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良いこと、栞

 ここは渋谷のマンションの屋根裏部屋。

「いや~おもしろいわ! ラブブック! 27話! 怪獣ちゃんの声は、神の声だったのね! どおりで汚れた私の心が浄化されいく感じがするはず。」

 本を読んでいる渋井栞の心は、かなり汚れていた。

「本ばっかり読んでないで、少しは掃除を手伝ってくださいよ。ワン。」

「ご飯の支度も手伝ってください。ニャア。」

 栞の使い魔兼家族の犬のケリーと猫のバーキンは家事をこなしている。

「いやよ! せっかく展開が早すぎて、各キャラクターの土台が弱いから、1話1500字のフリー・タイムなんだから、好きにさせてよね。剣道とか、鉄道とか、魔法を使いすぎて疲れてるんですから。」

 栞は大活躍過ぎて疲れ切っていた。

「そうですね。ブラック企業並みの過労死ラインで働かされていますからね。ワン。」

「今度は良いことをしろっていうんですから、真逆な性格のエルメス様には大変ですね。ニャア。」

「そうそう・・・って、人を邪悪な存在みたいに言うのはやめなさい。」

 栞はノリッツコミもできる。

「私は元々は純粋な女の子だったんだから。」

 栞は昔のことを思い出しながら語る。

「元々、私はエルメスのお店の前に立っていた、名も無い通行人の女の子Bだった。しかし、ある時、お星さまに願い事をしたの。私をキャラクターにしてくださいって。そしたら魔法使いエルメスになれたの。」

「私たちも捨て犬と捨て猫だったけど、エルメス様に拾ってもらいました。ワン。」

「だから使い魔と言わずに、使い魔兼家族という言い方です。ニャア。」

「だって私たちは名も無い頃からの家族だもの。」

「ワン。」

「ニャア。」

 栞にとって、ケリーとバーキンは本当の家族である。やはり他のキャラクターも魔法少女になるには、過程が必要である。どこの店の前に立っていたのか、何にお願いしたのか。使い魔兼家族との出会いも必要だな。

「それから銀河を司るべく惑星、月、太陽、宇宙とお友達になったの。」

「ほぼ戦いでしたけどね。ワン。」

「夜空のお星さま音楽隊、懐かしいですね。」

「魔法少女って大変なのよ。声優さんがコンサートしてお金儲けするために、今時の魔法少女は歌って踊れないといけないのよ。アイドル作品じゃない、っの。」

 栞だけでない、最近のアニメキャラクターは、みんな疲れている。

「そして銀河系最強の魔法使いになった私は、カワイイ怪獣ちゃんと運命の出会いを果たすの! まさに運命!」

「魔法を使って、谷子さんの目の中に住んだこともありましたね。ワン。」

「谷子さんがほんのおねえさんに選ばれた時は感動しました。ニャア。」

 やはり本が大好きな谷子がほんのおねえさんになって、ハッピーエンドで2時間映画が終わるくらいが、丁度良い作品かもしれない。

「そして、今回。私は魔法少女に肩書を変えて帰ってきた。流行に合わせた魔法少女メインのシリーズものとして、悪事の限りを尽くす、従来通りの作品と思っていたのに、良いことをしないといけないですって!?」

 なんでも魔法で解決してきた栞には困ったお題である。

「い、い、痛い!? 頭が割れそうだ!?」

「大丈夫ですか? エルメス様。ワン。」

「良いことにアレルギー反応が出ていますね。ニャア。」

 自分たちの家族であるがエルメスに呆れるケリーとバーキン。

「前回も、なんとか渋谷のスクランブル交差点で困っていたおばあちゃんを助けたわよ。その時、襲いかかってくる車を爆発させて炎上させるのが精一杯だったのよ。」

 こんな調子で良いことをする正義のヒーローの魔法少女になれるのだろうか。

「私の回なのに、どうして怪獣ちゃんは登場しないんだろう?」

 それは谷子がオチだからである。


つづく。

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