表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強の神獣使い  作者: 八茶橋らっく
第6章 【最後の魔神】
63/87

59話 【呼び出し手】と宴

 

 竜ノ宮の中にある、上が開けた形の庭園のような場所にて。

 満天の星々の下、俺たちは歓迎の宴という形でもてなされていた。


 ドラゴンたちもローアのように人間の姿となり、各々がフィアナたち我が家の神獣と談笑に興じていたり、一緒に食事を楽しんだりしていた。

 ……というか、フィアナも酒が入っているからか、明らかにドラゴンたちと打ち解けている。

 今となっては、竜王と会った後のように心配する必要はなさそうだった。


 そして肝心の食事の方は……非常に旨かったが、あまり馴染みのない味付けの肉料理が多い。

 ドラゴンたちに聞けば、かつて世界中を巡って【魔神】と戦っていた初代【呼び出し手】が、この地を訪れた時に残していった多種多様なレシピを再現したものだとか。


「世界中を旅してたなら、この味付けの多様さも納得だな……はむっ」


 うん、肉を果実のソースで煮込んだというこの一品も、脂身が程よく溶け出ていてなかなかいける。

 一方ローアは、竜王と王妃に今までのことをしっかり話して渓谷外での生活にも正式に許しをもらってくると、張り切ってどこかに行ってしまった。

 俺といえば、ローアの話が上手くいくようにと願いつつ酒を手にしていたのだが……。


「ふふっ、あなたが【呼び出し手】さまなのね? 凛々しいお顔ね……お名前をお伺いしても?」


「え、えーっと……マグって言います」


「ではマグさま、【魔神】討伐の際のお話など、お聞きしても?」


「立場もあって、わたしたちはこの渓谷から出られないものでして。渓谷の外について知れる機会は限られているのです。ですからぜひ、お聞かせいただければと」


「ええ、それは構いませんが、その……」


 俺は一人でのんびり食事と酒を楽しみつつローアを待っていたつもりが、いつの間にか美女三人に囲まれていた。

 ……聞けば全員ドラゴンの王族で、要するに姫君らしい。

 つまりはローアの姉にあたるのだろうか。

 その辺りはよく分からないが……何にせよ。


 ──全員格好がきわどくて困る……っ!


 ドラゴンは服を着ないのは分かるが、しかし人間の姿になった以上はちゃんとしたものを着てほしい。

 三人とも、薄くて露出が多い服装で目のやり場に困る。

 ……まずい、酒も回っているし変な気分になりそうだ。


 妙に密着されているし甘くていい匂いもするし……いやそこまで触らなくても!?

 反射的に、こんな時は自然に俺を助けてくれそうな神獣は、と思考を巡らせた。


 ──そうだ、マイラだ!


「……!!!」


 俺は視線で、他のドラゴンたちと談笑しているマイラに助けを求める。

 ……しかし、マイラは微笑みながらこちらに手を振るのみ。

 明らかに「たまには他のドラゴンとお話しするのも楽しいでしょう?」って感じだ。


 ──いやいやいやいや、頼むから助けてくれ……。


 普段は察しのいいマイラも、酒が回っていては頼りになりそうにない。

 困り果てていた時、高い声音が耳に届いた。


「あーっ! お姉ちゃんたち、お兄ちゃんから離れてっ!」


 ドラゴンの姫君たちを押しのけ、ぐっと抱きついてきたのはローアだった。

 後ろにこけないよう、柔らかな体を軽く抱きとめる。

 そして宴用なのか、ローアは普段の服装ではなく、華やかなドレスにも似たものを着ていた。

 俺は突然現れたローアに、恐る恐る聞いた。


「ローア、竜王さまたちとの話は済んだのか? 大丈夫だったか?」


 するとローアは、満面の笑みを浮かべた。


「うんっ! もう大丈夫。ちゃんと外の世界でも頑張っていて、縄張りも守らなきゃってお話もしたから。そうしたらお父さんもお母さんも分かってくれて、この先も【呼び出し手】のお兄ちゃんを支えていきなさいって」


「おお、それはよかった……!」


 つまり、今まで通りの生活を続けられると。

 家での生活はローアが欠けても困るし、いなくなったら寂しくもあるので、説得が上手くいって何よりだった。


 それにいつまでも家出したまま両親に心配をかけるのもよくないだろうし、しっかりと親子の間で話もまとまったようで、こちらとしても一安心だった。

 ローアは小さな胸を張って、してやったりといった表情になった。


「ふふ〜ん、皆と力を合わせて【魔神】まで倒したんだから。あれくらい認めてくれなきゃ困っちゃうもん。……って、今はそうじゃなくてっ!」


 ローアは俺に張り付きながら、周りの姫君たちを見て言った。


「知ってるもん! さっきまでお姉ちゃんたちがやってたの、『ねとり』って言うんだから! お兄ちゃんからは〜な〜れ〜て〜っ!」


 びしっ! と姫君たちに指を差しながら言ったローアに、俺は後ろ頭をかいていた。


「またマセた知識を……」


 しかも使いどころが違うし、その言葉は一体どこから仕入れてきたのか。

 そう聞きかけるが、そこでふと気がついたことがあった。


 ──酒の匂い……ローアから? 


