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世界最強の神獣使い  作者: 八茶橋らっく
第5章 【記憶喪失の天馬】
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EX 神獣たちと禁酒令

書籍版発売からしばらく経ちましたので、今回は書籍版のネタも少々含んだ短編です。

 人里離れていることもあり、我が家は基本的にフリーダムな方針だ。

 特に決まり事もなく各々が自由に生活しつつ、時に助け合いつつ。

 けれど、そんな我が家にもとある決まり事があった。


 俺はまたまた王都から遊びに来たクズノハからとあるものを取り上げつつ、仁王立ちで言った。


「クズノハ、たとえお土産でも王都からお酒を持って来るなって言ったよな……?」


「うっ」と声を漏らして目を逸らすクズノハ。

 俺はため息をつきたくなった。


「クズノハにも覚えがあると思うけど、うちの神獣たちは何故かお酒に弱い。だから持って来られても困るよ。……クズノハだって、前に酔って俺の一人風呂に押しかけてきただろ」


「……」


 クズノハは居心地が悪そうにしていた。

 その上、周りを見ればマイラとフィアナまでそっぽを向いている。


 ……やっぱり本人たちにも自覚はあったらしかった。

 そう、我が家の神獣たちは妙にお酒に弱いのだ。


 マイラは勿論、クズノハどころか分かりにくかっただけでフィアナまでお酒に弱かった。

 その証拠に、勢い余ってローアにまで飲ませようとしたほどだ。


「し、しかしお主よ。こちらでは、酒は命の水とも呼ばれると聞いたぞ。それに美味いのだからいいではないか。飲めば気分も良くなるし……」


「それでまた、全裸で温泉に押しかけられたりしたら困るって」


「う、ううむ……」


 ぴしゃりと言うと、クズノハはタジタジになった。

 ……いや本当に、前の一人風呂の時には全裸のクズノハがいつの間にか入ってきて、引っ付いてきた時はどうしようかと思った。


 マイラも酔ってしなだれかかってきたりしたが、俺も年頃の男なので、その手の悪酔いは勘弁して欲しさがある。


 そんな訳で、基本フリーダムな我が家だが現在禁酒令が敷かれている。

 我が家の決まり事とは、即ちこれである。


 ……もうこれ以上美女揃いの神獣たちに俺の理性を削られては困るし、勢い余って子供のローアがお酒を飲もうものならどうなるか……。


「……って、ローアもお酒に手を伸ばさない」


「あぁっ!?」


 手を伸ばしていたローアからひょいっと遠ざけると、ローアは不満げに声を漏らした。


「もう、少しくらい良いと思うもん。皆ばっかりずるいもん!」


「いくらドラゴンでも、ローアくらいの子がお酒は良くないと思うぞ?」


 ローアは「むーっ」と頬を膨らませた。

 しかし今回ばかりはダメだ、譲れない一線がある。

 お酒に限って言えば、ある意味ローアが我が家最後の良心なのだから。


「まあ、皆さん飲まない方が無難かもしれませんね。何せ東洋には、酔っていた間に首を斬られた蛇の神獣もいたそうなので。神獣は人間に比べて、お酒に弱いのかもしれません」


 そう言ったのは、ひょこりと酒入りの瓶を覗き込んでいたリーサリナだった。


「へえ、そんな神獣がいたのか……って、東洋ってクズノハと同郷じゃないか。クズノハ、もしかして神獣がお酒に弱いこと、知ってたんじゃないだろうな……?」


 じーっと見つめてみると、クズノハは耳と尻尾を垂らした。


「……い、いや、もしや弱いのではと思っていた程度だ。しかし美味いものは美味いのだから、そこは本能に忠実になるべきと言うかなんと言うか……」


 珍しくダメダメな発言をしたクズノハ。

 そんなクズノハに、マイラとフィアナも続いた。


「ええ、そうね。美味しいものは美味しいから仕方がないと思うわ……?」


「それにほら、山奥って娯楽が少ないじゃん? だからたまに飲むくらいなら……」


「うん、わたしも飲みたーい!」


「絶対にダメだぞー」


 便乗してきたローアを抑えつつ、俺は今度こそため息をついた。


「……分かった。そんなに飲みたいなら飲んでもいい……けど」


 俺はカッ! と目を見開いて言った。


「俺はローアと一緒に自分の部屋に引きこもっているから、酔いが覚めるまで入って来ちゃダメからな?」


 また俺の理性が削られる状況に陥りたくはないので。

 皆相当な美人ばかりだし、これまでの例で行けば本当に危ないので。


 そんなことを思いつつ言うと、神獣たちから「はーい」と返事が来た。

 その後、「のーみーたーいー!」とマセた発言を繰り返すローアを引っ張りながら、俺はそのまま速やかに自室に引き篭った。


 ……それから、少しして。


「わたしも飲みたかったのにー……」


「ローアはもう少し大きくなったらな。ローアくらいの頃から飲むと、体に良くないって聞くし……んっ?」


 バーン! と勢いよく開け放たれた部屋のドア。

 俺はカクカクと首を動かしながら、そちらを見た。


「マグさーん、この際ですから一緒に飲みましょうよ〜! 山奥ですし、わたしたち以外誰もいないんですから〜!」


「ちょっ、リーサリナ!? やっぱり出来上がっているし……って、ちょっと待った皆も入るな酒を持ち込むな!?」


 前みたくローアにも飲ませようとするフィアナに、赤くてほわほわした眠たげな表情で絡んでくるマイラとクズノハ。

 それに普段よりもやけにテンション高めで酒を注ぎ出したリーサリナに、やはりと言うか……俺は悟った。


 ──やっぱり我が家の禁酒令は絶対だっ!


 前みたくローアに酒を勧めるフィアナから酒瓶を取り上げつつ、俺はこの酔っ払いたちを寝かしつける算段を立てるのだった。


 ……それと、最後に。

 あまりにぐいぐい酒を勧めていたフィアナのせいで、その後ローアが「お酒って怖いねー……」と言い出し、しばらく飲みたがらなくなったのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 正にスローライフの一幕って感じの出来事だな。 [気になる点] 神獣達は皆人間で言うと何歳位の扱いになるんだろ? [一言] >何せ東洋には、酔っていた間に首を斬られた蛇の神獣もいたそうなので…
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