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スペース・デブリ取締官  作者: 津辻真咲
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地球時代 夏


雪が10 cm積もった。

黒い靴先が少し埋もれていく。

手のひらには、白い六角形が積み重なっていく。

息も白く上へと昇っていく。

誰かの足音。

京香はすばやく資料室の体験型資料をしまう。

その立体映像は部屋の四隅へと収納されていく。

「何?」

彼女は振り返る。

「あ、えっと……」

扉を開けたのは裕嵩だった。

「担当のローから連絡ありましたか?」

裕嵩は息をきらしていた。

「え?」

京香は自身の携帯端末を確認する。

「ありがとう」

京香は少し微笑んだ。



『スペース・デブリ:ビスマス

 投棄先:アンドロメダ支部 第997地区 惑星系第5惑星』

「前方は、一応3カ月前です。通報からは1時間経過しております」

「一応?」

「はい。今回は、不法投棄先が1つの惑星内となっていますので、わざわざ前方へ遡る作業は行わなくてもよいと上層部から命令がありました」

「はい」

「それから、前方担当の方々は後方のスペース・デブリの回収班に回ってほしいそうです」

「分かりました」

京香はそう言うと、裕嵩と共に現場へと向かった。



ワープ・エリア内のスペース・シャトル。その中で。

「……」

京香は黙って窓の外を見ていた。



地球時代。

「裕嵩!! 早く、遅れるよ」

京香は坂道を走って登っていく。そのあとを裕嵩が苦しそうに自転車を押していく。

「もう!! 裕嵩は世話がやけるなぁ」

京香はそう言うと、少し戻り裕嵩の自転車を一人で押し上げる。

「行くよ!!」

京香は走っていってしまう。

「あ、待って!!」

裕嵩はかばんだけになってしまった荷物で走り出す。


「着いたー」

京香は汗をぬぐう。

「ごめん……」

あとから追いついた裕嵩は息切れして、そう言った。

高校はこの街の高台にある。それにより、生徒は坂を上らなければいけなかった。

高校3年の夏。

二人は、進路を決めなければいけなかった。

空には上空10kmにまで及ぶ巨大な積雲が幾重にも連なっていた。

「進路決めた?」

 京香が裕嵩に尋ねる。

「うん」

「何?」

「大学へ進学するよ」

「それぐらい知ってる。そのあと」

「えーっと……、実は宇宙環境省がいいなと……」

「え!? 本当?」

京香は身を乗り出す。

「うん」

それを見て、裕嵩は笑顔で頷いた。

「私、何がいいかな?」

「これだけは、自分で決めないと」

「私もそうしようかな?」

「え!? でもいいの? 将来だよ?」

「なんか、同じ道へ行っても離れ離れになる気がする。だから、同じ宇宙環境省に行きたいな」

「心残りがあるの? この時間に?」

「うん、実はね」

京香は苦笑した。



チャイムが鳴った。

積雲が夕方になり、横へ伸び始めた。

――まだ、暑い。

目の前には濃いオレンジ色の夕日があった。

――この夕日もあと少し。

すると、携帯端末が鳴る。

『号外!! 号外!!』

「え!?」

――僕のも鳴ってる。

二人は、立体映像を開く。

『人類、宇宙連合へ加盟』

――やっぱり。

「だから、きっともう会えないね」

「そうだね」

裕嵩は京香の方を見る。すると、京香は夕日を切なく見ていた。

――離れ離れになるなら、地球にいても意味がない。宇宙環境省へ行こう。


その後、京香はアンドロメダ支部へ、裕嵩はエリダヌス本部へ配属された。



スペース・シャトル内。

「ねぇ……」

 京香は珍しく、不安そうに尋ねた。すると。

「覚えているよ?」

裕嵩は笑顔で言った。

「地球時代でしょ?」

裕嵩は笑顔から、苦笑へと変化した。

「ありがとう」

京香は少しうつむき加減で言った。



アンドロメダ支部 宇宙コロニー内。

「京香。今、大丈夫?」

「何?」

スペース・デブリの回収を終え、アンドロメダ支部へ戻ってきた京香に小御湯景子が話しかけてきた。

「裕嵩君も聞く?」

 彼女は隣の裕嵩にも声をかけた。

「え、あ、えーっと……」

「何かというと……」

はっきり答えない裕嵩の返答を待たずに、小御湯景子は話を始めた。

「広報課の調査の結果、この間のスペース・デブリは〈現宇宙〉より外側からやってきたスペース・デブリだったよ」

小御湯景子は驚く京香に資料を渡す。

「それで、向こうも気付いているらしい。自身が、〈宇宙の晴れ上がり〉から進んだ光よりも外側からきていることに」


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