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世界最強の神獣使い  作者: 八茶橋らっく
第6章 【最後の魔神】
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57話 【呼び出し手】と源竜渓谷

 陽の光をまぶたに感じて目を開けると、もう太陽が昇っている昼近くだった。

 昨日遅くまでセイナーシスと話し込んでいたから、遅起きになってしまった。


「あ、お兄ちゃん。起きたんだねー」


 体を起こすと、ぱたぱた、とローアが駆けてきた。

 それにフィアナたちも起きていて、最後まで寝ていたのは俺らしい。


「……あれ、セイナーシスは?」


「セイナは先に渓谷に戻ったの。お兄ちゃんたちのことを先に伝えておいた方が、混乱もしないし歓迎の準備もしておけるからって」


「そっか、そう言う話ならありがたいな」


 渓谷に着いた時、ドラゴンたちが何も知らなければ人間の俺や他の神獣が近づいただけでも、威嚇されてしまうかもしれない。

 そういった意味でも、セイナーシスの気遣いはありがたかった。


「さ、お兄ちゃん。身支度をして、早く行こ?」


「ああ、そうするか」


 俺は洞窟の中にあった泉で顔を洗うなどして、手早く身支度を整えていく。

 それから持ってきていた堅焼きのパンを朝食として齧って、準備を終えた。


「マグさん、わたしたちも準備が終わりました」


 広げてあった荷物を背嚢に収納し終えたリーサリナが、そう声をかけてきた。

 クズノハの方も寝具を魔力に戻して、回収していた。


「それじゃあ、今日こそローアの故郷へ行こうか!」


「お〜!」


 ローアが掛け声と共に、光を纏ってドラゴンの姿に戻った。


 やはり久しぶりに故郷へ戻るということで、気分が上がっているのだろうか。

 ローアの声音は、普段より少し高かった。


 空に飛び上がった俺たち一行は、それから山脈をいくつか越えて、休憩も挟みながらひたすら大陸の中央の方へと飛び続けた。

 それから夕暮れ時、不意に目の前に巨大な塔のようなものが見え出した。


「……何だ、あれ?」


 目を凝らして見つめるが、距離が遠くて一向にその正体が分からない。

 唸っていると、フィアナが言った。


「あれ、すごい魔力の塊。風の壁……いや、おっきな竜巻っ!?」


「ええっ、竜巻ですか!? た、確かにそのようですけど……!!」


 リーサリナも驚いた様子で声をあげるが、ローアは「大丈夫!」と言い切った。


「あそこが目的地だから」


「目的地って、あたしたち全員吹っ飛ばされちゃうよ?」


「いいから、着いてきてよフィアナ」


 ローアは飛行速度を上げ、一直線に竜巻へと向かう。

 接近すればするほど、目の前にあるのが天を貫き、大地を穿つほどに巨大な竜巻だと分かる。

 塔に見えたのは、雲を巻き込んでいるからか、竜巻が真っ白に染まっているからだった。


「……フィアナの故郷は火山、マイラは海の底。それでローアの故郷は渓谷って話だったけど……」


 つまり件の渓谷は、巨大な竜巻の中にあるのか。

 ……内部は一体どんな環境なのかと、かなり不安になってきた。


「ローア、本当に大丈夫なのよね……?」


 流石のマイラも少し心配そうにしているが、ローアはこくりと頷くだけだった。

 それからローアは臆することなく、竜巻へとさらに近づいていく。


「お兄ちゃん、ちゃんと掴まっていてね! 皆も付いて来て!」


「了解だ……!」


 本当にしっかり掴まっていないと、ローアの守りがあっても風で吹き飛ばされそうだ。

 ローアは竜巻の際でタイミングを計るように滞空し、「せーの!」で竜巻に突っ込んだ。


「うおっ……!?」


 ──いやいや、まさか無策で突っ込むのか!?

 ローアの帰郷には最後の最後でとんでもない災難が待ってたもんだと体を固くするが、しかし次の瞬間、俺は首を傾げていた。


「……あれっ、風が……?」


 あんなに激しい竜巻に突っ込んだはずが、中は穏やかな風が吹いているのみだった。 

 その様子に、同時に突っ込んだフィアナやリーサリナも目を白黒とさせている。


「ローア、これは一体? この竜巻は、何か魔術でも使われておるのか?」


 興味深そうに問いかけたクズノハに、ローアは答えた。


「ううん。魔術じゃなくて、地脈の力を真上に吹き上げた大竜巻の中は元々こういうものなの。それに代々の竜王がこの大竜巻を統べているんだけど、一定の周期で風の隙間ができるの。その周期は、ドラゴンにしか感知できない仕組みなんだけど……」


