告知
ここは渋谷のスクランブル交差点のツタヤ。
「ありがとうございました。」
前髪が長過ぎる谷子がアルバイトで働いている。
「ねえ、聞いた、聞いた? ほんのおねえさんが本を書くんだって!」
「ほんのおねえさん! マジ神! 超カッコイイ!」
「もう渋谷のNHKでアニメ放送も決まってるらしいよ!」
「だよね。ほんのおねえさんだもの。」
「カードや、ぬいぐるみの発売もきまったんですって! 私、ケーリーとバーキンの高級バックが欲しい。」
「カラスのヴェルニのアホ~アホ~ボイス付きの目覚まし時計がいいな。」
「で、ほんのおねえさんの本のタイトルってなんだっけ?」
「あれよ、あれ。」
ほんのおねえさんのファンのお客さんが店内に貼ってあるポスターを指さす。
「魔法少女エルメス!」
正確には「銀河系最強の魔法少女エルメス」である。
「私のお姉ちゃんです。」
谷子がボソッと言っても店内の誰も聞いていない。
「ほんのおねえさんもここに居ますよ。」
谷子がボソッと言っても残念ながら誰も聞いていない。
「渋谷子ちゃん。本を書くの?」
そこにツタヤの店長が現れた。
「はい。まだ書き始めたばかりですが。」
「発売日はいつなの?」
「まだ決まっていませんよ。」
「そうなんだ。」
そう言うと店長は去って行った。
「臨時店内ニュースをお伝えします。ほんのおねえさんの書いた小説、魔法少女エルメスの発売日が2月1日に決まりました。」
次の瞬間、渋谷のツタヤの店内放送で店長がほんのおねえさんの本の発売日を勝手に決めて放送した。
「キャアアア! 2月1日に発売だって!」
「ほんのおねえさん万歳! 万歳! 万々歳!」
ほんのおねえさんのファンたちは発売日の決定を涙を流して喜んだ。
「店長め!? 勝手に発売日を決めやがったな!?」
谷子は店長に雇ってもらった恩があるの歯向かうことはできない。
「今からほんのおねえさんの書いた本。銀河系最強の魔法少女エルメスの先行予約を受け付けます。予約特典は渋谷店限定のほんのおねえさんの直筆サイン入りの本をお渡しすることを確約します。」
これで谷子の手が腱鞘炎になることが決まった。
「予約します! ほんのおねえさんの本を予約します!」
「魔法少女エルメスを予約させなさい! ちゃんとサイン下さいよ!」
「ほんのおねえさん、ビバ! 最高!」
レジにはほんのおねえさんのファンから、転売目的のおっさんまで長蛇の列ができた。
「お、お、押さないで下さい!? ギャア!?」
レジを担当していた谷子は、ほんのおねえさんと気づかれることは無く、押し寄せる自分のファンに恐怖した。
「いけない!? 店が潰れてしまう!?」
狭い渋谷のスクランブル交差点のツタヤ店内に入りきらない人々の長蛇の列が渋谷の駅まで続いてしまい、渋谷はハロウィン並みに混乱してしまった。
「ご覧ください! 渋谷の街に人が溢れています! ハロウィンでもないのに、渋谷にいったい何があったのでしょうか!?」
ワイドナショーのヘリコプターがやって来て、生中継で渋谷の大量の人の大混乱を放送する。
「はーい! 渋谷警察です! 交差点にいる人間は解散しなさい! 道路交通法違反で逮捕しちゃうぞ!」
遂に渋谷警察が出動する騒ぎになった。
「ウエエエ~ン! 最初っからサインは先着100名にしておけばよかった。」
店長は渋谷警察署に呼ばれ、こっぴどく怒られた。
「お疲れ様でした。」
谷子は何事もなかったようにアルバイトの退社時間になったので帰って行った。
「店長、宣伝してくれて、ありがとうございます。」
結果的に、ほんのおねえさんが書く本、魔法少女エルメスは事前告知宣伝に大成功したのだった。
つづく。




