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世界最強の神獣使い  作者: 八茶橋らっく
第5章 【記憶喪失の天馬】
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44話 【呼び出し手】と天馬の呼び名

 天馬の少女を拾った翌日早朝。

 俺は様子を見に、あの子を寝かせていた部屋のドアを小さく開けた。

 それも当然、できるだけ起こさないようにと思っての行動だったが……。


「……あれっ、いない!?」


 そもそも部屋はもぬけの殻で、女の子の姿はどこにもなかった。


「おいおい、冗談じゃないぞ……!」


 昨日のぐったりした様子のあの子を見るに、一晩寝ただけで回復しきるとは到底思えなかった。

 急いで家の中を見回り、やはり見つからないかと次は外へ。

 あまり遠くには行っていないだろうが、できればすぐに見つかって欲しい。

 そう願いつつ、勢いよく外へ出る。


「あっ」


「んっ?」


 ……朝陽を浴びて森や畑を見回していた銀髪の少女と、ちょうど目があった。

 深い藍色の瞳がこちらを映して、ぱちぱちと瞬いた。


「お……おはようございます」


「あ、ああ。おはよう……」


 って、そうじゃないそうじゃない。


「その、もう起き上がっても大丈夫なのかい? 昨日は血まみれだったけれど……」


「血まみれ、ですか? ……わたしが?」


 首肯すると、少女は顎に手を当てて少しの間、考え込んでいた。

 それから言いづらそうに、はたまた困り切った様子で問いかけてきた。


「その、すみません。ここ、どこなのでしょうか? そしてわたし……どんなふうに名乗っていましたか?」


「……えっ?」


 少女の言葉を受け、思考が一瞬固まる。

 ……えーと、これはつまり。


「君、もしかして自分が誰だか分からない?」


「……お恥ずかしながら」


 少女は顔を赤らめた。

 ……どうやらこの子、俗に言う記憶喪失ってやつになってしまったようだった。


 ***


「……って訳でこの子、記憶が飛んでいるらしくて」


「ははぁ、また厄介な……。これでは呪いのことも聞き出せんな」


 ひとまず天馬の子を家に入れ、起きてきた神獣たちに事情を説明。

 するとクズノハがああ言って、ため息をついてしまった。


「そうなると、何でこの山に落っこちてきたかってお話も聞けないね。……わたしの縄張りに入り込んだ理由くらい、聞きたかったのに」


 頬を膨らませてむくれるローアに、少女がぺこりと頭を下げた。


「ええと、その節はすみません。今はわたしにも何が何だか……でも、助けてくださって助かりました。本当にありがとうございます」


「むぅ〜……」


 ローアもここまで平謝りされて溜飲が下がったのか、これ以上言及するのも野暮だと感じたのか。

 ひとまず腕を組んで、静かになった。

 少女はそれから、俺へと向き直った。


「それとふと思ったのですが、あなたは人間……なのですよね?」


「ああ、俺だけ人間だよ。他の四人は神獣。でもそれが分かるってことは、自分が神獣の天馬だってことも分かると?」


「ええ。わたしが天馬であることは、確実に。ですが……」


「自分について、それ以外は全然かぁ。また不思議な話になっちゃったね」


 フィアナが茶化し気味にそう言う傍ら、マイラが口を開いた。


「でもこの子の記憶喪失って、やっぱり落ちた時の衝撃が強すぎたせい? それとも……呪いのせい?」


「お主、記憶喪失が呪いのせいだとしたら、誰かが故意に天馬の娘の記憶を消した可能性があると言いたいのか?」


「ええ、その線は少しあるかと。あんなに体を弱らせる呪いだったんだもの、どんな類のものだったか分かったものじゃないわ」


「ふーむ……確かにな、一理ある」


 マイラの考察を受け、クズノハも唸り出した。


「なぁクズノハ、解いた呪いがどんなものだったかってクズノハにも分からないのか?」


 聞くと、クズノハは困り顔になった。


「残念ながら、な。妾も呪いの正体は知りたかったのだが、解呪する前に手を出そうとすれば妾も呪い返しを受けそうだったのでな。詳しくは目が覚めてから本人に聞けばよいとあの時は思っていたので、一思いに解いてしまった」


「それじゃ仕方がないか……」


 呪いを解こうとしてクズノハまで呪われたらそれこそ本末転倒。

 クズノハの記憶まで消えたらそれこそ大惨事だったので、さっさと解呪してしまって正解だったかもしれない。


「……さて、お兄ちゃん。この子が起きて記憶喪失だって分かって、こうやって話がまとまったところでなんだけど」


 ふとローアが大真面目な表情で、話しかけてきた。

 俺だけでなく、その場にいた全員の視線がローアに向く。

 ローアはそれから、こちらにぐったりとしなだれかかりながら言った。


「……そろそろ、限界かも〜……」


 くぅぅ、とローアのお腹が鳴り、その場にいた全員がくすりと笑った。


「確かに朝食がまだだったな、あとの話は食事をとってからにしよう」


 そう言って、俺たちは朝食の準備を始めた。

 しかしその前に、天馬の子へ一言。


「そういえば、これから何て呼べばいいかな?」


「呼び名、ですか……」


 少女はうーん、と小首を傾げた。

 それからにこりと微笑んで言った。


「思いつかないので、お好きに呼んでください。皆さんと被っていなければ、なんでも構いませんから」


「意外と適当だなぁ」


 昨日拾った時や今朝目が会った時は、その柔らかで銀雪のような容姿から、天使やどこかのお姫さまみたいだとまで思ったのだけれど。

 この子、意外と接しやすい性質のようだった。


「えーっと、それなら……」


「サフィーナ」


 横で皿を抱えていたローアが、そう言った。


「サフィーナか……ちなみに、その名前の由来は?」


「前にわたしの故郷に迷い込んできた、天馬のお名前!」


 えっへん、ぴったりでしょ! と言った様子のローアに思わず苦笑が漏れた。

 いやいや、そのチョイスはどうなのかと。

 しかし少女はくすりと笑った。


「ふふっ、確かにわたしもドラゴンの縄張りに入り込んだ天馬ですからね。ぴったりかもしれません」


 少女改めサフィーナは「これからはその呼び名でお願いしますね」と続けて言った。

 やはりサフィーナは、どちらかと言えば大らかな性格らしかった。


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