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世界最強の神獣使い  作者: 八茶橋らっく
第5章 【記憶喪失の天馬】
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47話 【呼び出し手】と新たな強敵

 サフィーナが我が家にやってきてからひと月以上。

 サフィーナもこの家での生活に慣れ、最早住人の一人になりつつあった……そんなある日のこと。


「……みゅっ?」


「んっ、ローア目が覚めたのか」


 俺の膝を枕にして昼寝をしていたローアが、突然跳ね起きた。

 それからきょろきょろと周囲を見回し出した。


「何……この感じ?」


 次いでフィアナも顔をしかめ、窓の外を見た。


「嫌な雰囲気だね、空気が重たい」


 ローアとフィアナはそう言って、急いで外へと出て行った。

 俺も一体何事かと、剣を持って二人の後を追って外へ出た……その瞬間。


「うわっ!?」


 いきなりこちらへと何かが飛んできて、とっさに受け止める。

 腕に柔らかな感触、それから甘い匂い。

 目を開けてみれば……。


「マイラ!?」


「【呼び出し手】さん、受け止めてくれたのね……っ」


 少し擦り傷のあるマイラが、俺の腕に収まっていた。

 幸い大きな傷はないようだが、何があったのかマイラは表情に疲労をにじませていた。


「おいおい、マイラがすっ飛んでくるって一体何が……?」


 聞くと、マイラは森の一角を見つめた。


「三人とも、気をつけて。……とんでもないのが出てくるわよ」


「とんでもないの……? ……うおぉっ!?」


 マイラの見ていた方向から、突然また何かがこちらを目掛けて飛んできた。

 見ればそれらは、幹の半ばからへし折られた木々のようだった。


「ふん、あたしのご主人さまにそんなのぶつけさせないよ!」


 フィアナは不死鳥の姿となり、こちらに飛来する木々を爆炎の盾で受け止め、灰にしていく。

 視界の端、ローアが「縄張りの木が……!」と少しショックそうにしているが、今回ばかりはフィアナを許してやって欲しいと言いたい気分だった。


「おいおい……マイラや木を吹っ飛ばせる化け物が山にいるのは分かったけど、一体何が?」


「それは……」


 と、マイラが口を開いた途端。

 遠方の木々が次々に倒れ、巨大な足音と重圧感がゆっくりと迫ってくる。

 こちらに近づいてくる何かは、ドラゴン姿のローアの数倍はありそうだと遠目からも分かった。

 次いで次第に見えてきたのは、立ち込めた黒い靄……それを視界に入れた途端、全身の毛が逆立った。


「あれ、デスペラルドと同じ……!」


「なっ、お兄ちゃん本当!? それじゃああれって……!」


 ローアが目を見開いた時、マイラも苦虫を噛み潰したような渋面で言った。


「……やっぱりあれ、【魔神】なのね。修行中に襲ってきた時は何かと思ったけれど」


「まぁ、マイラを吹っ飛ばせるほどの神獣がいたってのも考えにくいし。あたしも薄々勘付いてはいたけどさ……」


 さしものフィアナも、引きつり笑いといった様子で正面を見つめる。

 そうして木々をへし折り切って、遂に正真正銘の化け物が姿を見せた。


 ……ソレは、ムカデのような多足型の外観だった。

 うねる瘴気が体の輪郭を奪っていたが、それでも瘴気の中に異様なまでに白い骨がちらりと見え隠れしている。


「……【魔神】っていうのは、全部骨の化け物なのか……?」


 デスペラルドは骨の巨人だったが、次は骨の大ムカデときたか。

 俺は長剣を引き抜いて、新たな【魔神】を睨んだ。

 すると【魔神】はガチリと、骨の大顎を鳴らした。


『ガガガ。そう構えるな、小さき者たちよ。我は貴公らに用はない。用があるのは天馬の娘なり……貴公らが隠しているのだろう? 奴を差し出せば、この場は矛を収めようぞ』


 【魔神】は見た目からは考えられないほどに理性的な喋り方をした。

 そして奴の言葉に、俺は目を見開いた。


「なっ……サフィーナを!? 一体どう言うつもりだ!」


『どうも何も、あの娘は元来我の仲間なり。それが出奔したから、こうして迎えにきたまでのこと』


「迎えだと……?」


 何だ、一体どういうことだ。

 信じたくもないが、まさか【魔神】と神獣が手を組んでいたと?

 よりにもよって……あの温厚なサフィーナが【魔神】と?


