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世界最強の神獣使い  作者: 八茶橋らっく
第6章 【最後の魔神】
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後日譚その2 クズノハ邸冷凍事件

【お知らせ】

本日(12/25)より『世界最強の神獣使い』コミカライズ2話その2がナナイロコミックスにて配信開始です!

よろしくお願いいたします!

(あとがきにもお知らせがあります!)

 時は年末近く。

 今年はクズノハ邸で美味いものでも食べながら年を越さないかとクズノハに誘われた俺たちは、王都へとやって来ていた。


「流石に年末、王都も随分と賑やかだなぁ」


 道行く人たちは慌ただしげだ。

 年越しのご馳走を作るためか、特に食材が並ぶ店は人でごった返している様子だった。


「クズノハが食べ物はもう用意してあるって言っていたけど、本当に助かったね。……わたしがあそこに入ったら、しばらく出て来られなさそう……」


 すぐそばを並んで歩くローアは、はぐれないよう俺の手を握りながらそう言った。

 確かにあんなに混雑している店に入ったら、背の低いローアでは脱出するのが難しそうに思える。

 なおそんなローアの様子に、フィアナは「ぷぷっ」と吹き出していた。


「ちんちくりんのちびドラじゃ仕方ないかもね。ま、はぐれないようにご主人さまの手を離さないようにね」


「ふーんだ。もしはぐれたって、お兄ちゃんの匂いを辿って追いかけるもん」


「お二人とも、喧嘩しないでくださいよ? ここは王都、人が多いですから。神獣同士がぶつかり合ったら大変なことになりますよ?」


 リーサリナはローアとフィアナを見つめながら、どこか不安げだった。


「大丈夫よ。二人ともそこまで大きくぶつかったりしないでしょうし。万が一の時はわたしがフィアナに水をかけて止めるから、安心してね?」


 ふふっと微笑んだマイラに、フィアナは「うっ」と若干すくんでいた。

 それからフィアナはジト目でマイラを見つめる。


「マイラ、ローアの方には何もないの? あたしだけ不公平よ不公平!」


「ローアの方は大丈夫よ。いざとなったら【呼び出し手】さんがくすぐって止めるから、ね?」


 またもや微笑んだマイラに、次はローアがすくみ上った。

 ちなみにローアはくすぐりにめっぽう弱くて、前にくすぐった時には息も絶え絶えの様子だった。


「お、お兄ちゃん。手加減してね……?」


「そんなに怖がらなくても、フィアナとぶつからなきゃ問題ないよ。……とか言っているうちに、もう着いたな」


 目の前には、これまで何度か訪れたことのあるクズノハ邸。

 相変わらず庭の手入れも行き届いており、クズノハの暇さ……じゃなくて丁寧な性格を感じ取れた。


「ここがクズノハさんのお家ですか。思っていたより大きいですね。それに王都の中にお家とは、結構お金がかかるんじゃ……?」


 クズノハ邸に初めて来たリーサリナは、目を丸くしていた。


「大丈夫、クズノハってこの辺じゃ医者として通っているらしいから。お金は結構あるんじゃないかな。……クズノハ、マグだよ。ローアたちを連れてきたぞー」


 コンコンと玄関の扉を数度ノックするが、おかしいことに反応がない。


「誰かとのふれあいに常に飢えてるクズノハが出てこないって、珍しいね」


 フィアナの言う通り、この辺では友人も皆無なクズノハは訪ねると速攻で出てくる。

 普段なら尻尾を嬉しそうに左右に振りながら出てくるところだが……。


「んっ、鍵もかかってないぞ」


 軽く引くとキィと軽い音を立てて扉が開く。

 ううむ、妙だな。


「ひとまず入ってみましょう? 少し心配よ」


 マイラの言葉に全員が頷き、俺たちはクズノハ邸に入っていった。

 居間にはもう、出来上がった料理が並んでいる。

 かなり豪華に作ってあり思わず近づくと、湯気が立っているのに気がついた。


「まだできて時間も経ってないってことは、クズノハは家の中にいるのか?」


「それじゃあ、捜索開始だね〜!」


「あの、ローアさん。ここは一応クズノハさんの家なのでは……?」


「気にしたら負けっ! こういう時は楽し……じゃなくて行動あるのみかなーって!」


 楽しむ気満々なローアは、トテテと居間から出て行く。

 マイラたちは元気いっぱいなローアが何かやらかさないか心配らしく、顔を見合わせてからその後について行った。


「……クズノハには悪いかもだけど、ローアの気持ちは分かるな」


 苦笑しながらそう独り言ちる。

 魔道具やら魔導書などなど、気になったものを端から買い漁っているクズノハの家に何があるのか、正直気になるところはある。

 クズノハを探すついでにあれこれ見て回ろうと、結局は俺もローアみたく好奇心に負けてしまった。


 ローアたちとは反対方向に歩くと、そこかしこに部屋があるのがすぐに分かった。

 ノックをしてからドアを開け、クズノハがいないか確認して回るが、中は客室だったり書斎だったり……物置っぽい部屋だったり。


「見当たらない……まさか家にいないのか?」


 でもあの几帳面なクズノハが、玄関扉の鍵をかけ忘れて出かけるとも思えない。

 ついでに料理を放って行くとも思えないし、やはりこの家のどこかにいるのだろう。


「案外その辺で昼寝中だったりしてな。料理も豪華だったし、作るのに疲れたとか……ん?」


 進んだ先、一番奥に重々しい金属製の扉が見えてきた。

 廊下の魔力灯も付いておらず、周囲の薄暗さもあって妙な威圧感を感じる。


「この中か……? クズノハ、いるのか? 悪いけど、勝手に上がらせてもらっているぞ」


 一応ノックをしてから、重たい扉をギィィと開けるためにドアノブに手を掛ける……が。


「冷たっ!? ……よく見たらドアに霜が付いてるな」


 しかも近づいて分かったが、中から神獣特有の魔力を感じる。

 つまり中にクズノハがいると思うのだが、ノックにも反応がない。

 ……まさか、中で閉じ込められて氷漬けになっているとかないよな?


