良いこと、結
ここは渋谷の高級住宅街の一軒家の庭。
「美味しい。朝は紅茶に限るわ。」
結は冬で寒いのだが庭のテーブルセットで優雅にお茶を飲んでいた。
「ティファニー様、寒いから無理してると、かぜをひきますよ。」
「コン。」
結の使い魔兼家族の癒し女幽霊のおみっちゃんと小妖狐のコンコンである。
「いいわね。おみっちゃんは妖怪だから、かぜひかないから。」
「バカは、かぜをひかないみたいな言い方はやめて下さい。」
「コンコン。」
なぜか結は妖怪を司る魔法少女である。
「そう、あなたたちと私が出会った頃が懐かしいわ。私はティファニーのお店の前を歩く町のただの通行人の少女だった。ある時、私は願った。私をキャラクターにしてくださいと。その時、偶然、妖怪が目の前を通っていたのに驚いたわ。」
「ティファニー様の第一声は「足が無い!?」でしたね。あの時は面白かったな。」
「コン。」
それから結は妖怪に憑りつかれている。
「そして魔法少女になった私は、使い魔兼家族として、おみっちゃんを連れている。コンコンもおみっちゃんに懐いているからついてきた。」
「いつも私たちは一緒です。エヘッ。」
「コン。」
「それから妖怪の皆さんに挨拶に行き、協力を取り付けて、私は妖怪を司る魔法少女になったの。」
見事なキャラクター設定である。過去に描いたのはエルメス編だけであるが、全てにもっと細かいストーリーを描くのは可能だろう。またアニメでは無いが、文章だけでも、もう少し大袈裟には可能だろう。
「ところで、おみっちゃん。耳かき以外に何かできるようになったの?」
癒し女の幽霊のおみっちゃん。元々は回復用の妖怪がいないので創作された。しかしポンコツ妖怪なために耳かき回復しかできない。しかも戦闘中に回復は不可能。
「失礼な。私だって、包帯ぐらい巻けるようになりましたよ。私は妖怪のナイチンゲールになりたい!」
「また戦闘中に回復できない技ばかり覚えるんだから。」
「エヘッ。」
笑って可愛く誤魔化す、元祖、エヘッ妖怪。
「コン。」
「コンコン、お腹が空いたの? 妖狐フードの油揚げを食べましょうね。」
「コン。」
「美味しい? 良かったね。」
「コン。」
妖狐も狐である。きっと油揚げが好きに違いない。
「それにしても日常モノみたいに、ダラダラしてきたのに、いきなり良いことをしようと言われてもな。」
「世界平和ですよ! 世界平和! 魔法少女ティファニー様が、悪い奴を懲らしめればいいんですよ!」
「コン。」
どうしても良いことになると悪い魔王がでてきて、正義の魔法少女が倒すになりがちである。
「よし! 私は立ち上がるぞ! 街に行って、良いことをしよう!」
「お手伝いします!」
「コン!」
こうして結たちは渋谷の街に繰り出した。
「どうぞ。温かい紅茶です。どうぞ。」
「ありがとう。」
結たちは冬の寒い中、通勤の大人や、通学の女子高生に、温かい紅茶を配った。
「おお!? なんだ!? この感覚は!? 良いことをすると、心が温かくなるような嬉しさが溢れてくる!? 栞や結と一緒に破壊活動をしていた頃には、得られなかった感情だ!?」
結は他人から「ありがとう」と言ってもらえるのが嬉しかった。
「どうぞ。温かい紅茶です。どうぞ。どうぞ。」
「ありがとう。いつもがんばってるね。」
「ありがとうございます。これからもがんばります。」
結は毎朝、渋谷のスクランブル交差点で配り続けた。
「はい! ティファニー様の紅茶の無料配布を行ってます! どうぞ! 無料ですよ!」
「コン!」
もちろん、おみっちゃんとコンコンも結のお手伝いをした。
「あいつら殺す!」
しかし、善意の結が無料の紅茶を配ることにって、渋谷のファストフード、コーヒーショップ、コンビニは倒産していき、ただの僻みなのだが、新たな人の悪意を生み出すのだった。
つづく。




