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世界最強の神獣使い  作者: 八茶橋らっく
第6章 【最後の魔神】
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69話 【神獣使い】vs最後の【魔神】その2

※昨日投稿したお話が計8000文字以上あったので2つに分割しました。

これで多少読みやすくなったかと思いますので、ご容赦ください。

「はぁーっ!!」


 ローアは旋回しながら、【魔神】ファルヴードにブレスを叩き込んでいく。

 しかしファルヴードは自由自在に飛び回る上、ドラゴンのローアからすれば的が小さすぎる。

 三発の閃光のブレスを最小限の動きで躱し切りながら、ファルヴードはこちらへ向かってきていた。


「お前、俺を倒してどうする気だ! 仲間の敵討ち……なんてふうには見えないけどな!」


『よい質問ですね、その通り。我が願望はそんなものではなく、君を倒した先にあります』


「俺を倒した先……?」


『ええ、我が望む世界を取り戻すことです。やかましい人間と神獣を消し去り、世界をあるべき姿へ、静かなる太古のそれへと導く。……そのためにまず、私の天敵である【神獣使い】には消えていただく』


「太古だと……?」


 人間と神獣を消し、世界を太古へ戻す。

 話があまりに壮大すぎて、突飛なものにしか聞こえてこない。

 奴が望む世界とやらが何かは分からないが、ひとまず奴には人間も神獣も、邪魔なものにしか見えていないのはよく分かった。


 ──こんな危険な奴を、外へ出す訳にはいかない!


「ローア、俺を【魔神】の方に!」


「いっくよーっ!」


 ローアが一回転し、背にいる俺をファルヴードへと投げ飛ばす。


『真っ向勝負、いいでしょう。その趣向は悪くない』


 ファルヴードが大鎌を振り上げた直後、こちらも長剣の力を解放。

 爆炎で体を強化し、筋力を跳ね上げてファルヴードに斬りかかった。

 さらに神獣の力と大気中の魔力を集約、噴射して、一閃の速度を跳ね上げた。


「はぁっ!」


 火花を散らして衝突する長剣と大鎌。

 ファルヴードは目を細めた。


『その構えに、魔力で刀身を加速させる斬り込み方。原初の【神獣使い】を彷彿とさせますね、実に心が踊る』


「まだまだっ!!」


 余裕を見せるファルヴードに対し、水の腕輪の力を解き放って脚部に纏わせ、宙で体を捻って蹴りを叩き込む。

 当然、こちらも魔力噴射で急加速をかけて爆速の域に達するもの。

 しかし蹴りは盾のように割り込んできた瘴気で防がれ、強化した蹴りと衝突して火花を散らした。

 ……だが、こちらもまだ止まらない。


「食らえっ!!!」


 防御の隙間から、水の力を纏わせた左の裏拳の追撃を叩き込むが、ファルヴードは瘴気を残して遥か真上へと退避した。


「逃したか……!」


 あそこまで距離を取られては、跳躍しても届かない。

 俺は固体化した瘴気を蹴って、ローアの背に戻った。


『今の一連の動き、デスペラルドの記憶にも、ましてやアスモディルスの記憶にもありません。まさか短期間でここまで腕をあげようとは、成長期ですね』


「余裕でいられるのも今のうちだ!」


 ローアの力がこもった短剣を抜き放ち、神獣の魔力を集約。

 虹の極光を束ねた刀身を生み出し、長剣と合わせて二刀流で構える。

 クズノハからもらった魔導書やマイラの水の腕輪、そしてリーサリナの羽根やアオノのネックレスなど、持ち込んだ神獣たちのアイテムの力を開放して武装へ回す。


『私をも滅しかねないその力、素晴らしい。まさに、此度の()の主賓に相応しい輝き』


 ファルヴードはそう呟き、その身に薄くまとっていた瘴気を完全に消し去り、手にした大鎌へと注ぎ込んだ。


「あの【魔神】、防御を捨てちゃった……!?」


『この程度の瘴気など、君の主が使う輝きの前では木っ端も同然。それほどの力を見せられては、こちらも弱腰では無作法でしょう』


 ファルヴードはローアにそう返し、神速の飛行能力で突っ込んできた。

 ローアは振り切ろうと飛び上がるが、明らかにあちらの方が速い。


『さあ、君たちの輝きも存分に発揮してください。より苛烈に、より火花を散らし、共に愉しみましょう。生を感じるこの瞬間を!』


「楽しいだと……? これの、どこがだ!!」


 ローアの背から跳躍し、ファルヴードと斬り結ぶ。

 アスモディルスの本体であった瘴気を削るほどの双剣斬撃、だがファルヴードの大鎌のいなしを突破しきれない。


 奴は大鎌を軽い槍でも扱うかのように縦横無尽に振り回し、防御の合間にこちらの喉笛を狙ってくる。

 奴はデスペラルドの大鎌捌きをも完全に複製し、己のものとしていた。


 ──こうなれば、飛行できないこちらはこのまま落下するのが関の山か。

 そう思った最中、胸元が淡く輝きを放っていた。


「これ、リーサリナの……!?」


 気がつけば、俺の体は落下せずに宙に浮かんでいた。

 どうやらリーサリナからもらった天馬の羽根の力らしく、魔力を消費すれば高所からの落下を防ぎ、滞空が可能になるようだった。

 そこにありがたさを感じながら猛攻を仕掛けるが……やはり、このままでは奴の防御は突破できない。


 ──まだ早さが足りない。純粋な力で劣るなら、圧倒的な手数で押し切れ!