「おいおい、シャレにならないぞ。……仕方がないか!」


 中のクズノハがノックに応じないとなれば、緊急事態と判断して強硬手段に出るべきか。

 思い違いだったら後でクズノハに謝ろうと思いつつ、俺は少し後ろへ下がってから腰の長剣を引き抜いた。

 そのまま長剣に宿っている不死鳥の爆炎を引き出し、凍てついた扉へ突撃するように接近しながら長剣を叩き込んだ。


「──せいっ!!」


 厚みのある扉は不死鳥の爆炎に耐えきれず、溶断されるようにして一部が吹っ飛び、大穴が開いた。

 そして部屋の中から身も凍るほどの冷気が漏れ出し、同時に……


「マ、マグーっ! お主ならどうにかしてくれると信じておった! 妾は危うく冷凍九尾になるところだったぞ……!!」


 凍った部屋の隅で三角座りしていたクズノハが、俺に気づいた途端にぴょいっと飛びついてきた。

 服や尻尾の端が凍っていて、既に体の芯まで冷え切っている様子だったので、ひとまず長剣から出る炎で暖を取らせる。


「……それでクズノハ、どうしてこんなことに?」


 部屋から出て問いかけると、クズノハは震えながら説明をしてくれた。


「実はな……最近王都で流行りのアイスクリームケーキなる品を作ってお主らに振る舞おうと思い至ったのだ。しかし溶けやすいゆえ、この家にある冷蔵用の魔道具をこの部屋に持ち込み、保管していたのだが……」


「していたのだが……?」


「……魔力の調整を誤り、一瞬で部屋ごと凍ってしまったという顛末だ。それで扉も凍りつき、脱出も不可能に。ついでにうるさい魔道具はここで実験をしているから、壁や扉は音を遮断する機能付きで。もう助けも呼べなくてな……」


 クズノハは珍しくしょんぼりしていて、よほど心細かったらしい。


「そう言う話なら、ともかく助けが間に合ってよかったよ。年越し前に凍りついたクズノハを溶かす作業なんてしたくないからな」


 冗談交じりにそう言うと、クズノハは軽くぺこりと頭を下げてきた。


「すまぬ、招いたはずがこのような有様で。しかし例のアイスクリームケーキは、ほれ。あのように完成しておる」


 クズノハが指した先には、精緻な細工の施されたケーキが机に乗っていた。

 見た目は豪華なケーキそのものだが、フルーツの代わりに氷細工が乗っている。

 あれもクズノハが作ったのか。


「おぉ、上手いもんだなぁ」


 アイスクリームは前に王都で一度食べたことがあるくらいだから、味の方も楽しみだ。


「ではお主よ。妾の方も体が暖まったし、片付けは後にして食事にしてしまおう。腕によりをかけた料理も冷めてしまうし、ケーキも溶ける前に食べてしまいたい」


「片付けと言えばこの扉、思わず破っちゃったけど……」


「気にやむことはない。寧ろお主が破ってくれなければ妾は今頃冷凍九尾よ」


 クズノハは乾いた尻尾や耳をぴこぴこ動かし、俺の背を両手で押して居間へと向かって行く。


「ちなみにローアたちはいずこへ?」


「ローアたちなら、もう居間に戻ってると思う」


 そう言いつつ、居間に入ったところ。


「おぉ〜! 冷たくておもしろーい!」


「ローア、その魔道具どこから持ってきたのさ? 何か冷気を吐き出してるけど?」


「氷を作る魔道具、ケルピーとしては興味深いわね」


「はわわ、勝手に持ち出してよかったのでしょうか……?」


 居間ではローアたちが、先ほどクズノハが被害に遭っていた魔道具と似たようなものを弄っていた。


「……クズノハ、ちなみにアレは?」


「……うむ、実はアレも冷蔵用の魔道具でな。外見は少し違うが、あの部屋にあったものとほぼ同じ物と言えよう……あっ」


「お兄ちゃん見て見てー! これ、わたしの魔力を流すと冷たくなるの! もっと魔力を流したらどうなるかな……?」


 そうしてローアが笑顔で魔道具へと大量の魔力を流し込もうとした瞬間、俺とクズノハは即座にローアから魔道具を取り上げた。


「あーっ!? 二人とも何するの!?」


「ローア、これはダメだ! 本当にダメなヤツ!!」


「う、うむ。この手の魔道具は改良を加えるまで使用を禁じた方がよいな……!!」


 こうして俺とクズノハは冷や汗を流しながら、密かに迫っていた危機を退けたのだった。

 なお、ローアは魔道具を取り上げられて拗ねてしまったが、クズノハの美味しい手料理とアイスクリームケーキを食べたらすぐにご機嫌になってくれた。


【お知らせ】

ナナイロコミックスとpixivコミックで連載中の『世界最強の神獣使い』コミカライズですが、Book WalkerやLINEマンガ、Rentaやコミックシーモアなどなどで1話目の配信が始まりました!

今後は2話目3話目の配信も始まるかと思いますので、よろしくお願いいたします!

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