後日譚その1 押しかけドラゴン
【お知らせ】
本日よりコミカライズ版【世界最強の神獣使い】の連載が始まりました!
漫画サイト「ナナイロコミックス」「pixivコミック」での連載ですので、ぜひチェックしてみてください!
今後他のサイトでも配信予定ですのでよろしくお願いします!
最後の【魔神】を倒していくらか経った頃。
【魔神】がこの世から消えても、俺たちの生活は特に変わらない。
毎朝適当な時間に起きて農作業やら釣りなどを行い、日々の糧を得るのだ。
そう思いつつ、今朝も朝日を部屋に入れるべくカーテンを思い切り開いたのだが……。
「「「おはよー!!!」」」
──えっ、誰だこのちびっ子たち。
窓からこちらを覗き込みつつ大きな声で挨拶をしてきたのは、三人のちびっ子。
青色の髪の男の子が一人に、双子と思しき緑髪の女の子が二人。
一見して三人とも元気のいい子供だが、よく見れば頭に二本の角が生えていた。
「ローアと似ている角……。って、この前渓谷で会った子たちじゃないか?」
窓を開けて聞くと、三人はこくりと頷いた。
「はい! ところで、ひめねーさまはいますか?」
「わたしたち、ひめねーさまのにおいを追ってきました!」
「けーこくのなかは飽きちゃったから、こっそりきぶんてんかんってやつ!」
「……」
何と反応を返していいのやら、頭を抱えたくなった。
源竜渓谷でも巣立つ前のドラゴンの子供を何度か見かけたけれど、この子たちも年齢的にはそんなものだ。
そしてドラゴン特有の優れた嗅覚で姫姉さまことローアを追いかけ、渓谷を抜け出してきたと。
口調からして多分、そんな感じだろう。
「成体のドラゴンたち、今頃は大慌てだろうなぁ……」
ドラゴンは長寿かつ頑健な体を誇るため、生まれる子供の数も少ないのだとか。
だからこそ子供は安全な渓谷の中で、大切に育てられるのだ。
……そんな子供たちが三人も脱走すればどうなるか、想像するのは難しくない。
「三人とも、せっかく来てもらったところ悪いけど、ローアが起きたら渓谷に帰るんだ。親御さんたちもきっと心配しいていると思うぞ?」
そう言った瞬間、三人はぴょいっと跳躍し、窓から侵入して俺に飛びついてきた。
明らかに子供の脚力ではないが、流石はドラゴン。
ちびっこでも常識はずれだ。
「やだやだやだー!」
「【呼び出し手】のおにーちゃん、ちょっとくらいゆるしてよー!」
「ここに来るまでにベヒモスにも追われてたいへんだったもん! のんびりしたーい!」
「脱走した上、ベヒモスに追われながら来たのかよ……」
ベヒモス、【四大皇獣】の中の一種。
王都でぶつかり合ったのは鮮明に覚えているが、まさかそんな危ない魔物と出くわしていたとは。
無事でよかったというか、それでもここまで来た根性は褒めてやりたいような複雑な気分にさせられた。
「ひとまずどうするか本格的に考えるのは、ローアが起きてからだな」
最悪ローアと一緒に、渓谷まで子供たちを送り届けなくてはいけない。
それまでこの子たちには、家の中で大人しくしていてもらおう。
クズノハが前に持ってきていた菓子の残りがあった筈だし、取り出してあげてみようか。
そんな訳でゴソゴソと居間の棚を漁っていたら、家の奥から気の抜けたようなあくびが聞こえてきた。
「ふあぁ……あ、ご主人さま。おはよ。妙に早いけど、朝風呂とか?」
「フィアナ、おはよう。実は朝風呂じゃなくてだな」
事情を説明しかけると、何を感じたのか俺の部屋のドアが大きく開いてチビ三人組が飛び出してきた。
「あーっ、ふしちょうだ!」
「ふぇにっくす! ふぇにっくす!」
「ぼくのお父さんが言ってたよ? ふしちょうはドラゴンの天敵だって!」
「「「うーん……やっつけよーっ!」」」
「あっ、こら!」
おかしな方向で意気投合したチビ三人たちが、フィアナに向かって突撃して行った。
フィアナは目を丸くしていたが、抱きつかれるようにチビ三人に体当たりされ、こけてしまった。
「おお〜、ふしちょうのお姉ちゃん、なんかやさしい匂いがする!」
「あったかーい!」
「やっつけなくても……いっかな?」
「あっ、こらチビたち! どこ触って……あはははっ、くすぐったいよっ!」
ドラゴンのチビ三人はフィアナを倒そうと向かって行ったはずが、いつの間にかフィアナを囲んですんすんと匂いを嗅いだり抱きついたりしていた。
「ご、ご主人さま!? この子たちご主人さまの部屋から出てきた気がするけど、どゆこと!? 隠し子!?」
「うーん、説明すると複雑なようでそうでもないような感じなんだけどさ……」
ざっと事の顛末を説明すると、フィアナは三人を撫でながら複雑そうな表情になっていた。