「うおおおおおおッ!!!」


 不死鳥の長剣から爆炎を引き出し、体を再強化。

 次いで強化した肉体にものを言わせ、攻撃の速度を跳ね上げんと、魔力噴射による身体加速を矢継ぎ早に行っていく。

 この加速は周囲空間の魔力を食い尽くして発生させる荒技であり、あまり長くは保たない。


 けれどその甲斐あって、ファルヴードを真正面から押し込んでいる。

 奴の大鎌の防御も、あちこちに綻びが見られる。

 防御を突破して装甲の端々に何度も刃が届き、火花を散らしながら奴を斬り削っていく。

 初代との修行の成果が確実に現れている実感に、胸が熱くなる思いだった。


「──お兄ちゃん!!」


「──合わせるぞ!!」


 こちらが空中でファルヴードと対峙している間、直上に回り込んで口腔に魔力を溜め込んでいたローアが、遂にブレスを解放せんと輝きを最高潮に高めていく。

 俺も一瞬魔力を貯め、クズノハの魔導書の力を借り受け、魔術の要領で即興の詠唱を開始。


「光の奔流、奴を飲み込めッ! ──光鱗竜醒ライトニング・ドラギオン!!!」


 虹の極光を帯びたローアの短剣を起点に神獣の力を集約し、ブレスを横薙ぎにするイメージで極大の斬撃を叩き込む。

 魔術の要領で神獣の力を一点に集約した神速の一撃は、閃光を吹き散らしてファルヴードの防御の動きすら超越し、奴の首に届こうとしていた。

 同時にローアのブレスが真上から奴に放たれ、その周囲は回避不能の布陣と化した。


「終わりだ、最後の【魔神】!!!」


 いかに全盛期の力を持つ【魔神】でも逃れられない殲滅攻撃に、これならばと思った矢先。


「……なっ!?」


 ──体の動きが、止まった!?


 ガチリと体が固まり、動かなくなる。

 どんなに力を込めても、指先すら伸ばせない。


「え、ええっ!?」


 ローアの放ったブレスも、ファルヴードに当たる直前……大きくねじ曲がり、城の一角を破壊するに留まった。

 あれだけの魔力を解放したにも関わらず、ファルヴードにはかすり傷ひとつ付いていない。

 超常の現象に、心臓を鷲掴みにされたかのような悪寒が走った。


『ああ……私に奥の手を使わせるとは。やはり強者との戦は愉しい。我が力を余さずぶつけることが叶う、千載一遇の機会ですね』


 ファルヴードは鋭く好戦的に口角を持ち上げた。

 その体からは、四方八方を黒く塗り潰すかのような魔力が放たれているが……。


 ──この城を覆っていた、空間の侵食? ……いや、違う……!?


 奴は先ほども今も、自由自在に宙を飛んでいる。

 しかも同じ魔力を纏う、この城も同様に浮かんで……まさか!


『これぞ私の【魔神】としての権能。空間を制御し意のままに統べる、天上の神にも等しき力』


「くっ……!?」


 ──悪魔の軍勢と、瘴気をばらまくこの城以外に、まだ能力が!?


 超重量の巨城を浮かせ、自らも自在に飛行し、対象の動きを止め、果てはブレスの軌道すら空間ごと捻じ曲げる……絶対的な、空間制御能力。

 それが奴の、【魔神】としての真の固有能力。


 この城自体が、瘴気を吹き散らす以外に浮遊する力を持っているかと思っていたが、それは大きな間違いだった。

 最初から、奴自身が能力でこの超重量の城を空に浮かせていたのだ。


 全盛期の【魔神】とは一柱だけでもここまで馬鹿げた力を誇るのかと、動きを封じられたまま唸る。


 ──まずい、奴の大鎌が振り上げられて……!


