45話 【呼び出し手】と日常茶飯事
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サフィーナが家に来てから早三日。
はてさて……それからどうなったのかと言えば。
「サフィーナ、この文字ってどう読むの? それとこの絵って?」
「ええと、図の方はかなり古い魔道具のようですね。それにこちらの字の意味はですね……」
ローアはサフィーナに、本を見せつつあれこれと聞いていた。
サフィーナはどうも人間の文字やら文化などに案外詳しかったらしく、ローアの質問にもすらすらと答えていく。
加えて、自分のことは忘れていてもその辺りの『知識』は残っているらしかった。
そんなサフィーナの姿を見て、フィアナが感心した様子で言った。
「へぇ……結構丁寧に答えてるけど、記憶がなくなる前はどんな生活だったんだろうね?」
「案外人間と一緒に過ごしていたとか?」
「まさか……ご主人さま以外の人間と神獣が一緒って言うのはあまり考えられないし、この辺の【呼び出し手】はそもそもご主人さまだけだよ」
「そっか……」
フィアナの言葉に、俺はうぅむと唸った。
そもそも多くの神獣と人間は生活圏が被らない。
それでもサフィーナは見たところ、他の神獣たちより人間の文化に詳しいようにも思える。
「謎は深まるばかりって感じだけど、特に問題もなさそうだし。あとはうまく記憶が戻ってくれればいいんだけど……」
「そちらはクズノハ頼みね」
マイラが言う通り、サフィーナの記憶が戻るか否かは半ばクズノハ頼みだ。
我が家のとある部屋にこもっているクズノハ曰く「しばし待て。妾の方で呪いの正体や記憶の修復について考えてみる」とのことだった。
俺や他の神獣たちには記憶を修復する術などないので、そこはクズノハに頑張ってもらう他ない。
「……で、俺たちにできることと言えば、普通に生活するくらいか」
呟くと、マイラはこくりと頷いた。
「そうね。上手くいけば何事もなく、自然に記憶が戻るかもしれないのだし。あまり外野が騒ぎ立ててもいけないかもしれないわね」
「だったら俺、畑の方に出ようかな。水やりしたり雑草とかも抜かないと」
と、その時。
サフィーナがすっと立ち上がり、両手を自分の胸のあたりで組んでいた。
「マグさん、畑へ行くならわたしもお手伝いさせてください」
「いや、サフィーナはいいよ。呪いから回復したばかりだし、クズノハもしばらくは安静にしていた方がって言ってたし……」
しかしサフィーナはそうはいかないと、首を横に振った。
「いえいえ、ただでお世話になる訳にもいきませんから。わたしもしっかりとお手伝いさせてくださいな。それにあれだけ大きな畑です、人手は多い方がいいでしょう?」
意外と頑ななサフィーナを見て、フィアナが言った。
「本人がこう言っているんだしいいじゃない、ご主人さま。それに家の中でちびドラに質問攻めにされていたら、頭が爆発しちゃうかもだし」
フィアナの言葉を聞いたローアが、少しむすっとした表情になった。
「……ふーんだ。何か聞いても分からないって言うフィアナより、サフィーナの方がマシだもん」
「「……。…………」」
「「む〜〜〜っ!」」
売り言葉に買い言葉とはよく言ったもので。
またもや我が家のドラゴンと不死鳥が、見えない火花を散らして睨み合っていた。
俺は二人に苦笑気味に言った。
「おいおい二人とも、サフィーナもいるんだしやめてくれよな。……悪いサフィーナ、二人の喧嘩は日常茶飯事だけど大ごとにはならないから。気にしないでくれ」
サフィーナはこくりと頷いた。
「はい、ドラゴンと不死鳥は種族的な仲が悪い……でしたっけ? でもお二人の場合は軽くじゃれているようにも見えますし、何より喧嘩するほどなんとやら、とも言いますからね」
サフィーナはどうやらその辺りのことを分かってくれているようで、俺もほっと一安心だった。
……前にクズノハの前でローアとフィアナが初喧嘩した時は、クズノハが「ドラゴンと不死鳥の諍いなど、辺り一帯が焦土になるぞ!」と戦慄いたものだが。
「まぁ、ローアもフィアナも加減は分かっているだろうし。本当にいつもの話だから大丈夫……んっ?」
改めて二人の方を見ると、ローアとフィアナは妙なオーラを放っていた。
「フィアナ、そろそろ決着をつけない?」
「いいねぇちびドラ、かかってきなよっ!」
「ちょっ二人とも言ってるそばから!?」
二人は人間姿のままとはいえ、全身にほんのりと神獣の魔力を纏わせていた。
その上クズノハが奥の部屋から出てきて「凄まじい魔力だが何事か!?」と目を丸くしている。
珍しく混迷を極めそうな我が家の中、マイラとサフィーナが微笑ましげにこちらを見守っていた。