 よく見れば顔がほんのり赤い気もするが……。


「おいローア、まさか飲んだのか!?」


「みゅっ、飲んだって……お酒? それはもちろん!」


 詰め寄ると、ローアは腰に手を当て「えっへん」と可愛らしく唸った。


「『縄張りを持っているなら一人前だ』って、ここに来る前に大人たちがちょびっとくれたの。体がポカポカしていい気分〜!」


「おいおい、大人のドラゴン適当すぎでは……!?」


 せっかく我が家では、ローアが間違っても飲まないように気を遣っていたのに。

 とはいえ厳密にはローアもドラゴンだし、人間とは違うから飲んでも大丈夫かもしれないが……。


 というより、大人のドラゴンが酒を渡したという辺りから、恐らくは多少なら問題ないのだろうが。

 何より『縄張りを持っているなら一人前だ』……となれば、もしやローアはこの渓谷では成人扱いで酒も問題ないのか……詳しくは不明だが。


 しかしさっきからローアが妙にマセた発言をしたり、周りの姫君たちに攻撃的な理由は酒が入っていたからか。

 まさかローアが酔っているなんてと焦る俺とは対照的に、周りの姫君たちはむくれるローアをからかう方向に思考がシフトしたようだった。


「大丈夫よローア、これは寝取りじゃなくてスキンシップだもの。……ね、マグさま?」


「うひゃっ!?」


 耳元で甘く囁かれ、ぞわりとして少し跳ねたら、ローアが「ああっ!?」と声を上げた。

 その隙に、ローアは姫君の一人にぎゅっと抱きしめられて俺から引き離され、代わりに俺の両脇に二人の姫が寄ってきた。

 しかも二人は体に絡ませるように腕を這わせてきて、何だかムズムズする。


「え、えーと……」


 そろそろ落ち着いてほしいのだが、姫君相手に強く言うのもまずいだろうか。

 どうにか穏便に離れて貰える方法はないものか。

 困惑しつつも考える最中、姫たちが口々に言った。


「大丈夫よ、わたしたちはあなたからこの人を取り上げないから……ね?」


「でも、ローアはずーっとマグさまと一緒にいたのでしょう? だったら、今晩くらいわたしたちに貸してくれてもいいではないですか。お話を聞くだけですもの」


 ローアを抱きとめる姫君は、その小さな頭をよしよしと撫でていた。

 それからローアは渋々といった様子で静かになったが、俯きがちに呟いた。


「うう〜っ……そんなこと言って。……でも、もし万が一お兄ちゃんが『ねとり』されちゃったら……わたし、もう……」


「……もう?」


 まさか暴れ出すとか? と恐々としていると。


「いっぱい泣いちゃう」


 ……そう鼻声で言いつつ、既に頬を膨らませて目尻に涙を浮かべるローア。

 ローアも酔っているからか、涙腺が緩んでいるんだろうか。

 何とも悲壮感溢れる気配で、この世の終わりのような表情だった。

 そんな妹の姿を見て、姉である姫君たちも思うところがあったようで……。


「じ、純真すぎでは……」


「何だか、これ以上ふざけるのはちょっと……」


「……た、確かに」


 周りにいた姫君が、そそくさと俺から離れだした。

 それからローアも解放され、くぐもった鼻声のまま「お兄ちゃんはあげないもん……わたしの乗り手なんだもん……」と言いつつ、ひしっとこちらに抱きついてきた。


 ……何というか、純粋すぎる子はあまり虐めちゃいけないなと。

 ローアをあやすように抱きしめながら「大丈夫だよ」と声を掛ける。

 それからじーっと姫君たちに視線を向けてみると、彼女らは「あ、あはは……」と困り顔だった。


 姫君たちも、少しからかうつもりがまさかこうなるとは思っていなかったのだろう。

 少しは反省している様子だったので、これに懲りたらあまりローアをからかわないでほしいと思う次第だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