一期一会も出来ない程、広い世界
「深黒氏、白和泉氏。事件です」
「え?」
ローの唐突な耳より情報に京香は変な感じで返事をしてしまった。
「どうしたの?」
京香が聞き返す。
「隣の棟の広報課が忙しそうです」
「ん?」
「それで?」
二人はローに聞き返す。
「直接的に言うと、現宇宙の外からのスペース・デブリが次々と現れているようです。しかも、アンドロメダ支部の管轄で」
「え!?」
「本当に!?」
二人はそれぞれ驚いた。
「今まで、広報課が密かに調査をしていた案件があるでしょう?」
ローが立体映像を揺らす。
「えぇ、ヘルクレス支部で観測されたスペース・デブリでしょ」
京香が答える。
「それと同じスペース・デブリだそうで」
「本当に?」
「えぇ」
ローの目が少し輝いて見えた。
「広報課の出番ですね」
広報課は、現宇宙内での情報管理だけでなく、現宇宙外の生命体とのコンタクトをとるための部署でもあるのだ。
――景子の出番だったのね。
京香は頬杖をして、小御湯景子のことを考えていた。
アンドロメダ支部 広報課。
「小御湯氏、準備が整いました」
「分かった。行きましょう」
小御湯景子は担当の人工知能コウと共にヘルクレス支部との合同会議ため、会議室へと向かった。もうすぐヘルクレス支部の担当2名がやって来る時間だった。
白い廊下を進む靴音がする。隣のコウは静かにスライドしていく。
前方からも足音がした。小御湯景子はそちらを見る。すると、京香と裕嵩だった。書類を持ち、資料室へ向かっていた。
「あ」
裕嵩が小御湯景子に気付く。その隣で京香も気付いた。
「こんにちは、お久しぶりです」
京香は笑顔で手を小さく振った。
「こんにちは」
小御湯景子は気まずそうだった。自身の記憶がないため、彼女を傷つけているのではないかと気が気ではなかった。しかし、もう一度、彼女と話してみたかったのは事実だ。
「今から、会議なんです」
「会議とは?」
京香は微笑んで首を傾げた。
「ヘルクレス支部でのスペース・デブリが今回、アンドロメダ支部で観測された現宇宙外からのスペース・デブリと同一のものだったので、それのために」
「そっか」
京香は苦笑で答えてしまった。
「それでは。また、ここを通るのでその時まで」
小御湯景子は微笑んだ。
「そうですね」
京香はそう言うと、立ち去る小御湯景子を少しの間、見ていた。
資料室。そこで二人は持って来た資料の整理をしていた。しばらく沈黙が流れていた。
「……」
京香は集中している様だった。しかし、裕嵩はあることが気になっていた。資料室についての。
「京香?」
裕嵩は京香に声をかける。
「ん?」
京香は顔を上げた。
「どうしたの?」
彼女は尋ねる。
「どうして、いつも資料室に?」
「あぁ、雪を見ているの」
「うん」
それは、知っていた。だけど。
「どうして、雪?」
「えーっと、それは、自然現象での雪を見たことがなかったから」
京香は微笑んで首をかしげて見せた。二人が生まれた時代では、もうすでに地球上では雪は観測されていなかった。極地でも。それにより、京香はずっと雪を見てみたいと思っていたのだった。
「そっか」
「それでね……」
彼女が話を続けた。
「大学の時にキャンパスの資料室で見つけたの。人工的なものだけど、雪を。だから、それ以来、ずっと資料室の雪を見るのが日課になったの。アンドロメダ支部に来た時も最初に確認したぐらい、資料室の中」
裕嵩はそこまでは知らなかった。大学は違っていたからだ。
「雪って見ていて、興味深いね」
裕嵩も微笑んで話をした。
「うん。一つとして同じ結晶はないからね」
京香も微笑む。
「だから、何だかこの世界、全体に似ている気がして」
「似てる?」
裕嵩は聞き返す。
「一期一会なところ、かな?」
――一期一会……。
裕嵩は一歩踏み出そうと決意する。
「一期一会がいいってわけじゃないよ? むしろ逆なの」
京香が裕嵩の様子を見ることなく、話していた。
「だから、……」
「僕も」
「え?」
京香は彼の目を見た。
「僕も、京香と一期一会なのは嫌なんだ」
裕嵩は微笑んだつもりが、少し眉間にしわがより苦笑にも見える表情になってしまっていた。
京香はすぐに笑顔になり答えた。
「ありがとう。うれしい」
その後、現宇宙の連合はその外側から来た連合に加盟し、巨大なネットワークの一員になった。
生命体は自由意志に沿って必ず出会う。
どんなに届きそうにもない空間を距離を越えて。