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世界最強の神獣使い  作者: 八茶橋らっく
第6章 【最後の魔神】
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73話 【神獣使い】と神獣との日々

 源竜渓谷にて最後の【魔神】の侵攻を退け、早一月ほど。

 悪魔の軍勢を前に、流石のドラゴンたちにも被害が出たらしかったが、奮戦の甲斐あって渓谷内部には一体たりとも侵入されなかったとか。

 それから竜王にはよく感謝をされたり「そなたも竜となって我が娘の婿にならぬか」などと不思議な申し出もされたりしたが……それはさておき。


「はぁ〜、今日もいい湯加減だな……」


 【魔神】を倒した後、家に戻っていた俺は、湯治も兼ねて昼間から温泉に浸かっていた。

 適当な時間に畑仕事をして、自由にのんびり温泉に浸かる。

 素晴らしいスローライフに戻ってきたのだと、じんわりとした実感があった。

 それからぐっと腕を伸ばすと、薄く傷の跡が残っているのが目に入った。


 ──俺の体も少し傷跡が増えたけど……そういえば。


 体といえば、最後の【魔神】を倒してどうにか目を覚ましてから、俺はマイラやクズノハにあれこれと体中を調べられたのだ。

 そうしたら……俺の魂は、初代と源竜渓谷の魔力で再構築されたことで、ちょっとだけ性質が変化していたようで。


 その影響か、俺のスキルは魔物や神獣の【呼び出し手】というより、単に神獣と心を通わせる【神獣使い】とでも言うべきものに変化したらしい。


 これまで周囲の魔物にダダ漏れだった心の声というべきものは、今では神獣たちにしか聞こえないものに変化したとか。

 ……もしかしたら、初代が魂を再構築する過程で何か手を加えてくれたのかもしれない。

 というより、あの人のことだから、きっとそうしてくれたのだと思う。


 それはつまるところ、俺はもう例の指輪がなくても、魔物を引き寄せない体質になったということだ。

 だからもう、やろうと思えばこの山から離れて、どこへでも自由に行ける。

 また王都にあるクズノハの家にだって、自由に遊びに向かえるのだ。


「でも、やっぱり住むならこの山だな。ここ以上に住みやすい場所って思い付かないし」


 神獣の皆と過ごしていくという意味でも、辺境の山奥は都合がいい。

 いくら自分がローアたちとの暮らしに慣れているとはいえ、やはり世間から見れば、彼女たちは伝説の神獣に違いないのだから。

 そして……。


「うんうん。わたしが守る縄張りにいた方が、お兄ちゃんも快適だと思うもん」


 隣でタオルを巻いて温泉に浸かっているローアが、当然だと言わんばかりに頷いていた。

 ……一度自分が死にかけて以来、ローアは以前よりもべったり気味になってしまっていた。


 治療の後、源竜渓谷でローアたちから「二度と一人で無茶はしない」「危ないことは必ず神獣たちと一緒に」と延々と説教を受け続けたのだが……これもあの事件の反動なのか。

 特にローアとは四六時中、可能な限り一緒にいるような状態が続いていた。


 なので今ではもう、一緒に温泉に入っていても特に何も言わなくなっていた。

 ある意味、慣れとは怖いと思うが、今はこれで構わないとも思っている。

 ローアにはあの時、散々怖い思いをさせたのだから、これくらいは構わないだろう。


「それとお兄ちゃん。住む場所はずーっとここだとして、今度はどこへ旅行に行く? せっかく自由に出歩けるようになったんだから、もっともっと遊んでもいいと思うよ?」


「俺も色んなところには行きたいけど、しばらくはこの家で皆と一緒に過ごせればいいかな。この前あんなことがあったばかりだし、できればゆっくり休みたいからさ」


 そう言いつつ少し深く浸かっていると、ローアは頬を膨らませてしなだれかかってきた。

 二の腕に感じる頬の感触が暖かく、柔らかい。


「もう、お兄ちゃんはわたしの乗り手なんだから、もっと欲があってもいいと思うよー? せっかく【魔神】も全部倒したんだから、襲われる心配もないし。この世にはもっともっと素敵な場所とか、あるかもしれないよ?」


「それはもしかしたら……いや、どうかな」


 あの戦いで死ぬ寸前まで追い込まれた時、そして目覚めて皆と再会できた時、よく分かったのだ。

 俺たちの暮らすこの場所以上に素敵な場所は、この世のどこにもないと。

 だからどこへ行ったとしても、結局最後には「(ここ)が一番だ」と胸を張って言うのだろう。

 ……長々とそんなことを考えていたら、少しだけのぼせてきた。


「もう上がる頃合いかな。そろそろ昼食だし、皆も待ってる」


「そうだね。今日は皆が頑張って作ってくれるって言っていたから、きっともうできてるよ!」


 それから俺とローアは、家の様子を窺おうと耳を澄ませてみた。

 ……すると。


「リーサリナ!? 妾に塩ではなく砂糖を渡したな!?」


「はわわわ、す、すみません!?」


「だったら、わたしの水で薄めてから味付けを変えてみる?」


「あたしの炎じゃ……うーん、炭ができて終わりそう。皆、頑張ってね!」


「これフィアナ、逃げるでないぞ!?」


「「……」」


 何やら賑やかだが、上手くいっていないらしい。

 その様子を悟ってか、ローアは半ば呆れたように笑っていた。


「もう、やっぱり調理はお兄ちゃんじゃなきゃダメみたいだね〜」


「慣れもあるから仕方がない。中に戻って、皆を手伝おうか」


「うんっ!」


 ローアは大きく頷き、小さな手で俺の手を引いて、温泉から上がっていった。


 ***


 こんな調子で、最後の【魔神】の脅威を退けた俺たちの日常は続いていく。

 時に騒がしく。時に穏やかに。のんびりと。


 最初にスキルを授かった時はどうなることやらと思ったけれど、今なら【デコイ】こと【呼び出し手】スキルを授かって良かったと思えている。

 何故なら、どんな時でも一緒にいてくれる皆とこうして出会えたから。


 街を追い出されたあの時は「死んでたまるか」の一心だったけれど、まさかこんな未来が待っているとは思ってもみなかった。

 ……誰しも、諦めなければどうにかなる。

 その時は暗く絶望に沈んでいても、きっといつかは明るい未来を手にできる。


 そう思えるくらいには今の俺は前向きで、皆と一緒に色んなものを得られたと感じている。

 きっと俺はこの先一生、この暖かな日々を忘れることはないだろう。


「そしてできることなら、このままいつまでも皆と共に」


 そんなありふれた願いをこの広い空に託しながら、俺は今日も、一人の人間として皆と生きていく。


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