幕間~修業の後~
前回の幕間の続きになります。
そして本作【世界最強の神獣使い】コミカライズ2巻が11月7日に発売しますのでよろしくお願いします!
「こうして見ると、随分と作物を育てておるな」
外へ出るとクズノハは先ほどの様子から一転して、関心した様子で呟いていた。
「確かに我が家で育てている作物は、かなり多い方かもしれないな」
目の前に広がっているのは、やはり畑と言っても規模は大きな農園並みだ。
クズノハが驚くのも無理はないかもしれなかった。
「いや、作物の多さも驚きだが、これら全てを維持しているというのも驚きだ。一体どうやって……ふむ」
「おっきくなぁれ、おっきくなぁれー!」
クズノハが見つめる先には、ドラゴンの姿になったローアが空から畑へと神獣の力を振りまいている姿があった。
「地脈から力を汲み上げ、ローアが畑へ注いでおると。それで作物たちがすくすくと育っているのか、流石はドラゴンだ」
「ちなみにクズノハにも似たような技ってあるのか?」
興味本位で聞いてみると、クズノハは「無理だの」と即答した。
「地脈から力を吸い上げるのは、ドラゴン特有の能力。こればかりは他の何者にも真似できぬし、縄張りを持つがゆえにそれを豊かにするための権能と言えよう」
「言われてみればだな……」
ドラゴンは縄張りを持ってそこに一生住むと前にローアから聞いた。
それなら自分の住処をよりよくするのは当然だし、それを可能にするのが地脈から力を吸い上げる能力だと。
「しかしまあ、その代わりにドラゴンにできないことが妾たちにはできたりもする。一長一短というやつだな」
クズノハが腕を組んでもっともらしくしていると、その肩をフィアナが軽く叩いた。
「話はそれくらいにしておいて、早く作業を進めるよ。ローアも降りてきなよー!」
「分かったよー!」
それから各々手分けして、作物の収穫、他に水やりや雑草抜きに取り掛かった。
途中、作物を運ぶクズノハが「こ、腰が……! もう限界……!!」と訴えてきたが、即座にマイラが能力で治して「これでいけるわね?」と微笑んでいた。
休めると思っていたらしいクズノハはげんなりとしていたが……やはりマイラはクズノハの天敵らしかった。
それから作業を続け、夕暮れ時。
「……はぁ、はぁっ……! この規模にもなると、収穫するだけでも一苦労か……!」
作業を終えたクズノハは木陰でへたり込み、もう一歩も動けなさそうだった。
「お疲れ、でもクズノハのお陰でかなり捗ったよ。やっぱり人手が多いと俺たちも楽だし、気が向いたらまた手伝って欲しいな」
「……本当に気が向いた時だぞ」
腰を押さえ、どこか拗ねた様子のクズノハ。
「そんなに重労働だったのか?」
「当たり前だとも! あまり引きこもりを舐めるでない」
「そこ、威張られても困るぞ」
冗談とも本気ともつかない物言いに、軽く笑わされてしまった。
「けどさ、こういう農作業も案外悪くないだろ? クズノハ、結構いい顔してるぞ」
「ふむ……そうか?」
「ああ、体を動かしてすっきりしたって雰囲気だ。心なしか毛艶もいい気がする」
「よいよい、存分におだてよ。何も出ぬが、妾も嫌な気分ではないぞ」
クズノハは尻尾を振って、耳をぴこりと動かす。
「近頃はこうして妾を讃える言葉を耳にする機会も少し減ったからな。ここは異郷ゆえ、それが自然ではあるが」
「やっぱり東方にいた頃は、人間からの評判は良かったのか?」
「東方にいた頃『も』だ。……今は医術師として重宝されておるが、かつては土地神として崇められておった。よく油揚げを供えられたものだが、こちらに来て後悔があるとするなら、やはり油揚げを口にできなくなったことかの」
クズノハは懐かしげに語りながら、小さく笑みを浮かべていた。
「土地神って、やっぱり人間を助けたりもしていたのか?」
「そうさな。日照りの時は雨を注がせ、冷夏の際は熱をもたらし、天変地異には警鐘を。……こちらの神獣と違い、妾たち東方の者は生活圏が人間と被ることも珍しくはなかった。寧ろ、一部は共生関係にあったと言っても良い。だからこそ助け、返礼として供えをいただく。言ってしまえば、妾たちと人間の関係とはそういうものだった」
「こっちじゃあまり想像もできないな……」
何せドラゴンは険しい山奥、不死鳥は火口、ケルピーは水の中に住まう。
こちらの神獣とは生活圏が被るどころか、人間が侵入できない場所が大半だ。
「……ちなみにクズノハ、さっきから故郷の話だけどさ。やっぱり帰りたく思ったりもするのか? たまには故郷にいる仲間の顔がみたいなーとか」
聞くと、クズノハは首肯……しかけて何故か首を傾けた。
「……どうかしたのか?」
「う、うむ。妾も素直に帰りたいと、一瞬、たった一瞬のみ思ったが……」
クズノハは若干顔を青くして、声を震わせた。
「……故郷に戻った瞬間に師匠に折檻されると思うと、怖くて戻りたいとは頷けぬ」
クズノハはどこか遠い目になった。
「それ、いつまで経っても故郷に帰れないやつでは?」
「然り、然り……。……然りぃ…………」
掟を破ったせいで二度と故郷の土を踏めなくなったかのような雰囲気のクズノハ。
これはもしや、俺が生きている間は帰れないのではなかろうか。
……反応を見る限りだとそう思えてならないが、ある意味自業自得なので普通に仕方がなかった。
