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お爺ちゃんが最後にたいようを見たのって何歳のときなの?
爺ちゃんは見たことないんじゃよ。
最後にたいようを見たのは爺ちゃんの爺ちゃんくらいの人たちだけじゃ。
じゃあ僕が爺ちゃんにたいようを見せてあげるね!
そうかい、ありがとう。……
懐かしい夢をみた。それはひどく心地が良くて無性に悲しくなるものだった。
「ひどい朝だ」
薄暗い部屋は夢との境界をわからなくさせるが、鍋に当たる雨の音が現実に引き戻す。
ここ数百年やまない雨は男に静寂を教えない。絶えずなり続ける雨は耳障りでじわじわと思考を悪い方向へと押し進めていく。
「おはよー!」
高く跳ねる少女特有の声が、この部屋の暗く濁った空気を霧散させた。
「うるせぇよ!今何時だと思ってやがる!」
「言い伝えによるタイヨウがのぼる時間はとっくにすぎてるよ!それに今日はちゃんと起きてたじゃないか」
見たこともないタイヨウを想像させる少女は毎日こうやって騒音を出して起こしてくる。それが男の暗鬱を見透かしているようで息苦しかった。
少女と男は黙って朝食を食べる。それぞれが持つナニかを咀嚼してドロドロに溶かすように、ゆっくりと静かに。溶けたナニかはつま先から沈殿して、時折夢や日常の影として姿を現し2人を苦しめた。ちょうど今朝の男のように。
「今日こそ雲の上まで飛ぼうよ!」
「ふざけるな、そんなことするわけないだろ」
「なぁ、お前は何をそんなに怖がってるんだよ。あんな飛行船までつくっといてさ飛ばないなんて冗談だろ?」
「うるせぇよ……」
朝食の後、いつものように飛びたいとせがむ少女を軽く去なしてそのまま依頼された機械の修理をやるつもりだった。それが男の仕事だから。だがこの日はどこか違っていて少女は珍しく食い下がったが、男の突っぱねるようなこれ以上お前に言うことはないという態度にムッとしたまま部屋に戻っていった。
男はため息を1つこぼすと仕事をするために下にある工房へと足を進めた。