『ほう。その顔、我の言葉を信じておらんな。しかし事実だ、早急に娘を差し出せ。さもなくば……』


 と、【魔神】が大口を開いた刹那。

 背後から放たれた淡い青色の狐火が、【魔神】の頭に直撃した。


「何を惚けておるか! 奴の言葉に耳を貸すな。あの魔力……天馬の娘に呪いを施したのは奴で間違いないぞ!」


「クズノハ……!」


 見れば家から飛び出してきたクズノハが、忌々しげに【魔神】へ攻撃を仕掛けていた。


「クズノハ、サフィーナは!?」


「奴が近くに現れた途端、もがき出した。……【魔神】め、近づけば娘が逃げられぬよう、十重二重に呪いをかけておったな! 一体何が目的だ!!」


 噛みつくようなクズノハの問いかけに、【魔神】は全身の骨を鳴らして答えた。


『我の目的は娘の回収と言った筈。とは言え、こちらが下手に出ればこの駄狐ごときが……我の、【魔神】アスモディルスの顔に火の球をぶつけるとはなんたる不敬か!!』


「ええい、黙るがいいこの大ムカデが! 貴様のことは師匠から聞いておる……現存する【魔神】の中でも最上級に警戒せよとな!」


「クズノハ、それってどういう?」


 聞くと、クズノハは狐火を構えながら答えた。


「奴は最古の【魔神】の一柱だ。言ってしまえば七柱に増える前、かつて三柱だった【魔神】の起源にして頂点。最も古い力を振るう闇の戦神と師匠は言っていたが……なるほど最も古い力とは呪いであったか。全く、あの方ももっと分かりやすく言って欲しかったものだ」


「最古の【魔神】……!?」


 よりにもよって、【七魔神】の中でもそんなのが生き残っていたとは。

 しかもそれがサフィーナを迎えにやってきたと。


 ……ますます意味が分からなくなってきたところで、ふいに背後の家のドアが開いた気配があった。

 振り向けば、汗を滲ませ苦しそうなサフィーナがよたよたと歩いている。


「み、皆さん。一体何が……?」


「ダメだサフィーナ、出てきちゃ……!」


 俺の静止が飛ぶより先、サフィーナは骨の大ムカデを見て目を見開き、固まっていた。

 心なしか顔は青ざめ、小刻みに震えているようにも見える。


「あ、あなたは……!?」


『カカッ、これは僥倖!』


 アスモディルスが骨を打ち鳴らして嗤った刹那、骨が雪崩を打って奴の体が崩れた。

 そうして骨の中から闇の瘴気が溢れ出てひと塊りとなり、サフィーナへ向かって殺到した。


「んなっ、何だ……!?」


 瘴気の飛翔速度は俺が対応するどころか、神獣たちが本来の姿に戻ってサフィーナを庇う暇すらないほどだった。


「サフィーナ!!」


 ローアの悲痛な叫びが響き、ドス黒い瘴気に覆われたサフィーナが見えなくなる。

 そうして数瞬の後……瘴気が爆ぜるように晴れ、中からふらりとサフィーナが現れた。

 ……けれど。


「ふふっ……やはりこの娘、いい体だな」


 サフィーナの瞳が怪しげな黄金色に輝いており、その声音は一段低くなっている。

 ……それを見て、背筋に冷たいものが走った。


「お前……サフィーナに何をした!」


「何、一時的に体を借り受けているのみよ。そうかっかするな、目的を果たした後でこの娘の体は返して……」


「抜かせ、盗人が!」


 サフィーナに憑依したアスモディルスが言い終わるより先、クズノハが九尾の姿となって狐火でアスモディルスを囲った。


「マグよ! 感知したが此奴の正体はあの瘴気、実体のない存在! 先ほどの骨ムカデは入れ物にすぎん!」


「なっ……それって!?」


「あやつ、存在自体が呪いのようなものだ! ……否、体を失い魂のみになったからこそ、そうなったのか? となれば……そうか、その目論見が見えたぞ【魔神】! 大方、体の再構成を行う算段であろう!」


 吠え掛かるようなクズノハの言葉に、アスモディルスはにやりと笑った。

 ……整ったサフィーナの顔でそう笑うのだから、歪な雰囲気の際立った、嫌な表情だった。


「くっくっく……然り! よくぞ見抜いた東洋の神獣よ。我が望みはただ一つ、原初の【神獣使い】に砕かれし我が肉体の再構成なり」


「……なるほど、それでサフィーナの力が必要だったのね。ドラゴン並みの飛翔能力を持った、神獣屈指の魔力を持つ天馬の力が」


 マイラはそう呟き、ケルピーの姿となって唸った。


「それでも、なぜサフィーナが【魔神】に仲間なんて呼ばれていたかは、本人の記憶が戻ってから詳しく聞くとして。【呼び出し手】さん。今は彼女からあの【魔神】を引き剥がす方が先決と進言するわ」