『よい宴でした。私にここまで引き出させた君の力、亡骸よりぜひ取り入れたい』


「させないもんっ!」


 ファルヴードが大鎌を振り下ろしかけた途端、真上からローアが、ブレスを牽制として放ちつつ突っ込んできた。


『小賢しい……むっ?』


 ファルヴードがブレスを捻じ曲げた隙に、ローアは静止していた俺を咥えて飛び去った。


「お兄ちゃん、大丈夫!?」


「あ、ああ。体は動く。それに……」


 ファルヴードは直上にいたローアの動きは止められず、代わりにブレスを捻じ曲げた。

 つまりあの空間制御能力にはある程度、距離などの制約が付いているはずだ。


「ローア、あいつに近寄るとまた動きを封じられる! このまま距離を取ろう!」


「でも、それじゃああの【魔神】を倒せないよ……!」


 ファルヴードは余裕そうに大鎌を振り回し、旋回するこちらを見つめる。

 ローアの言う通り、このままでは奴を倒せない。

 自由自在に飛び回る奴を倒すには、接近して動きを止めるしかない。

 今の俺の技量なら、正面から奴を押し切れるのはさっき判明している。


 けれどそれは、あくまで自由に動ける場合だ。

 接近したら最後、奴に動きを止められ、無抵抗で大鎌の餌食になるのを待つしかない。

 その上、ブレスなどの遠距離攻撃でさえ、空間を捻じ曲げられて無効化される。


 ──これが二柱の【魔神】を取り込んで、全盛期にも等しくなった奴の力。攻防共に隙がない……!


 今更ながら、デスペラルドもアスモディルスも不完全体ゆえに能力を制限されていたのだと悟った。

 対峙するだけで死の予感を強く感じさせられたあの二柱でさえ、奴の前では霞んでしまう。


 ──ファルヴード……奴の強さも魔力も、あまりにも底が知れない。

 あんな化け物、真正面から打ち破る手段なんてあるのか。


 絶望的な彼我の戦力差が心に重くのし掛かった須臾……夜空を流れる彗星のように、とある考えが脳裏を掠めた。


「……待てよ。底が知れない……?」


 奴から感じる魔力自体は、同じ【魔神】だったデスペラルドすらも優に上回る。

 けれど、この世に真の意味で無尽蔵なものなど、本当に存在するのだろうか?


「いいや、そんな訳がない……」


 現に今、奴の魔力は当初よりもいくらか削れている気がする。

 ……より正確には、炎にくべる薪のように、時間を追うごとにゆっくりと減少している気配だった。

 奴の魔力は有限。

 初代のもとで周囲の魔力を感知する術を身につけた今だからこそ、それが分かる。


 ローアは言った。

 ドラゴンが縄張りを持つ理由は、そこにある地脈から力を得るためだと。


 フィアナは教えてくれた。

 不死鳥は火山に住み、そこから熱や力をもらっていたと。


 あんなにも強大な神獣たちでさえ、消費した力や魔力を自然界より補給して生きているのだ。

 ……では、あの【魔神】はどうなのか?


 奴は既に、俺たちが倒した二柱の【魔神】の力を吸収しているようだ。

 しかし奴はそれでもなお魔力が足りないからと、俺を確実に倒しきる算段をつけるために源竜渓谷までやってきた。


 あんなにも強大な【魔神】が、さらに特大の魔力を欲する理由。

 それは……。


「……まさか、そういうことなのか?」


「お、お兄ちゃん……?」


 首をこちらに向けてきたローアに、俺は考えを纏めて答えた。


「……魔力だ。奴の唯一の弱点は恐らく、魔力の消費量! 多分、奴があんなにも凄まじい魔力を持っている理由は……浮かぶ城、悪魔の軍勢とそれらを囲む瘴気に、あの空間制御能力、これら全ての維持に膨大な魔力を消費するからだ」


 ……そう、おかしいと思ったのだ。

 これほど強い【魔神】が、直接渓谷を攻め落とさずに城の中に鎮座していた理由。

 かつて攻めきれなかった源竜渓谷を、再び正面から相手取ろうというわけ。


 それは奴自身の魔力消費を抑え、なおかつ源竜渓谷ほどの大魔力がなければこの先、奴の能力全てを維持しきれないからに他ならない!


「俺を確実に倒すために多くの魔力が必要だから、奴は渓谷を狙った。……裏を返せば、それは」


「このまま魔力を消費しすぎると、あの【魔神】は能力を維持できない?」


「その可能性は大きく思える。……でなきゃ、初めからあの空間制御能力を使ってこっちを圧倒すれば済む話だし、わざわざ渓谷を狙うなんて回りくどいことをする必要もない」


 空間制御能力は脅威だが、それは奴にとっても膨大な魔力を消費する諸刃の剣。

 そうと分かれば、このまま奴の相手をし続けてやる必要はない。

 要は奴が渓谷を攻め落とせずこのままジリジリと消耗すれば、奴の能力で浮かぶ城はじきに地に落ち、その下にいる悪魔の軍勢も潰れるか、魔力の供給を受けられず滅ぶのではないか。


「ローア。一旦城の外へ出て、皆に知らせないと……!」


()の最中につれないですね。おもてなしの済んでいない主賓を、そうやすやすとお返しするとでも?』


 地の底から吹く風のように低い声音に、背筋が凍る。

 ファルヴードは一直線に飛来して大鎌を振り上げ、小細工なしでこちらを捉えにかかってきた。


※今回の光鱗竜醒のように、書籍版にも灼炎弩弓という大技が出てくるので、もしよければそちらもご確認ください。



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