良い小話、拾ったお金は
ここは渋谷のNHKKのスタジオ。
「良い子のみんな! ほんのおねえさんが始まるよ! こんにちわ!」
前回の失敗は、ここで800字使ったことだ。
「今日は、良い子のみんなに聞かせたい! ちょっと良いお話シリーズ! 拾ったお金はネコババしちゃダメ、だぞ! わ~い!」
簡単に良いお話を創作してみよう。今時珍しい、子育て世代のお父さんとお母さん、またPTAが大好きな展開だ。
「それでは読みます。」
スタジオの照明が暗くなり、谷子だけをスポットライトが照らす。オープニングトークを200字で突破。
「昔、昔、ある所におばあちゃんがいました。今日は孫のために渋谷にハチ公のぬいぐるみを買いに来ていました。
「あ!? 財布がない!?」
うっかりおばあちゃんは財布をどこかで落としてしまいました。
「どうしましょう? 孫にぬいぐるみを買ってあげることができない。困ったわ。」
そこに一人の女子高生がやってきました。
「これはおばあちゃんの財布ですか?」
「まあ!? それは私の財布です。」
なんと女子高生がおばあちゃんの財布を拾って持ってきてくれたのでした。
「ありがとうございます。これで孫にぬいぐるみを買ってあげることができます。」
「良かったですね。お孫さんも、きっと喜んでくれますよ。」
感謝するおばあちゃんに微笑みかけて去って行こうとする女子高生。
「あの、財布を拾ってもらったお礼の1割を。」
これは財布を拾ってもらった時の暗黙のルールである。
「結構です。ただ財布を拾っただけだし、私もお孫さんが喜ぶ姿をみたいから。エヘッ。」
女子高生は、茶目っ気たっぷりに笑う。
「あの、あなたのお名前は?」
「魔法少女エルメスです。キラ~ン!」
こうして最後に名前を名乗って、物語は終わった。スタジオの照明が明るくなる。まだ谷子は自分が執筆する、魔法少女エルメスを諦めていなかった。
「良い子のみんな! 拾ったお金は自分のお金じゃないからね! 落とした人は困っているから、交番のお巡りさんに届けようね!」
パロディーやギャグを捨て、これだけ良いお話にすれば、性善説の大衆ウケするはず。まだ「2020エルメス降臨祭」&「魔法少女48のコンサート」開催は間に合うはず。
「良い子のみんな! せ~の! 本が大好き! 読書! 最高! またね! 歯を磨けよ!」
世間のトレンドに合わせた脚本を書かなければ。悪魔に魂を売ろう。気がつけば起承転結の、ほんのおねえさんの起だけで1000字。前回の「夜空のお星さま」よりもオーバーしている。なぜだ!?
「それにしても1月15日にオープンした新築の魔法渋谷区役所。まるで魔法の牢獄みたいだな。まるで魔法公務員の仕事が増えるから、やって来るな! と言っているようだ。ガッカリ。」
かなり醜い。魔法渋谷区民は悲しい仕様に感じた。ゲッソリ。現代で、これ程、人間の温もりや血が通っていない建物は珍しい。誰にでも優しいユニバーサルデザインは無視したのね。起承転結の日常の承、200字。
「宇宙を彷徨う隕石さん。残念な魔法渋谷区役所に降り注いでいいよ。本が大好き! 読書! 最高!」
谷子は本を開いて魔法を唱えた。銀河から隕石を召喚する。起承転結の戦闘シーンの転、200字。これは自虐的な公共機関の宣伝です。破壊シーンはアニメに任せよう。
「歌か。みんなでお題を決めて、連想するものを言いあうのが作詞の基本。」
谷子は作詞をするために読んだ本は「誰でも作詞家になれる! 良い子のみんなの初めての作詞! キャッハ!」である。起承転結のアイドルの結100字。
「なんか最近、疲れが取れないな? 無理な生活をしているような。」
1話1500字で起承転結は難しい。考えなければ、精神が病んでしまう。
つづく。