「そうか、この竜巻があるから【魔神】たちもうまく侵攻できなかったと」


 成体のドラゴンたちに加えて、天然の暴風要塞。

 そして周囲を見れば、霧が立ち込め白く煙っているが、険しい渓谷の中にいるのは分かる。

 内部も外部も、敵を寄せ付けにくい環境なのが見て取れた。


「じゃあ皆、このままわたしについてきて?」


 ローアが再び翼を大きくはためかせ、先導して進む。

 すると次第に霧が晴れ、光が差し込んできた。

 そして、その先には……。


「ここが源竜渓谷……!」


 大竜巻の中は、雲ひとつない澄みきった青空が広がっていた。

 目下に広がる広大な渓谷の中央には、今まで見たことのないほどに巨大な滝があり、盛大な水飛沫を上げている。

 それによって滝の周りには虹もかかり、美麗な絶景を形成していた。


 そして何より……上空も渓谷内も、どこを見てもドラゴンだらけだ。

 ある者は自由に渓谷の青空を飛び、ある者は体を丸めて眠り、またある者は滝の水飛沫を浴びて仲間と涼んでいる。

 ローアのように全身に鱗や甲殻を纏っているドラゴンもいれば、炎や水、果ては霧や稲妻を纏っているようなドラゴンもいた。

 以前、ローアは地巌竜アースドラゴンの地を引いていると言っていたが、やはり竜にも様々な種族がいるらしかった。


 ドラゴンたちの楽園……そんな言葉が、自然と思い浮かんだ。


「どう、お兄ちゃん? ここがわたしの生まれ育った渓谷。いつか絶対にお兄ちゃんにこの景色を見せてあげたいなって思っていたんだけど……気に入ってくれた?」


「……こんなの、他じゃ絶対に見られない! 連れてきてくれてありがとうな、ローア」


「えへへ……」


 ローアは照れたように笑い声をこぼしていた。


 ──これが、故郷を抜け出したローアがわざわざその故郷に戻ってまで……俺に見せたかった光景。


 セイナーシスの件といい、故郷に戻るのならあれこれ面倒も起こるとローアも分かっていただろうに。

 しかし、それでも俺にこの光景を見せたいと頑張ってくれたローアに、心の底から嬉しくなる思いだった。


「源竜渓谷、噂には聞いていたがこれほどとは……!」


 また、長年様々な経験をしてきた九尾のクズノハですら歓声をあげており、そこからもこの渓谷の絶景がいかに現実離れしているかが分かる。

 他の神獣たちも同様に、目の前の光景を食い入るように見つめていた。

 そうして、しばらく源竜渓谷の美しい風景を楽しんでから。


「お兄ちゃん、このまま竜ノ宮まで行くね?」


「ん、そこがローアの実家……もといお城みたいなところなのか?」


「うん。竜王の一族が住まう場所。そこでセイナーシスも待っていると思うし、せっかくだし皆にもお兄ちゃんを紹介したいから」


 ローアは巨大な滝の付近、渓谷の一角に降下した。

 そこでは岩でできた巨大な城を、ドラゴンに合わせて巨大化させたような印象を受けた。

 窓や階段らしきものまで、何もかもが巨大だった。


 また、ローアが降下した近くには、既に大勢のドラゴンたちが待ち構えていた。

 どのドラゴンも成体なのか、やはりローアと比べても倍以上の体長と体高がある。


「おお! 皆の者! 姫さまが【魔神】を討伐した【呼び出し手】を伴ってお戻りになられたぞ!」


「あの者がセイナの話にあった【呼び出し手】か。他の神獣も連れている辺り、話に偽りなしと見える」


「しかし力が微弱ではないか? ふむ……」


 あれこれと人間の言葉とドラゴンの言葉を混ぜて話し出した彼らを見てから、ローアは言った。


「お兄ちゃん。ここなら指輪がなくても安全だから、外しても大丈夫。むしろ指輪がない方が、皆に力が伝わっていいかも」


「そっか、ローアがそう言うならな」


 俺は指輪を外して懐にしまい、【呼び出し手】としての力を解放した。

 すると昨日のセイナーシス同様、ドラゴンたちは「おぉ……」と唸りながら一斉に頭を低くした。

 ドラゴンたちが一斉にこうべを垂れる、その光景に固まりそうになっていると、フィアナが言った。


「やっぱり、予想はしていたけどご主人さまは大人気だね。多分あたしの故郷に来たって、皆こんな感じになると思うよ」


「……そうなのか?」


「そりゃ【魔神】を倒したんだもの。正直、神獣だけじゃあんなのに勝てないから。やっぱり力を束ねてぶつけられる人がいないと……ね?」


 フィアナと話していると、緋色の鱗を纏った一体のドラゴンが歩み出てきた。

 見れば、今朝先に出て行ったセイナーシスだった。


「皆さま、無事にこちらまで到着されたようで何よりです。……さて、ひとまずはどうぞ中へ。陛下がお待ちです」


 セイナーシスはそう言い、踵を返して竜ノ宮へ入っていった。

 陛下とは、すなわちこの源竜渓谷の支配者……竜王だろう。


 ローアの父親という話だったが、出奔した家出娘ならぬ家出姫のローアをどんなふうに思っているのか……。

 まさか再会した瞬間に親子喧嘩とか始まらないよなと、俺は少し恐々とする思いだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 場所が場所だから神獣が沢山住んでるのね。 [一言] 神獣ってもっと数が少ないイメージだったけど単純な数で言えば想像以上だった。
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