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世界最強の神獣使い  作者: 八茶橋らっく
第6章 【最後の魔神】
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63話 【呼び出し手】と青年の修行



 セイナーシスに連れられ、渓谷内をぐるりと見て回った、その日の晩。

 相変わらず豪勢かつ独特な旨味のある料理を振る舞われ、腹一杯になった後。

 俺や神獣たちは、昨晩と同じ場所で眠って一日の疲れを癒すこととなった。

 クズノハが魔術で作成した寝具の上に寝転がっていると、俺の横にローアがやってきた。


「ローア、クズノハがせっかく人数分の毛布とか作ってくれたのに、こっちでいいのか?」


「狭いより、一緒に寝てあったかい方がいいもん」


 ローアはそう言いつつ、俺の毛布にもぞもぞと入ってきた。

 ……すると。


「おっ、それならあたしも入っとこっ!」


「フィアナもか……」


 悪ノリして便乗してきたフィアナが、俺を挟んでローアとは別の方に潜り込んできた。

 そんな様子をマイラやリーサリナは微笑ましげに見守ってきたが、じーっとこちらを眺めていたクズノハが一言。


「……明日から全員で眠れるよう、寝具を大きくするかの」


 うむうむと一人で頷いているクズノハ。

 ……我が家でも度々皆と一緒に寝ているから、ベッドを大きく作り直したりもしたが。

 しかし神獣というのは、固まって眠る習性とか、性質でもあるんだろうか。

 そんなことを考えていると、横のローアやフィアナの温かさや甘い匂いもあって、次第に意識が曖昧にまどろんでいき──


 ***


「──ああ、その通りだよ。君の考えたように、どの神獣も故郷では、家族や仲間と固まって眠ることが多い。神獣は皆、愛情深い性質を持つ生き物だからね」


「……っ!?」


 いつの間にか、一面真っ白な空間にいた。

 上下左右、どこを見ても白しかない。

 けれどそんな空間の中、俺の正面には長身の青年が立っていた。

 短く横流しにした金髪に青空のような碧眼、それにすっきりとした顔立ちをしている。

 どこかの国の若き王……不思議と、そう思える気品すら感じられた。


「やあ、君とは初めましてだね」


 気さくな笑みを浮かべる青年は、こちらへとゆっくりと歩いてきた。


「初めましてって。ローアにフィアナ、それに他の皆は……?」


 あたりを見回しながら呟くと、青年が答えた。


「うーんと、それはきっと君と一緒に眠っていた神獣たちかな。それなら大丈夫、ここは君の夢の中だ。現実の彼女たちは、今も君の体と一緒に眠っているよ」


「そうですか、それはよかった……って、そうじゃなくて。ゆ、夢の中?」


 信じられない思いで聞き返すと、青年は頷いた。


「そう、夢の中。ここは言い換えれば、君の精神の世界だ。この真っ白な世界に映し出すようにして、毎晩君は夢を見る。しかし今宵はこうして、僕がこの場所を借り受けているって寸法さ」


「……あなたは、一体?」


 夢の中に入り込む力を持つスキルや魔術……いや、聞いたこともない。

 もしや神獣特有の固有能力かと思ったが、夢を食らうとされるバクですら、夢そのものに入り込めるとは聞いたことがない。

 考えにふけっていると、青年は両手を挙げた。


「おやおや。君の気持ちは分かるが、あまり警戒しないでくれたまえよ。何せ僕には……いや、僕らにはあまり時間がない。あまり余計なことをしている暇はないんだ」


「時間、ですか?」


「そう、時間。何せ僕がこの空間を君から借りていられるのは、君が本来夢を見ている間のみ……つまりは、夜明けまでってことになる。そして僕は今宵の時間を使って、君に早急に教え込まなきゃいけないことがある」


 青年が両手を広げると、手の中に剣が二本、魔術のように現れた。

 それから青年は一本を俺に放り、もう一本を構えて告げた。


「さ、君も構えて構えて。今から君に……戦い方を叩き込んであげよう。修行だ」


「……へっ?」


 いやいや、会ったばかりでいきなり何を言い出すのか。

 それを聞くより先、青年の体が迫ってきた。


「ふっ!」


 正面へ踏み込んでの一閃。

 しかしながら、ただそれだけの動作からさえ高い技量を感じた。

 無駄のない滑らかな、はたまた演舞のようにも思えるほど、美しい動き。

 それでいて残像すら置き捨てた速度で、青年は剣を振るった。

 その速度は……かつて相手をした【魔神】デスペラルドを彷彿とさせた。


「くっ……!?」


 こちらも剣を構えて渾身の受け止めると、足元に大きくヒビが入って、白い空間の一部が砕けた。


「うっ、この……!?」


 今の俺は、神獣の武装を持たず、神獣たちの力で身体強化をしていない状態。

 素のままではあまりに負荷が大きすぎて、体が潰れる……そう感じた刹那。


「……あれっ?」


 別段、体に異常はない。

 足元が砕けるほどの一撃を受けたのに、よろめかずに持ちこたえられている。

 目を白黒とさせていると、青年は言った。


「ふふっ……そう驚くことじゃない。この空間の君の体は、現実のものとほぼ同様の身体能力だがね。しかし君はこれまで、幾度となく神獣の力で体を強化してきただろう。それによって素の体も、次第に強化状態に近づいていった。……これはただ、それだけの話さっ!」


