48話 【神獣使い】vs【魔神】
ローア、マイラが全力でアスモディルスに猛攻を仕掛け続ける中。
「ハァッ!」
こちらも負けじとローアの背から跳躍。
不死鳥の力が篭った長剣と神獣の力で大幅に強化された身体能力をもってして、アスモディルスへと飛び掛かった。
「ぐっ……!?」
アスモディルスは闇色の瘴気を固めて盾にしてくるが、刀身から放たれる不死鳥の爆炎が瘴気を焼き切ってゆく。
多重に円を描いて舞うように長剣を振り、アスモディルスの瘴気を削ったところで落下、飛んできたローアの背に掴まる。
「皆でこれだけ押し込めば、【魔神】も防御で精一杯か!」
「おのれ……図にのるな!」
アスモディルスは瘴気を強め、その中からデスペラルドのように巨大な矢を形成していく。
その数はざっと数十から百近く……だが。
「ダンジョンの時と違って、今は皆が一緒だからな……! ローア!」
「任せて〜!」
放たれた矢に対し、ローアが勢いよく旋回。
相変わらず曲芸じみた超絶技巧の飛行能力によって、ローアは次々に矢を回避していく。
加えて地上にいるマイラも、水を操って難なく槍を防いでいた。
「アスモディルス……魔力量もその密度も半端じゃないけど、ローアたちにかかればこんなもんなのか?」
「攻撃を避けるだけならね、あの矢みたいに分散した魔力ならそんなに脅威でもないから。でもわたしのブレスも、あの濃い瘴気に防がれたらまともに当たらないよー……」
「ってなると、やっぱり俺が斬りかかるしかないのか……」
【魔神】の放つ瘴気を突破して本体に斬りかかるには、複数の神獣の力を束ねて一点に集約するしかない。
それは先日、ダンジョンでデスペラルドを倒した際に判明した事実だ。
けれど斬りかかると言っても、相手はサフィーナの体。
……ダメだ、流石にまだそこまでは……!
「……ほう、迷っているな?」
俺の心の内を読んだのか、アスモディルスがニィと笑みを浮かべていた。
「そうとも。貴公らはこの娘の体を傷つけられない! なればこそ……我を滅するほどの致命的な一撃は加えられまい?」
と、余裕そうに動きを止めたアスモディルスの元へ。
「……そう、思うであろう?」
これまたしてやったり顔な笑みを浮かべる人間姿のクズノハが、フィアナに乗って至近距離まで接近していた。
「なっ、いつの間に!?」
「妾の術があれば、姿を消すなど容易も容易。加えて我が友が削ったお陰で、貴様の瘴気も薄くなったのでな」
アスモディルスは今更ながらに瘴気をかき集めてクズノハを阻もうとするが、元々俺やローアへと瘴気の大半を向けていた以上、最早手遅れだった。
「今こそ食らうがいい、とっておきだ……!」
クズノハは赤い光を手のひらに溜め込み、薄くなった瘴気の隙間から掌底のようにアスモディルスへと叩き込んだ。
その途端、アスモディルスがもがき出した。
「こ、この駄狐が……がああああぁぁぁぁぁ!?」
「クズノハ、何を……!?」
聞くと、クズノハはフィアナに乗って近くまで飛んできた。
「まぁ、言ってしまえば特大の解呪だな。奴の正体が呪いである以上、よく効く筈。加えて妾がここ数日、お主の家に篭って記憶の修復や呪いについてあれこれとやっていたのは知っておろう? 要するに、その成果があれだ」
クズノハの視線の先には、黒から純白へ戻りつつある天馬の姿があった。
即ち、アスモディルスの支配が解けかかっている証拠。
「よかった、このままなら……!」
「……いや、まだだ。まだ終わらぬぞおォォォォォ!!!」
咆哮を上げたアスモディルスはサフィーナの体から完全に離れ、瘴気となって今度は俺へと向かってきた。
『呪い除けを受けたあの娘は捨てるが、今度は【神獣使い】の体を奪うのみ! さすれば神獣どもも、黙り込むが必定!!』
「くっ……!」
迫り来る闇の瘴気の塊に対し、俺は素早くローアの背から大きく跳躍した。
あんな姿でも奴は【魔神】、取り憑かれるにしてもローアは巻き込めない。
「……と言っても、俺も簡単に憑かれてやる道理もない!」
ローアの力が篭った短剣を引き抜き、ベヒモス戦の時の要領で神獣の力を集約。
その刀身を神獣の魔力による極光で伸ばして長剣程度にする。
そうして不死鳥の長剣と共に、即興の二刀流で構え、宙で体ごとひねるように両腕を振るった。
「全力だ、押し返す……ッ!!」
『オオオオオオオオ!!!』
咆哮を上げるアスモディルスへと、神獣の力を解放した双剣の斬撃を叩き込む。
不死鳥の爆炎が瘴気であるアスモディルスを焼き焦がし、神獣の力を束ねた極光の刃が奴を払わんと輝きを増す。
……だが。
『寄越せ……その身を、デスペラルドをも下したその身を……寄越せェェェェェ!!!』
「ぐっ……!? クソ、何て執念だ……!!」
アスモディルスはその身を削りながらも、斬撃の嵐の中、こちらへそのまま迫り来る。
このままでは落下する俺が地上に到達するのが先か、それともアスモディルスの瘴気に呑まれるのが先か……否。
「サフィーナだけじゃなく、今度はお兄ちゃんまで……! もう……怒ったんだからっ!」
鈴の音のような声が響いた瞬間、ローアの体が爆発的な光量を帯び出した。
『なっ、これは……!?』
光に怯み、アスモディルスの動きが止まる。
ローアは今まで見たこともないほどの膨大な光をその口腔に溜め込んでいた。
「ここの地脈に流れる魔力、ありったけだよ! 縄張りでドラゴンに挑むことの無謀さ……この一撃で知りなさーいっ!!」
周囲を見ればローアの縄張りであるこの山全体が、ローア同様琥珀色に光り輝いている。
加えて広大な縄張りに広がる地脈から力を得たと言うローアの瞬間的な魔力量は、あの【魔神】アスモディルスに匹敵する勢いだった。
──これが縄張りを持つ神獣、地脈から力を得るドラゴンの本領……!
『ば、馬鹿な!? これだけの魔力量、最早【天輪の銀龍】の……!?』
「はぁーっ!」
ローアの放った特大のブレス……光の奔流は。
『が、あああああああぁぁぁぁあああぁぁあああ!?』
【魔神】アスモディルスの本体とも言えるドス黒い靄のような姿を跡形もなく焼き尽くし、周囲の黒い瘴気を完全に払った。
それから落下しつつあったサフィーナの体を前足で掴み、ローアは「ふぃ〜」と一息。
「お兄ちゃん、これで一件落着だね?」
「ああ……そうだな」
ローアの満足げな言葉に、駆け寄ってきた神獣姿のマイラの背に着地した俺は微笑みを返した。
……こうして、肉体を持たない不完全体だったとは言え、【魔神】アスモディルスは神獣たちの力と機転によって討ち滅ぼされ……完全に消滅したのだった。
本日3/30より【世界最強の神獣使い】の書籍版が全国書店にて発売されます。
書き下ろしなども加え、物語全体がWEB版を大きく超える仕上がりとなっていますので、書籍版の方も手にとっていただけますと幸いです。