「やんちゃな子供が大脱走かぁ。そのうち親の方が迎えに来そうだけど……ま、それまでは可愛がってあげるかね。ほれっ!」
「おねーちゃん、くすぐったいよ〜っ!」
フィアナはさっきのお返しとばかりにドラゴンの子供三人をくすぐり返していた。
ローアと出会った当初はドラゴンに対してあまりよいイメージがなかったらしいフィアナも、ここでの生活や源竜渓谷での経験で大分丸くなった気がする。
「フィアナー、朝からうるさいよー? せっかくぐっすり寝てたのに……」
フィアナとチビ三人の騒ぎで目覚めたらしく、ローアも目をこすりながら部屋から出てきた。
すると「ひめねーさまだ!」とフィアナから離れ、わちゃわちゃとローアに寄って行く三人。
ローアは目を丸くしながらも、少し責めるような口調でチビたちに尋ねた。
「三人とも、何でここにいるの? もしかして、勝手に出てきちゃったの?」
「うんっ! むかし、ひめねーさまも渓谷から勝手にでていったって、セイナから聞いたから!」
それを聞くや否や、ローアは明後日の方向を向いて閉口してしまった。
……痛いところを突かれたと、ローアの表情に出ている。
「と、ともかく! 縄張りも作れない子供が勝手に渓谷から出て行ったらダメなんだからね?」
「「「はーい」」」
ローアの言葉に、意外と素直に頷いたチビ三人。
やはりドラゴンにとっては、縄張りの有無が成体として認められるかどうかのラインになっているらしい。
「それでローア、どうする? この子たちは俺たちで源竜渓谷まで送り届けるか?」
「うーん、多分大丈夫。きっと匂いを辿って両親たちが迎えに来ると思うから」
ローアはフィアナと同じような物言いをしていた。
ううむ、となればだ。
「だったら親のドラゴンが来るまで、しばらくこの家で待っていてもらうか」
「うん、それがいいよ。何より、放り出したらどこへ行っちゃうか分からないから」
そう言いつつ、ローアはチビ三人の頭を撫でていた。
こういうあたりはお姉さんっぽくローアも振舞っているが……。
「うーん、ひめねーさまよりふしちょうのおねーちゃんの方が、なでなで上手かも?」
「なっ……!?」
チビの言葉に愕然としたローアが固まった直後、チビ三人はフィアナへと殺到した。
「おねーちゃん、抱っこー!」
「うーっ、やさしい匂い……」
「あー、はいはい。分かったから順番よ順番」
フィアナは何だかんだ言いつつ、チビたちの相手をしていく。
ミャーの世話もそうだが、意外とフィアナは面倒見がいい。
ドラゴンの子供たちも、本能的にその辺りを悟ったのだろうか。
「う、ううっ……! ほ、ほら! 不死鳥よりもドラゴンのお姫さまの方がきっといいかなーって。皆についても詳しいもん!」
妙に必死なアピールをするローア。
しかしそんなローアを見て、フィアナは大人気なくニヤニヤし出した。
「ふふーん……ぎゅーっ!」
「「「〜〜〜〜♪」」」
三人まとめて抱きしめたフィアナに、チビたちは明らかにご満悦だった。
ローアの言葉も耳に届いていない様子だ。
……ローアを目当てにやってきた三人とも、それでいいのか。
するとローアは何を思ったのか、頬を膨らませてこちらにやってきた。
それから椅子に座っていた俺の膝の上に腰掛け、正面からぎゅーっと抱きついてきた。
「ふーんだ! いいもん! フィアナが子供達の相手をしている間、わたしはお兄ちゃんの膝の上に乗ってるから!」
「あっ、ローア! たまにはあたしも乗ってみたい!」
「二人も膝の上に乗らないから、ローアだけにしてくれ……」
そう言いながら謎の拗ね方をしているローアを撫でつつ、ふと思った。
──やっぱりローアも、こういうところはまだ幼さが抜けきらないなと。
……それからなんやかんやで、チビ三人が遊び疲れて昼寝をした後。
夕方、セイナーシスたち成体のドラゴンが「失敬、ベヒモスをシメるのに想像以上に時間がかかった」とぼやきながらチビたちを迎えにやって来た。
起きたチビ三人は今日の思い出を口々に両親へ伝えていたが、逆にもう二度と脱走するなと怒られている始末だった。
当たり前だけど。
そしてこの後、俺たちの家の位置を知ったセイナーシスがたびたび訪ねてくるようになるのだが、その話はまた別の機会に。
今後も後日譚なども投稿していければと思いますので、コミカライズと共によろしくお願いします!
そして新作【神竜帝国のドラゴンテイマー、無能だと追放されたので竜姫のもとでスローライフを送る】も始めました!
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