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世界最強の神獣使い  作者: 八茶橋らっく
第6章 【最後の魔神】
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62話 【呼び出し手】とクズノハの師匠

 初代【呼び出し手】の武装などを見学し、彼に関する話をあれこれとセイナーシスから聞いていた最中。

 クズノハがピンと耳を立て、尻尾の毛を「およっ!?」と逆立てていた。


「……クズノハ、どうかしたのか?」


 若干顔色の悪いクズノハに問いかけると、クズノハは歯切れ悪く答えた。


「う、うむ……。何やらよく見知っている魔力をすぐ近くで感じたが……いや、まさか。まさかまさかだが……」


「何がまさかなものか、たわけめが」


 クズノハが頭痛を堪えるように額を押さえていると、洞窟の中に、呆れたような声音が低く響いた。

 その声にクズノハが小さく飛び上がると、急いで洞窟の外へと向かって行った。


「あ、クズノハどこ行くのよ」


 そう言いつつクズノハを追いかけるフィアナに、俺たちも続く。

 そして外に出てみれば、ぽかんと口を開けて空を見上げているクズノハの姿があった。

 一体何事かと、俺も真上を見上げてみるが……。


「……ドラゴン、なのか……?」


 空に飛んで……いや、浮かんでいたのは蛇のように長い体躯の、東洋に住まうとされる種類のドラゴンだった。

 即ち、同じドラゴンでも竜ではなく龍。

 天に浮かぶその巨躯は、この渓谷を統べる竜王と同程度か、それ以上にも思える。

 やはり翼はなく、胴に比べれば短めな前脚と後脚のみが伸びているが、先端には鋭い純白の鉤爪が生え揃っていた。

 全身は銀の鱗に覆われており、太陽の光を反射して虹を放ち、なおかつその虹が輪を描くようにして銀の体躯を包んでいる。

 その神々しい威容に、マイラが呟いた。


「【天輪の銀龍】……!」


 マイラの言葉に、俺は頷いた。

 その異名にここまで合致する存在など他にいないだろうと、直感的に悟ったからだ。

 銀龍は、静かに口を開いた。


「然り。ワシは【天鱗の銀龍】と呼ばれし者、名は……いいや。通り名が銀龍である以上、そう呼ぶがいいとも。東洋の名は、こちらの者たちには発音しづらいであろうからな。そして……お初にお目にかかる、【魔神】を打ち滅ぼした【呼び出し手】とそのともがらよ」


 突然【魔神】を倒していることを見抜かれ、俺は少しだけ驚き、目を見開いた。

 すると銀龍は愉快そうに笑った。


「何、そう驚かずともよい。かつてはワシも主……原初の【呼び出し手】と行動を共にしていた身。その佇まいや周りの神獣の気配、そして最近消えた【魔神】の気配を考えれば、すぐに分かるとも」


 銀龍は少し降りてきて、ふむふむと俺を見つめてきた。


「その、何か……?」


 クズノハの師匠なだけあって凄まじい威圧感だなと感じていると、銀龍は言った。


「いやはや、武装を通してその身に纏う魔力、最早神獣並みかと気になってな。かつての我が主を彷彿とさせる、どうしてなかなか懐かしい気分だ」


 銀龍は愉快そうにカカカ、と笑い声をこぼした。

 それから目を見開き、ぎょろりとクズノハへと向き直った。


「……そして、問題はこの馬鹿弟子だな」


「ひゃうっ!?」


 東洋のことわざである『ヘビに睨まれたカエル』のような状態になったクズノハは、よく見れば小刻みに震えていた。


「修行をサボって長らくどこへ逃げたかと思えば、よもやこんなところで出くわすとはな」


「え、あ、その……っ!?」


 珍しく余裕をなくしてワタワタとするクズノハ。

 流石に庇いに出た方がいいかと思ったが、次の瞬間、銀龍はため息をついた。

 さっきまでは凄んでいる様子だったが、しかし怒り心頭に発するという雰囲気でもない……らしい。


「この馬鹿弟子めが……殊勝にも【呼び出し手】に仕え、【魔神】討伐の一端を担うことにしたのであれば、このワシに便りの一つも寄越すのが礼儀であろう。となれば、ワシも貴様が修行から逃げ出したと腹を立てずに済んだものを」


 その言葉を聞いて、クズノハは目をぱちくりとさせていた。

 ……どうやら銀龍もクズノハを折檻する気はないのかと、俺は胸を撫で下ろす思いだった。

 クズノハも安堵したのか「ほほぅ……」と吐息を漏らしてから、背筋を正して銀龍に言った。


「う、うむ、師匠よ。妾とてただ東の方からこちらへきたわけではない。師匠のように素晴らしき【呼び出し手】と巡り会いたく、旅を続けておったのだ」


 クズノハの言葉に、俺は内心で思った。


 ──嘘だな、と。


 ついでにローアたちも微妙そうな表情をしている辺りから、皆、思ったことは一緒だっただろう。

 俺たちの内心を知らないクズノハは、話を続けた。


「確かに便りを出さなかったのは、弟子として些か礼儀を欠いていたと思う。その件については大変申し訳ない。けれど……師匠はなにゆえに、このような場所へ?」


「このような場所も何も、ワシもドラゴンである以上はここで育ったのだ。生まれ故郷を懐かしんで戻ってきたところで、不都合はあるまい? ……と、言いたいところだが……」


 銀龍は前脚で頭を撫で、考え込むような仕草をした。


「……最近、こちらの方からきな臭い気配を幾たびも感じてな。それを我が古き友……竜王に伝えに来たというのが真の用事だ。別段、馬鹿弟子を追いかけてくるほどワシも暇ではないのでな」


「お父さんに……?」


 ローアの呟きに、竜王が「ぬっ?」と反応した。


「ほう、そこの小娘。我が友の子……姫君であったか。道理で幼いながら、強き魔力を秘めているわけだ。その年頃で【呼び出し手】に力を貸すのも頷ける」


「え、えへへ……」


 褒められたローアはまんざらでもなさげに、照れた様子で頬を緩めていた。

 やはりあの銀龍に褒め称えられるのは、ドラゴンにとっては誉れなのか。

 それから銀龍は竜ノ宮の方へと飛び去ろうと高度を上げたが……その手前。


「若き【呼び出し手】よ」


「えっ……はい」


 答えると、銀龍は鷹揚に告げた。


「ワシにもお前の心の声……魂の響きが聞こえる。我が主に比べれば、少しばかり若すぎるかと思ったが……ふむ。勇ましき鼓動ながら、澄んだ響き、実によし。……その在り方、決して忘れるべからず」


 銀龍はそう言い残し、今度こそその場を去った。

 ……今の言葉は、不思議と自分の心に深く染み入るような響きがあった。

 長年、東洋の神獣をまとめているという、あの【天鱗の銀龍】の言葉だ。

 きっと何か、大きな意味があるに違いない。


 ……そう思っていると、クズノハは俺の肩に手を置いて、言った。


「お主よ。師匠の言うことは大抵意味深だが、あまり深い意味はない。大抵深読みしたところで何も出てこぬから、難しく考えず、妾のように常に自然体でいるといい」


 さっきまでの恐々としていた様子はどこへ行ったのか、クズノハはふふんと胸を張っていた。


「……」


 当然ながら、クズノハは魔術などに精通していることや、こうした大らかな雰囲気も魅力の一つであると思っている。

 しかしながら……銀龍がクズノハを馬鹿弟子呼ばわりしていた意味が、残念なことに何となく分かってしまった……気がした。


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