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世界最強の神獣使い  作者: 八茶橋らっく
第5章 【記憶喪失の天馬】
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50話 【呼び出し手】と新たな同居者

 話し終えたサフィーナ……いや、リーサリナは憂鬱そうだった。

 ……無理もない。

 だってあの【魔神】アスモディルスは俺たちの前に現れた時、様々な生き物の大小様々な骨で構成された大ムカデの姿だった。


 リーサリナの話にあったように、巫女の体を乗っ取っていた訳ではなかった。

 つまり恐らく、もうリーサリナの友人だったという巫女は……。


「……いえ、仕方がなかったのです、マグさん。これもわたしの力不足が原因。それにわたしが集落に着いた時には既に、【魔神】の封印は限界を迎えていたのですから。いずれにせよあの集落はきっと遅かれ早かれ……それでも」


 リーサリナは眠っていたベッドの上から、俺を見上げてきた。


「マグさん、それに皆さん。あの【魔神】を倒してくれて、本当にありがとうございました。これで彼女も、きっと胸をなで下ろしているでしょう。彼女は世に【魔神】が解き放たれることを、誰より危惧していましたから」


「そう言って貰えると、俺たちも頑張った甲斐はあるよ。……でも、今の話を聞いた後じゃ……な?」


 皆の方を向くと、ローアたちは静かに頷いた。

 それからクズノハが前に出て、リーサリナに言った。


「うむ、妾たちで供養してやろう。あの【魔神】の餌食となった者たちの骨なら、外でそのままになっておる。その集落とやらに行き、静かに眠らせてやろう」


「クズノハさん……」


 リーサリナは目の端に涙を浮かべ、しばらくそのままでいた。


 ……それから、少しして。

 俺たちは【魔神】を構成していた大小様々な骨……色んな生き物が入り混じったものを例の集落『跡』へと、リーサリナの案内で運んで行った。


「……ホント、胸糞悪いね。人間も魔物も見境なくか。初代【呼び出し手】が【魔神】を丸ごと相手取って戦いを挑んだ理由、分かる気がするよ」


 集落『跡』を見て、フィアナは顔をしかめていた。

 ……多くは語らないが、ともかく目の前にあるのは人が生活をしていたと思しき痕跡などが無残に広がる土地だった。


「……でも、こんなことをした【魔神】もわたしたちで討ち取ったのだし。これ以上、被害が出ないのが救いね」


 マイラがそう言うと、クズノハが小さく頷いた。


「うむ。それにこの集落の住人の魂も、感じてみればすっきり浄化されておる。……あの【魔神】を倒したことで、きっと解放されたのだろうよ」


「そっか、ならよかった。魂が囚われずにちゃんとお空に帰ったなら……きっとまたいつか、この世界に戻ってこれるよね?」


 そうぽつりと呟いていたローアの言葉は、不思議と心に染み入るようだった。

 それからローアは近くまで来て、俺の腕をぎゅっと胸元に抱き寄せた。

 俺はそんなローアに、思いが伝わるように言った。


「ああ、そうだな。人も魔物も、【魔神】の犠牲になった皆がいつか生まれ変われるように……今は俺たちで祈ってあげよう」


 そう言うと、ローアだけでなく皆が頷いてくれた。

 それからクズノハ主導の下でひと仕事を終え、集落『跡』で俺たちは黙祷。


 ……それから、ふと思った。


 ──この世界は、中々容赦がないなと。


 俺自身、【呼び出し手】スキルを授かった直後にダークコボルトに殺されかかった上、デスペラルドにはもっとギリギリまで追い込まれた。

 挙句、先日は王都にベヒモスが迫り壊滅の危機。

 あの時だって一歩間違えば、多くの人たちが危険にさらされていた。


 でもそんな世界にあっても……俺たちは力を合わせて生きていくのだと。

 それに皆と一緒ならどんな困難も乗り越えていけるさと、確かにそう思えた。


 ***


「……でさ、リーサリナ。これからどうするんだ?」


 家に戻ってから聞くと、リーサリナは曖昧に微笑んだ。


「そうですね……予定は未定、といったところでしょうか。……まだ色々と整理がついていなくて」


「だったら、しばらくこのお家にいたら?」


 いつも通りのマイペースな声で、ローアはそう言った。


「ね、いいでしょお兄ちゃん? それにリーサリナ、このまま放っておけないもん」


「そりゃ、今更放り出すこともないしな」


 我が家は「狩り小屋」とは呼ばれていたものの、元々は人が住まなくなった家を改築して、故郷の狩人たちで使っていたものだし。

 スペース的にも、リーサリナが住むのは問題ない。

 それから申し訳なさそうにリーサリナが我が家の面々を見回していると、フィアナとマイラが言った。


「今更かしこまらなくてもいいよ。あたしたち、同じ神獣でしょ? 天敵のドラゴンが増えるって訳でもないし、あたしは大歓迎だよ?」


「わたしも賑やかになっていいと思うわ。だからそんな顔しないで、ね?」


「皆さん……」


 リーサリナそれから少しして、はにかみつつぺこりと頭を下げた。


「それではしばらく……いえ、人間のマグさんの感覚で言えば、長くかもしれませんが。ともかく皆さん、これからお世話になります。それと……マグさん」


「んっ?」


 リーサリナが目を閉じて、両手を合わせ、そこから淡い光を発した。

 それからリーサリナが何かを持って手を差し出してきたので受け取ると、そこには……。


「天馬の……羽?」


「はい。わたしを救っていただいたことや、【魔神】討伐のお礼です。魔力をたっぷり込めましたので、何かの役には立つ筈です。……ひとまず、マグさんの使う魔導書のしおりにでもいかがですか?」


「天馬の羽のしおりって、またかなり贅沢だな」


 リーサリナからの贈り物に嬉しくなっていると、リーサリナの方も微笑んでくれた。


 ……と、ひとまずこんな様子で。

 我が家の住人が、また一人増えたのだった。


「しかし、あれかなぁ」


 ──まだクズノハの言っていた初代【呼び出し手】ほどの大所帯でもないけれど。


 俺は皆を見つめながら、なんとなくこう思った。


 ──これからまだまだ、賑やかになりそうだな……と。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔神が遠慮なくブチ斃して構わない相手だという事は良くわかった。 [一言] それに比べると神獣達が皆本当に良い子過ぎる。
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