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世界最強の神獣使い  作者: 八茶橋らっく
第4章 【縄張り破りの毒蛇竜】
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38話 【呼び出し手】と第五の神獣

今回はあとがきと活動報告にてお知らせがあります。

 昼下がりの山中、とある木陰にて。


「今日も異常なし、平和そのものって感じだな」


 山の見回りをしていた俺は腰を下ろして、ふぅと一息ついていた。

 この山がローアの縄張りになって大分経ち、【魔神】デスペラルド事件の後、魔物の姿は見られない。

 それでもまた突発的にダンジョンが生まれないとも限らないので、一応こうして見回りをしているという訳だ。


「でも畑の方をローアたちに任せてるし、そろそろ切り上げて戻るか……」


 腰を上げ、そのまま我が家へ戻ろうとする……が。


「あらっ?」


「ん?」


 がさりと揺れた藪の中からぴょこりと少女が顔を覗かせていて、思わず固まってしまう。

 姿を見せるまで一切気配を感じなかったのも驚きだが、こんな山奥に人がいること自体も驚きだった。

 しかしこの子は……。


「俺の故郷の人じゃあるまいし……もしかして旅の方ですか? 迷い込んでしまったとか?」


 この山は結構広いし、どこからか迷い込んでしまったのかもしれない。

 なら山の下まで案内する必要もあるだろう、下手に歩いて遭難してしまっても困るし。

 そう思いながら尋ねると、少女は曖昧そうにはにかんだ。


「うーんと。そうとも言えますし、違うとも言えますわね。半分正解で、半分間違いでしょうか」


「半分?」


「ええ、半分です」


 少女はよっこいしょ、と藪から出て来た。

 濃く深い藍色の髪と瞳に、身長はローアより少し高いくらい。

 どことなく落ち着いた雰囲気を漂わせる少女だった。


「わたしは旅人ですが、迷い込んで来た訳ではありませんの。自分の意思で、ここへ来ましたから」


「こんな山奥に?」


 この辺りは特段、目立ったものとかはない筈なのだが。

 不思議なことを言うものだと思っていたら、少女は目を細めて告げた。


「いるじゃないですか……他ならぬあなたが」


 ……それってつまり? と声を出すよりも先。

 少女の体が左右にブレた……否。

 ブレて見えるほど、少女は高速で動いていた。


「……ッ!」


 高速で迫って来た少女を前に、俺は咄嗟の判断で回避に移った。

 地を蹴って横に滑り、両足で体を跳ね上げて距離を取る。


「へえ、中々良い動きをしますね。あなたもその姿に慣れているようですわね?」


「……その姿?」


 またまた不思議なことを言った少女の瞳は、深い藍色だった筈が黄金に輝いていた。

 それは間違いなく、常人ではない証。

 少女は余裕そうな笑みを浮かべたまま、再度距離を詰めて来た。

 黄金に輝く瞳が糸のような残像を残す速度、ぶつかられただけでも痛いどころじゃ済まないのは明白だった。


「──くっ!」


 俺は腰ベルトから長剣を鞘ごと外し、少女の繰り出して来た掌底をそれで受け止める。

 少女の膂力は小柄な見た目に反して凄まじく、俺は数歩分後ずさることになった。

 しかし攻勢で押している筈の少女は、関心したような声を上げた。


「高い反応速度に加えて、そんな武器まで扱えるのですか。これはまた、珍しい同胞もいたものですわね」


 少女は跳躍して後退し、そのまま木の上に飛び移った。


「さてさて。じゃれ合いはこれくらいにいたしませんか? ここまでやれば、わたしがあなたの前に現れた理由も分かって来た頃合いでしょうし」


「悪いがさっきからさっぱりなんだが……」


 それにさっきから微妙に会話が噛み合ってない気がする。

 少女は肩を落とすような仕草をして、ため息をついた。


「食えないかたですね……まあいいでしょう。なら、わたしの方から本気になりますわ。であれば、あなたも本気にならざるを得ないでしょうから」


 少女は瞳の輝きを増し、体から紫の濃霧を発生させた。

 その濃霧から感じられる魔力は……文字通り、ローアたち神獣並み。


「ってことは……まさか!?」


「グオオオオオオオオオ!!!」


 膨れ上がった濃霧が張り裂け、中から藍色の巨躯が咆哮と共に現れる。

 竜に似た力強い四肢と甲殻に覆われた体躯は、陽の光を受けて鈍く輝いている。

 細長い首の先には、蛇にも似た精悍な顔つきと黄金の瞳。

 その大きさはローアの竜姿にも匹敵するほどのものがあり、見たところは陸棲の竜といった風貌だった。


「人間からの変身能力、神獣だったのか……!」


「如何にも。わたしはアオノ、毒蛇竜ヒュドラが一体ですの」


 ヒュドラ、それは英雄すら殺すとされる猛毒の化身として語り継がれる神獣。

 どんな存在でもその猛毒からは逃れられないとされ、ある地方では死神でもあると言われているとか。

 女の子改め、ヒュドラのアオノは俺を睨みながら言った。


「さあ、わたしも正体を明かしました。あなたも正体を見せたらどうですか、この大山の支配者──ドラゴンよ」


「……。……えっ?」


 えっ?

 何か……勘違いしてない、このヒュドラさん?


「そうやって誤魔化そうとしても無駄ですわ。わたしは先日、この目でしかと見ました。あなたが輪を作るようにして幾重にも山の上を舞う、その雄々しき姿を。あれはドラゴンが住処を主張する行為の一環、そうですわよね?」


「ちょっ」


「あれだけ立派に舞って起きながら、いざとなれば誤魔化しにかかるとは情けない。わたしはこの通りあなたの縄張りを侵し、あなたに挑んで牙を剥く挑戦者。それを見逃すとは、あなたのご自慢の牙も泣くというものでは?」


「いやっ」


 最初の方から会話が噛み合ってない気がするとは思っていたけど。

 なるほど、俺をローアと勘違いしていたからか。

 ……いやいや、どうしてこんなことに。


「いい加減とぼけるのも大概にしてはいかがですか? それほどまでに力を滾らせておきながら、今更『自分はただの人間です』なんて方便は通じませんよ? 神獣の力を、あなたからは色濃く感じますから」


 いやいやいやいや待て待て待て待て。

 それ、ローアたちの力!

 ローアたちから託された神獣の力だって!

 そう言うよりも先、アオノが地を駆けた。


「これ以上言っても無駄なら、後は実力行使あるのみ! わたしの武者修行を兼ねた縄張り破りに付き合っていただきますわ!」


「何だその道場破りみたいな言い方!?」


 ええい、こうなったら応戦するしかないのか! と俺は鞘から長剣を抜いて神獣の力を解放しようとする……その少し手前にて。


「それ以上、お兄ちゃんをいじめないでーーーーっ!」


「きゃわっ……ぐはぁっ!?」


 空から流星のように降って来た竜姿のローアの前足が、アオノの首根っこに直撃した。

 ……無論、神獣と言えど同じ神獣からの不意打ちには対応しきれないようで。

 俺をローアと勘違いしたまま、アオノは本物のローアの一撃により気絶して地に沈んだ。

本作【世界最強の神獣使い】ですが、何と書籍化が決定いたしました!

レーベルさまや発売日などについてはまた後日お知らせいたします。

これからも応援よろしくお願いいたします。

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