41話 【呼び出し手】と修行の後で
作業がひと段落したので更新です。
今回は後書きにてお知らせがあります。
……さて。
アオノと実戦形式の修行を始め、早くも一週間が経過しようとしていた。
それから当のアオノがどうなったかと言えば……。
「……人間というのも存外侮れませんね。まさかここまで攻撃を当てられないとは……」
アオノは肩で息をしながらそう言って、大きくうなだれていた。
「いやいや。俺だってアオノの攻撃食らったら体格差からして吹っ飛ばされるし。回避に全神経を使えばそうもなるさ」
そう、俺はアオノの相手をするにあたって回避を念頭において動き回っていた。
と言うのも、やはり人間の自分がいくら神獣の力で体を強化したところで、正面からでは純然たる神獣のアオノには及ばないからだ。
それなら攻撃よりも、回避を念頭において動き回った方が賢いだろう。
……そんな訳で修行中、俺は延々とアオノの攻撃をかわし続け、たまにカウンターを入れる程度にとどめていたのだが。
アオノはどうやら、その辺りも不満らしかった。
「……わたしの攻撃は一切当たらないのに、すれ違いざまにあなたに何度斬られたことか……はぁ……」
「でも、どっちかと言えば峰打ちだったろ? 甲殻のある部分を狙ったから、あまり痛くもなかったと思うけど……」
ため息をついたアオノにそう言うと、アオノはより盛大にため息を吐き出した。
「それ、完全に手加減ではありませんの。実戦形式が聞いて呆れますわ」
「あ、あはは……」
非難がましいアオノのじとっとした視線を受け、俺は苦笑いした。
いやだって、俺の方もアオノに要らない怪我をさせる気はなかったし。
寧ろアオノが人間相手に戦い慣れしていなかったせいで、妙に俺の攻撃も当たりやすかったし。
……これはこれで、アオノの自信を逆に削いでしまったかもしれないけれど。
「でもアオノ、これで分かったろ? 世の中、同じ神獣以外にもこうやってアオノと戦える奴はいる。これからはあまり無茶な縄張り破りとかせず、堅実に自分で修行を積んでみたらどうだ?」
そうすれば、縄張り破りの被害者も減るだろうし。
そう思いながら言うと、アオノはこくりと頷いた。
「ええ、それも一理あるかもしれませんわね。ドラゴンに敗れたのも、そもそもわたしの力不足が原因。となれば何かに挑むより先、己の力や魔力量などを増す方が先決かもしれません。……一度、別の山に篭って修行しようかと思います」
「ああ、いいと思うぞ。うちのマイラもよく山奥に篭って修行しているし。神獣でも鍛錬は大切みたいだからな」
……さて、となればこれでアオノもこの山から去って行くと。
中々長かったが、これでようやく静かに……と思ったその時。
ヒュドラ姿のアオノが、ぺこりと頭を下げてから鼻先をこちらの胸元に押し付けてきた。
「短い間でしたが、お世話になりました。わたしも自分に足りないものが分かって有意義でしたわ、師匠」
「……師匠って、やっぱり大げさだと思うぞ?」
「いえ、当然ですわ。たった一週間でも、わたしはあなたの弟子のつもりでしたから。……それとまたこの山に立ち寄ることもあるかもしれませんが、その時はお手合わせをお願いしても?」
アオノはこちらを見ながら、そう言ってきた。
その瞳は何かを期待しているかのような、そんな雰囲気を漂わせていた。
「ああ、分かった分かった。あまり大暴れしないなら、相手はするよ」
それからアオノの鼻先をゆっくり撫でてやりながら、話を続ける。
「……まぁ、あれだよアオノ。アオノは結構強いと思うし、ヒュドラの毒を使わなくても大分いい線はいっていたと思うから。この山を出ても、元気でな」
「ええ、それでは。また次に顔を出す頃には、もっともっと強くなっていますから。期待していてくださいな」
アオノはヒュドラの姿のまま、にこりと微笑んだ気がした。
そうしてアオノはヒュドラの巨体のまま、木々の中へと消えて行く……その手前。
「ああ、そうですわ。修行のお礼をしていませんでしたね。……では、こちらを」
「……おっと」
アオノが何かを投げ渡してきて、今度こそ去っていく。
渡されたものを見れば、手の中に収まっていたのは小さなネックレスだった。
藍色の宝石が嵌っている箇所からは、強い神獣の力が感じられる。
「こうやって律儀なあたり、悪い子じゃないんだろうけどな……」
はてさて。
アオノもどこか満足げだったし、この山に毒も撒かれなかったしで、これはこれで万事解決ではなかろうか。
……と、俺は安堵しながら思っていたのだけれど。
「……お兄ちゃん?」
家に戻ると、ローアが腕を組んで仁王立ちしていた。
「ん、どうした?」と聞くと、ローアが飛びついてきた。
「一週間もほとんど構ってくれなかったのに、どうした? じゃなーーーいっ! わたしも修行つけて欲しいかなーって、えーと……うん、二週間っ!」
「ちょっローア!? 俺、アオノとの修行で大分疲れているんだけど……うわっ!?」
ローアに飛びつかれた俺は、近くにあった椅子にローアを抱えたまま倒れるように座り込んだ。
……そのままローアは、こちらの腹に頭を押し付けて軽くぐりぐりとしてきた。
「……こりゃアオノの毒よりも、こっちの方が問題かもなぁ……」
俺は苦笑気味にそう言いながら、ローアの頭をしばらく撫でてやるのだった。
……ちなみに修行二週間の無茶振りは、この日ずっとローアを撫で続けた結果どうにか許してもらえた。
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