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世界最強の神獣使い  作者: 八茶橋らっく
第6章 【最後の魔神】
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後日譚その4 ローアvsフィアナ

世界最強の神獣使いコミカライズは現在、ナナイロコミックスとPixivコミックにて5-3話まで公開中です!


次のコミカライズの更新は7/2なのでよろしくお願いします!

 ある日の昼過ぎ。

 太陽が温かく、そよ風も吹き、のんびり昼寝したら最高だろうなと思われるその時。

 俺は脂汗を流しながらコインを右手に握っていた。


「フィアナ、負けても文句言わないでよね?」


「ローアこそ、負けてもご主人さまに慰めてもらうのはナシだからね?」


 久しぶりにローアとフィアナがバチバチと火花を散らし、神獣の姿となっていた。

 そしてクズノハが引いた横一直線の線の前で立っている。


「ローアにフィアナ、考え直すのは……」


「「ムリッ!!!」」


 断言されてしまった。

 一体どうしてこんな話になったのか。

 ことの発端はクズノハが土産で持ってきた、王都のプリンをフィアナがローアの分まで食べてしまったことにある。

 フィアナは「いつまでもローアが食べないから要らないのかと」と言っていたが、ローアは「夕食後まで取っておきたかったの!!」と涙目になっていた。

 そこでローアが「うにゃーっ!!」と飛びかかって取っ組み合いになりかければ、クズノハが「じゃあ競争で勝った方に今度プリンを十個買ってやろう」とか言い出したのだ。

 寸前で取っ組み合いにならなかったのはいいが……この九尾、絶対楽しんでいるぞ。


「ほれ、マグよ。早くレーs……こほん、試合開始のコインを投げぬか。でないといつまで経っても始まらん」


 レースとか言いかけていた、楽しむ気満々のクズノハは天馬の姿となったリーサリナの背の上にいた。

 どうやら後ろから付いていくらしい。


「その、本当に止めなくていいんですかクズノハさん?」


「構わぬ構わぬ。たまには全力で翔んだ方があの二人もスッキリするであろう。それにリーサリナもどっちが速いか気になるであろう?」


「それはまぁ……」


 ははは、と苦笑するリーサリナ。


「まあ、怪我しないならいいんじゃない? たまにはこういうのも、ね」


 マイラは水晶を持ちながら、横の木陰でマイペースにくつろいでいる。

 あの水晶はクズノハ製の魔道具で、クズノハが見る景色と声を届けてくれるものだとか。

 要するに実況してくれるらしかった。


「全く……ここまで皆がやる気なら構わないけど。怪我はよしてくれよー」


 そう言いつつ、俺は指先でコインを弾いた。

 くるくる回るコインが地面にコツンと落ちた瞬間、ローアとフィアナが翼を広げてばさりと飛んでゆく。

 その後を追いかけるリーサリナの背で、クズノハが叫ぶ。


「さあ、いよいよ始まる大一番! 実況は妾と……ほれ、リーサリナ! 手筈通りに語らぬか!」


「か、解説はわたし、リーサリナでお送りします……!」


 クズノハは前にちらっと王都付近で見た、地竜と呼ばれる大トカゲ型モンスターのレース実況に影響を受けたのか、完全にノリノリだった。

 リーサリナは引き気味だが。

 そのまま水晶に映る光景は、ローアとフィアナのレースを映す。


「このレースは三つの山々を大きく回るレースであるが……ふむ! 先にコーナーを取ったのはフィアナだな!」


「流石は最速の神獣と呼ばれる不死鳥ですね。ですがローアさんはドラゴンの中ではまだ小柄で、今は最も速度が出る年頃。フィアナさんとは僅差です。何より体力ならドラゴンであるローアさんの方に分があります」


 前言撤回、何だかんだでリーサリナもノリノリだ。


「マイラ、この勝負どうなると思う?」


 聞くと、マイラはふふっと微笑んだ。


「まだまだ分からないわね。確かに速度はフィアナが上だけど、レース終盤の体力勝負になればローアが追い抜く可能性は十分あるわ」


「なるほど……」


 そうして、レースは続行してゆく。

 山々を回るレースは最後のコーナーに入ったが、依然としてローアはフィアナの後ろに付いている。

 あまりにもぴったりくっ付き過ぎな気が……いや、まさか!


「ふんっ!!!」


 悟った途端、ローアの羽ばたきが力強くなる。


「おおっと、ここでローアが勝負に出た! あれは間違いなく、余力を残して翼への負担を抑えていた証拠っ!!」


「一気にフィアナさんを抜きましたが、フィアナさんも加速しています。間違いありません、フィアナさんも余力を残していました! ここが最後の勝負です!!」


 テンションを上げたクズノハとリーサリナの声を聞きつつ、こっちもマイラと一緒に水晶に見入る。


「本当に分からなくなってきたわね。どっちがプリンを手にするのかしら?」


「でもどっちが勝っても、どっちかを慰めなきゃいけないんだよなこれ……!?」


 ローアが負ければ多分大泣きは必至だ。

 フィアナが負けても大拗ねしてしまうだろう。

 正直ここ最近で一番決着がついて欲しくない瞬間だった。


「【呼び出し手】さん。二人が戻ってきたわ」


 マイラの言うように、ローアとフィアナが全速力で突っ込んでくる。

 二人ともほぼ横並び、差は全くと言っていいほどない。


「うにゃあああああああっ!!!」


「はあああああああああっ!!!」


 ローアとフィアナが気合のこもった叫びと一緒に最後の羽ばたきを終え、ゴールに突っ込む。

 そうして人間の姿となり、こっちに走ってきた。


「お兄ちゃん!」


「ご主人さま!」


「「勝ったのどっち!!??」」


 二人とも息が荒くて圧が凄い。

 でも残念ながら、俺はこう言わざるを得なかった。


「ど、同着だったぞ……」


 そう、同着にしか見えなかった。

 武装に宿った神獣の力を解放していれば動体視力が向上し、どっちが先にゴールインしたか分かっただろう。

 だが武装は家の中だし、普通の人間な俺には爆速と化した二人は同着以外には見えなかった。

 要は引き分け、である。


「うにゃ〜〜〜〜〜っ! フィアナにプリン食べられ損!!」


「ふーんだ。神獣最速の不死鳥のあたしに負けなかっただけマシよ!!」


 ドラゴンと不死鳥は仲が悪い。

 だからローアとフィアナの喧嘩は日常茶飯事で、前は逆にローアがフィアナの夕飯の肉を食べて怒られていたりしていたが……。


「待て待て。今度王都に行った時、ローアには何か奢るから。それで今は落ち着いてくれよ、な?」


「うーん……お兄ちゃんがそう言うならっ」


 言いながら、近くで頬を膨らませるローア。

 大体フィアナと喧嘩した後のローアはこんな感じで、慰めてという意思表示だ。

 俺はそんなローアを撫でながら、苦笑しつつ「フィアナも今後はほどほどになー」と言った。

 フィアナは「……まあ、次からしっかり気をつけるから」と言ってくれたのだった。



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