさんに協力してもらうって言っていましたが」


「然り! その通りだリーサリナ。マグよ。ローアの力が篭もった短剣をここに」


「分かった」


 俺は短剣を引き抜いて、クズノハの前に見せた。


「よし。今から妾がローアの魔力を抜き取り、短剣に向かわせる。マグは短剣に向かった魔力を制御し、内部に収めよ」


「……! そっか! ご主人様、べヒモスの時だって、あたしたち神獣の魔力をサラッと束ねていたし」


「ローア一人分の魔力なら、移し替える先の器さえあれば、コントロールできるかも……」


「様々な神獣の力を扱えますし。マグさん、結構すごいですよね……!」


 皆から尊敬の眼差しを向けられ、マグはこそばゆくなった。


「そ、そうかな……? あんまり意識していなかったけれど」


「これができるからこその【呼び出し手】スキル持ちの神獣使いなのだ。さあ、ローア。手を出してくれ」


「う、うん」


 クズノハに促され、ローアは手を伸ばした。


 クズノハはローアの手を握り、もう片方の手で、マグの握る短剣に手を翳す。


「ゆくぞ……ふっ!」


 ローアの魔力が、クズノハを伝い、光と共にマグの短剣へ。


 ──す、すごい魔力だ。ローアのブレスに近い魔力の密度! 下手に失敗すると部屋が吹っ飛ぶぞ……!? 


 マグは集中力を高め、自身の魔力で光を短剣へ押し込めるようにして、ローアの魔力を短剣へ流し込んだ。


 それが十数秒続いた後。


 真っ先にそれに気付いたのは、やはりマグだった。


「クズノハ! ストップだ!」


「むっ、どうした」


「短剣が限界に近くなってきた。これ以上は短剣が……!」


「そうか、魔力に耐えられぬか……!」


 クズノハはゆっくりと、ローアから魔力を抜き出すのを停止していく。


 マグもその魔力を最後まで短剣へと、丁寧に押し込めた。


 やがて光が収まると、その場にいた全員が安堵し、肩から力を抜いた。


「マグ、短剣は?」


「安定しているよ。結構ぎりぎりだった……」


 マグは短剣を鞘に戻した。


 また、魔力をほどよく減らされたローア本人は、


「うーん……すっきり! ありがとう、お兄ちゃん、クズノハ!」


 大きく伸びをして、普段の調子を取り戻していた。


「でも、次はどうする? もう短剣に魔力を込めるのは……」


「マグがほどよく戦い、短剣の魔力を枯らすのが早いな」


 クズノハが大真面目に提案するが、マグは全力で首を横に振った。


「危ない、危ないって……」


「なら、あたしが力を込めた長剣は? ほら、マイラたちも似たようなアイテム、渡していたじゃん」


「それは……」


 マグは、長剣をはじめとしたアイテムを手に取って、少し考えた。


「……いいや、難しいと思う。それぞれのアイテムは、魔力を込めてくれた神獣たちにしか対応していない。一時的に、魔力を束ねて戦うのはできるけど……」


「魔力を束ねて外付けにするのと、アイテム内部へため込むことの違いね……。【呼び出し手】さんが言うのだから、間違いないのでしょう」


「ならば、どこへローアの魔力を流そうか。大量の魔力を短剣へ移したし、しばらくは大丈夫であろうが……」


 クズノハが「うーむ」と本格的に悩み出すと、何か閃いたらしいローアが「あっ!」と表情を明るくした。


「だったら! 良い方法、あるよ! きっとこれがいいかも!」


「ほう。その方法とは」


 ローアは胸を張った。


「縄張りに、地脈に流すの! 一人じゃ魔力が不安定で難しかったけれど、クズノハやお兄ちゃんが一緒にやってくれるならきっと大丈夫!」


 ……結論から言うと。


 ローアの考えたこの案は、大成功だった。


 この山の地脈になら、いくら魔力を流しても大丈夫。


 というのも、余所の土地でそんなことをすれば、豊富な魔力で魔物が寄ってきて、その土地が大変なことになってしまう。


 しかし、ここはドラゴンの縄張り。


 ローアを恐れて、そもそも魔物が近寄ってこない。


 もし魔物が出ても、余所の土地よりマシであり、マグや神獣たちだっているのだから。


 ……こうして。


 ローアにまた同じことが起こった場合、クズノハとマグの協力により、なんとかなりそうということで、マグたちは胸をなで下ろした思いだった……のだが。


 ──大成功、しすぎたんだよなぁ……ある意味。


「なっ……なんだこれっ!?」


 問題も解決したということで、夕暮れ時、クズノハがこれから帰ろうという際。


 畑の異変に気付いたマグが、声を上げた。


 というのも、野菜の育ち具合が尋常ではなかったのだ。


 実も、葉も、先ほどマグが収穫した時より、ずっと大きく、大量だ。


「えっ……えぇっ!?」


 試しに根菜を引き抜いたフィアナも「お、重っ!?」と目を見開いていた。


 山小屋の畑、空前絶後の収穫量。


 しかも……。


「マグさん! 我が家の温泉、なんだか輝いています! 綺麗ですね、魔力の影響でしょうか……!」


 光るお湯を眺めて、リーサリナがはしゃいでいる。


 マイラも「いつもより疲れが取れそうね~」と嬉しげだ。


 ローア本人は「わぁ……! すごいね、お兄ちゃん!」と満面の笑みだ。


「豊作豊作。しかし腐らせるのも勿体ない。こうなったら漬け物……保存食にしてしまおう! 妾の故郷のやり方でな。今夜は泊まりで手伝うとも!」


「ありがとう。クズノハ。この分だと、数日は掛かるかもしれないけどね」


 マグは笑みを浮かべる。


 ──トラブルの先に、豊作があるなんて。それにクズノハのお陰で、野菜も無駄にならなさそうだし、保存できるならありがたい。


 マグはこの後も、皆で賑やかに作業をするのだろうと、嬉しく優しい気持ちでいっぱいになった。


 こんな日々が、生活が。


 マグの理想の毎日でも、あるのだから。

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