***
「ぷはぁ〜、生き返るぅ……」
我が家の温泉に浸かりながら、ふぅと息を吐く。
熱い吐息と一緒に、疲れが口から出ていく気分だった。
「今日もいい湯にいい夜空。温泉を造るって考えは冴えていたな」
満天に散らばる星々を眺めながら、岩肌に寄りかかる。
手足を伸ばしてコリをほぐし、脱力。
「ああ〜、これで明日も頑張れるぞ〜」
「うむ〜、そうだの〜」
「……ん?」
今、何か聞こえてはいけない声が聞こえた気がする。
声のした方へ、ゆっくりと首を回してみる……と。
「ここは本当にいい湯だな。妾の故郷にもこれほどの名湯、数えるほどしかなかったぞ」
息がかかりそうな距離に、張りのある肢体を晒すクズノハの姿があった。
「んなっ、クズノハぁ!?」
思わず飛び上がるようにして距離を取ると、クズノハは顔をしかめた。
「これ、飛沫を飛ばすな。それにその顔は何だ。せっかく妾と湯を共にし、この身を見せておるのだ。ここは気の利いた言葉のひとつでも言う場面ではないか?」
「お、おお、肌も真っ白で凄く綺麗……じゃなくて!? クズノハ、さっきまでいなかったよな……いや、また姿を闇にくらませていたのか!」
あまりに温泉が気持ちよすぎて、クズノハの気配に気づけなかった。
クズノハはいたずらが成功した子供のような笑みを浮かべた。
「むふふっ。これで王都でのリベンジは果たせた、満足だ」
「王都……まさかとは思うけど、最初に見破ったのを根に持っていたとか?」
「そこまでではないが、神獣の意地としてはやられっぱなしも性に合わぬゆえ」
「そんな適当な……」
呟きながら、後ろを向いた。
するとクズノハは不満げな声音を漏らした。
「これ、妾はこっちにおるのだぞ」
「だからこそだよ。女の子の裸はまじまじ見られないし、ローアたちと入る時だってタオルを巻いてもらっているからな」
ついでに俺も、そういう時は下にタオルを巻いている。
……当然さっきまで一人風呂だったので、今は何も付けていないけれど。
「ともかく、クズノハが隠さない限りは俺もこのままだ。頼むからタオルとかで隠し……」
「隙ありっ!」
「んなっ、いつの間に前に!?」
クズノハはまた姿を消していたのか、気づいた時には目と鼻の先にいて、飛びついてきた。
クズノハの体は華奢な割に柔らかくて、いい匂いもする。
突然の出来事に、俺は目を白黒とさせてしまった。
「わっぷ!? ちょっ、これは洒落にならないって……! ……ん?」
女の子の甘い匂いに混じって、独特の匂いがする。
「……これ、酒の匂い!? もしやマイラの時と同じ流れか!?」
「マイラ……? 何があったか知らぬが、妾は土産に持ってきた酒を少し味見しただけだぞ」
「それが同じって言っているんだよ……!」
間違いない、クズノハは酔っている。
それも疑う余地もなく、悪酔いの類である。
──というより、神獣って意外とお酒に弱いのか!?
そんな疑問を挟む暇もなく、クズノハは俺にくっつき続けていた、全裸で。
「いやクズノハ落ち着いてくれ、こんなところローアたちに見られたら……!」
「お兄ちゃん、何か騒がしいけど大丈夫? 今からわたしたちも入る……けど……」
「……あっ」
あまりにタイミング悪く、ローア、フィアナ、マイラが脱衣所から出てきた。
それからローアが眉間にしわを寄せて、ぴょいっと飛び着いてきた。
「ずるいずるいずるーい! わたしも抱っこー!」
「おっ、あたしも便乗しておこっ!」
「ローアもフィアナも落ち着け、今はこの酔っ払いを引き剥がすのが先決……どあーっ!?」
「えーい、誰がよっぱらいか! 妾がいたって正常だとも!」
「言ったな!? 酔いが覚めてから恥ずかしがるなよ!!」
何を思っての行動なのかは分からないが、クズノハは俺から一向に離れようとしなかった。
それどころか、抱きつく力を強めてくる。
──もしかしたら、九尾はこういうスキンシップを取る習慣があるのかもしれない。
……そんなバカなことを思っているうちに、俺はさらにローアとフィアナに張り付かれ、遂に身動きが取れなくなった。
若い男としては、非常にまずい状況だ。
「マ、マイラ。頼む……!」
最後の良心であり、我が家の三人娘でもっとも落ち着きのあるマイラに助けを求めてみる。
……けれど。
「ふふっ、ごめんなさい。今日はわたしも、皆と同じように甘えたい気分なの」
「えっ、ちょっ……!?」
マイラは温泉に入り、ローアたちの上から手を回して抱きついてきた。
……その後。
俺は温泉に入りながら無理矢理に魔術を扱い、自ら魔力切れして気絶した。
──ヘタレと思うことなかれ。皆と一緒に寝るのはいいけども、タオルなしで女の子と温泉は刺激が強すぎると思うのです。
俺はそんなことを自己暗示気味に思いつつ、皆の暖かさを感じながら意識を手放したのだった。
……翌朝。
ローアたちが寝息を立てるベッドの上、その片隅で。
「う、ううぅ……っ。妾は、妾は一体何を……っ!!」
「酔いが覚めてから恥ずかしがるなって言っただろ?」
「お主は鬼か!?」
クズノハはやはり、顔を真っ赤にして身悶えていた。
ただ……この時のクズノハを少し可愛いなと思ってしまったのは、ここだけの話だ。
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