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世界最強の神獣使い  作者: 八茶橋らっく
第3章 【王都への旅路と東洋の神獣】
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30話 【呼び出し手】と神獣のお迎え

 人間の姿に戻ったクズノハは、俺を連れて宿の近くにある住宅の並ぶ区域へと移動していった。

 それから王都らしい立派な家が立ち並ぶ地区の端にて、クズノハは足を止めた。


「上がるがいい、ここが妾の家だ」


「こりゃまた立派な……」


 クズノハの家は見たところ、我が家の倍くらいの広さはありそうだった。

 それに小さな庭もあり、夜分ながら芝も綺麗に植わっているのが分かった。

 雑草もなさそうだし、結構マメに手入れをしているみたいだな……というか。


「これって普通に王都に住んでるってことですよね?」


「うむ、左様だ。人間の時間でいうところの数十年前にこの地に来てな。便利なのでこの街に住んでおる。……それと敬語はよせ、あまり硬くても妾が困る」


 肩をすくめたクズノハに、俺は「了解だよ」と返事をした。

 それからクズノハは俺を家に招き入れ、魔力を操って部屋の灯りをつけた。


「妾の故郷では菜種油を使って火を灯したものだが、この国ではランプに魔力を通すだけでよいときた。中々便利だとは思わないか?」


「ああ。辺境にある俺の故郷も魔力灯みたいな魔道具は珍しかったから、気持ちは分かるよ」


「うむうむ。そこに腰掛けてくれ。今茶を淹れる」


 クズノハは耳をぴょこぴょこと動かしながら、キッチンの方へ向かっていった。

 俺はふかふかのソファーに腰掛けながら、部屋の中を見回してみる。


「ぱっと見は普通の人間の家って感じだな」


 変わったものはあまりなく、強いて言うなら不思議な文様の札が棚に置いてあるくらいだ。

 クズノハは苦笑気味に言った。


「それはそうであろう。妾は今この国で、人間として生きておる。何、不死鳥ほどではないにせよ不死に近い身だ。たかが数十年から百年くらいは、休暇も兼ねてこうして過ごすのも悪くないと思ってな」


「なるほど……」


 人間と寿命が違う神獣では、時間の感覚も違うのだろう。

 それに神獣の力があれば、故郷と離れた異国でもあまり不自由することもないらしい……と、思っていたのだが。

 クズノハは「しかし!」と少し声音を強めて言った。


「妾は失念していたのだ、そう! ここは人間の国にして人間の街。即ち……」


「即ち?」


「……腹を割って話せる友もほとんどできなかった」


「それは深刻かもなあ」


 何せクズノハはさっき、数十年この王都に住んでいると言った。

 でもいくら便利だったり休暇も兼ねているからって、色々と話ができる友人がいないのも困りモノだろう。

 ……まさか神獣と接点もない人間に「妾は東洋から来た九尾」とか言うわけにもいかないだろうし。


「……って考えると、さっき九尾の姿になったのは正体がバレるって意味で大分危なかったんじゃ……?」


 と、首を捻っていたらクズノハがふふんと笑った。


「心配には及ばん。先ほどお主と会っていた時、妾の力で周囲を闇に閉ざしておいた。この国では神獣だの魔物と呼ばれておるが、東の方の妖怪どもは夜の闇に住まう者ゆえ、皆闇の扱いには精通しておるのだ。当然、妾とて例外ではない」


 俺の前にお茶を持ってきてくれたクズノハは、自身も向かい側に座った。

 それから目の前のティーカップを覗くと、緑色のお茶が入っていた。


「確か東洋って、お茶が緑なんだったか」


「その通り。故郷の味は忘れがたいのでな、ちと高いが定期的に取り寄せておる。ほれ、冷めないうちに飲むがいい」


 俺はクズノハに勧められるがまま、お茶を啜ってみる。

 あまりお茶自体は飲んだことがなかったけれど、とてもほっとする味と香りだった。


「美味い……落ち着くな、これ」


「そうであろうそうであろう。まあ、妾が淹れたのだから当然ではあるな」


 クズノハはお茶と一緒に持って来ていた菓子をぽりぽりと齧った。

 見た所クッキーに似ている菓子だったけど、これも東洋のものだろうか。

 そう思いながら俺も甘い菓子を齧っていると、クズノハが「さてと」と言った。


「妾は茶飲み友達が欲しいと言ったが、それは一方的に話を語り聞かせるものではない。もしよければ、お主の話も聞かせてはくれぬか?」


「構わないけど、あまり面白い話でもないぞ?」


「よい。天に仕えし神狐クズノハの名において許す」


 ふふーんと得意げなクズノハの姿に苦笑しながら、俺はこれまであったことを話した。

 授かったスキルがきっかけで故郷から追い出されたこと、神獣の三人と会ったこと。

 それに紆余曲折を経て【七魔神】の一柱を倒したことも。

 クズノハは何度か頷きながら、静かに話を聞いてくれた。


「……人の子よ、お主はまた随分と重たい運命を背負っていたものだな。妾の故郷にもそのような豪傑、伝説に語られる者くらいしかいなかったが」


「いや、俺はそんなタマじゃないよ。皆が力を貸してくれたから、今もこうして生きている。それだけの話だ」


 ……そう、本当にそれだけの話。

 まだ生きていたいという一心でこれまでやって来て、今は三人のためにできることをしてやりたい。

 そう思いながら、今も俺は息をしている。

 クズノハは微笑みながら目を細めた。


「……どこか剛毅な瞳をしていると思ったが、その中に情も映しておるか。これはまた、得難い奴と出会えたものだが……強いて言うなら」


 クズノハは何故か、少しだけ俯きがちに目を閉じた。

 それと心なしか、冷や汗を掻いているようにも見える。


「……神獣を三人も侍らせているという話は、最初に聞きたかったのお……」


「ん?」


 どういうことだ? とクズノハに聞こうとした数瞬手前。

 バタバタという足音がしたと思ったら刹那、クズノハ邸の扉が勢いよく開け放たれた。

 そして扉を開いた張本人こと見慣れた少女が、俺の方へとぴょいっと跳躍しながらこう言った。


「お兄ちゃん、迎えに来たよーっ!」


「ローア!? それにフィアナとマイラも!」


 クズノハ邸に乗り込んできたのは、誰あろうローアたちだった。

 ……なるほど、今さっきのクズノハの言葉の意味はそういうことか。

 ローアの軽い体を抱きとめながら、俺はそんなことを思うのだった。

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