「ああ、そこは同意見だ。……いけるか、皆?」


 問いかけると、フィアナが鼻を鳴らした。


「当然。同じ神獣が【魔神】に体を乗っ取られている以上、放ってもおけないし」


「それにわたしも、まだまだサフィーナに本のこととか聞きたいもん。絶対に助けてあげるんだから……お兄ちゃん!」


「分かった!」


 ローアが光を纏って神獣の姿に戻った直後、跳躍してローアの背に乗る。

 それから長剣と短剣を引き抜き、神獣の力を解放して体を強化した。


「カカカ……そうか! 神獣と共に在ることからもしやと思ったが、やはり貴公、この時代における【神獣使い】か! 少し前に我が同胞、デスペラルドの消滅を感じてはいたが……さては貴公の仕業だな?」


「いくぞッ!」


「はぁっ!」


 無駄口を叩いたアスモディルスに、ローアのブレスが殺到する……否、流石に体はサフィーナのものだからか、その足元を狙っていた。

 そうして圧縮魔力の閃光のブレスが炸裂しかかるが、アスモディルスは黒い瘴気を身に纏い、姿を変えて天へと舞い上がった。


「漆黒の、天馬……!」


「くくっ、この姿こそがこの娘の本領よ」


 太陽を遮るように舞い上がったその姿は、巨大な翼を持った天馬。

 純白だったと思しき体躯と翼は瘴気の黒に染まり、瞳は爛々と輝く黄金色。

 アスモディルスの嘶きが轟いた直後、天へと瘴気が広まり、辺り一帯を薄暗く覆っていく。


「なっ、何よこれ……!?」


 超高密度魔力の瘴気は体にまとわりつくようで、その上、霧のように広がっていく。

 それを見たフィアナは驚いたのか体から上がる炎を大きくし、クズノハは体中の毛を逆立てていた。


「これは……瘴気というより、最早呪いそのもの! 気をつけよ、吸い込みすぎれば先日のサフィーナのようになりかねんぞ!」


 上空を見上げれば、アスモディルスは天馬の両翼を活かして羽ばたき、瘴気を周囲に広げているようだった。

 このままでは山どころか、近くの街や村まで瘴気に覆われる。

 これは神獣だったサフィーナすら蝕んでいた呪い。

 神獣の力で体が強化されている自分はまだしも、万が一普通の人間や生き物が吸い込みでもしたらすぐにでも……。


「……くそっ、あまり時間はかけられないって訳か!」


「だったらご主人さま、あたしに任せて!」


 翼から爆炎を放ったフィアナが、周囲の瘴気を焼き焦がしていく。

 瘴気自体は超高密度の魔力らしかったが、フィアナの爆炎の前では焼かれて消えるのが関の山らしい。

 フィアナは炎の円陣を幾重にも作り上げ、瘴気を焼いていく。


「……でも、あまり時間はかけられないよ。あたしのこれも時間稼ぎみたいなもんだから、ご主人さまたちで短期決戦をお願い!」


「任せてくれ。ローア!」


「飛ぶよーっ!」


 ローアは空へと舞い上がり、黒い天馬となったアスモディルスの前へと躍り出る。

 眼前のアスモディルスは神獣の力と【魔神】の力が合わさって、凄まじい魔力密度と魔力量を誇っていた。

 その魔力密度はデスペラルド以上、その量もドラゴンであるローア何体分か。

 とにもかくにも、圧倒的かつ超常的な存在であることは確かだった。


「ふん……今は見逃してやろうと思っていたものを、わざわざ立ちはだかってくるとは。愚かだな、【神獣使い】にドラゴンの娘!」


「ふーんだ! わたしだって【魔神】を放っておくほど馬鹿じゃないし、サフィーナを助けたいもん!」


「そういう訳だ。お前こそ痛い目を見ないうちに、とっととサフィーナの体から出て行け!」


「カカッ、何を馬鹿なことを。貴公らはこの娘の体に手出しできない。であれば……我が勝利は揺るがぬ。我がこの体から出ない限りは、な」


 落ち着き払った声で冷静に告げたアスモディルスに、真下から鋭い声音が刺さった。


「それなら、ギリギリまで追い詰めるまで!」


 ケルピーの本領を発揮したマイラが、地下から水を練り出して槍のような形状に変化させ、次々にアスモディルスへと放った。


「靄のような不定形の姿が本性のあなたは、器がなければ霧散してしまう存在。であれば、その子の体を傷つけられないのはあなたも同じ……そうでなくて?」


「この、忌々しい……!」


 マイラの言葉を裏付けるように、アスモディルスは翼をはためかせて大空を舞い、マイラの攻撃を避け続けていく。


「マイラの言う通りって訳か……! それならローア、俺たちも加勢して奴の体力を削ろう!」


「分かったよーっ!」


 ローアもアスモディルスへと、今度は直撃コースでブレスを放った。

 相手が避けるのだと分かっていれば遠慮もいらないし、此の期に及んでは手加減できるような相手でもない。

 俺も長剣に不死鳥の爆炎を溜め込み、振るう要領で奴へと投げ飛ばしていった。


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[一言] 成程、そういう事だったのね。 また何柱厄介な魔神が出て来たものだ。
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