 青年はそう説明をしながらも、剣でこちらを上から押し込んだ直後に回し蹴りを仕掛けてきた。

 回避不能な爆速の蹴りを腹に受け、俺はそのまま数メートルほど吹っ飛んだ。

 反射的に痛みに呻きそうになったが、やはり思っていたほど痛みはない。


「話の最中だったとは言え、油断とはよろしくないね。今のが現実で、僕が本気だったら、君はよくて致命傷だ」


「この……!!」


 どうしてこんな状況になったのかは分からないが、黙って叩きのめされる筋合いもない。

 立ち上がり、覚悟を決めて剣を構えると、青年は薄く笑みを浮かべた。


「その瞳……いいね。僕に食ってかかろうって気配に満ちている。ああ、そうでなくっちゃ意味がない!」


「……ッ!!」


 全力で地を蹴って、青年に肉薄する。

 神獣の力で身体強化をしている時ほどではないが、しかし確かに体は想像以上に軽い。

 ──この人の言った通り、素の状態でも想像以上に動ける!


「ハァッ!」


 横薙ぎに剣を振ると、青年は大きく跳躍して横へ避けた。

 しかしこちらも止まらない。

 勢いのままに回転して方向転換し、そのまま青年に突っ込む。


「反応速度、なかなかによし。だけど……!」


 次の瞬間、青年は剣を投擲してきた。

 予想外の攻撃だったが、まだ対応できる。

 こちらも剣を振って、青年の剣を弾き上げた……が。


「まだまだ、甘い!」


 青年は俺が剣を弾いた直後に真正面に現れ、胴へと拳を叩き込んできた。


「くっ……!!」


 瞬時に後ろへ跳ねて衝撃を和らげるが、掠っただけでも大きく吹っ飛ばされた。

 軽い痛みを感じるより先、驚愕の念に目を見開いた。

 青年は地面に突き刺さった剣を抜き、こちらへ向けた。


「今の君はあくまで、高い身体能力にものを言わせて、獣のように力一杯動いているに過ぎない。剣術も我流、加えて武器で戦うことに意識が向いていて、体全体で戦うことに注意が向いていない」


「体全体で……?」


「そう、体全体だ。人間には今みたいな蹴り技もあるし、拳で殴ることも、頭突きだって可能だ。けれど君はあくまで、我流の荒い戦法……現実では神獣の武装で攻め立てるのみ。その他は回避に全振りだ。……さっきの僕のように、場合によっては剣を投げ捨てる柔軟な選択肢だって、時には必要だ」


「……俺に戦い方を叩き込むって言うのは、要するに」


「そう、実戦形式で君の荒く固い点を矯正しながら、僕の技術を覚えてもらう。君にはこれから最低限、僕の動きについて来れるように……いいや。僕の動きを超えられるよう、全て覚えていってくれたまえっ!」


「んなっ、無茶苦茶な!?」


 青年の動きをみれば分かるが、彼が扱うのは明らかにれっきとした「剣術」だ。

 踏み込みから軽いいなしまで、明らかに即興の業前ではない。

 辺境育ちの俺が我流で剣を振っているのとは、わけが違う。

 そのくせ、獣……いや、神獣じみた反応速度と、細い体から繰り出されるとは思えないほどに暴力的な膂力。


「あの動き、フィアナの長剣で体を強化して、どうにかついていける域だぞ……!?」


 ……だが、夢にフィアナの長剣は持ち込めないし、ない物を考えても仕方がない。

 身体能力で劣っているなら、ここは彼の言った通りに技能を見て盗み、対応するしかない。


 ──それによく考えたら、俺は今まで剣術を習ったことも、戦闘の手解きを受けたこともなかった。


 そう考えれば、これはある意味得難い機会ではないか。

 思い直した俺は、剣を構えてまた青年へと向かって行った。

 

「いい気迫だ。どうせここは夢の中、どれだけ動いたところで肉体的な疲労は溜まらない。思う存分、励んでくれたまえ!」


 この日の晩、俺は不思議な青年との修行に明け暮れ、次第に熱中していくように集中力を増していった。


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