兵の故郷
砂漠に佇む廃墟の街。
そこには1人の軍人がいた。
軍人は思う。
私はいつから私であったのか。
中東かもしれない。
アフリカかもしれない。
ベトナムかもしれない。
ノルマンディーかもしれない。
ベルリンかもしれない。
銀河の彼方かもしれない。
私は、私が何処からココへと来たのか全く覚えていなかった。ただ一つ覚えている事は、私は故郷の為に戦っていた事だけだ。気付いていたら私はココにいた。
ココへ来た瞬間、私はここが「故郷」だと確信した。護るべき地、決して滅ぼさせはしないと神に誓った。
可笑しな事だ。ここには人っ子1人居ないのに。
私は防人と成った。
私は規格外の体力、筋力、射撃能力を手に入れ、そして無数の火器を手に入れた。
時たま人が訪れる事があった。大抵は私が仕掛けた地雷によって吹き飛んだが。
ある日、少し変な集団が現れた。
男1人に、女4人。服装からしても色々とおかしく、私は少し様子を見る事にした。
どうやら、彼等は私と同じく「異なる」人であるようだ。地雷を物ともせず、不思議な言葉を唱えて機関銃タレットを破壊した。一筋縄ではいかない人達だ。
私は話し合いをする事にした。
「そこの人達、止まれ。そこから先は我が故郷。何人たりとも立ち入らせる事は出来ない。如何様な用だ。」
男が大声で答える。
「俺はアキト!色んな世界を巡って武者修行中だ!周りの女性は俺の仲間だ!あなたはここの守護者か?俺たちを攻撃したならばあなたは俺たちの敵だ!容赦はしない!覚悟!」
何だこいつは。いきなり我が故郷に押し入ろうとし、私を倒そうとしてくる。
最早情けを懸ける余地は無し。殺すべき敵だ。
私は全力で後方に移動。そして距離を取ったならば虚空から狙撃銃を手に取る。これは対物であり、威力は申し分ない。
スコープを覗く。
彼等は動揺している。
甘い、余りにも甘い。彼等は覚悟が出来ていない。
私が名乗るとでも思ったのか?
先程地雷を防御した女に照準を合わせ、
3つ数えて敵の家族を考える。
3つ数えて私の故郷を考える。
引き金を引く。
女の頭部が吹き飛ぶ。
彼等は何も理解出来ない様子であった。
一撃離脱。私は即座に煙幕を張り撤退し、ありったけの無人攻撃機を起動する。それを確認した後に高層ビルに隠れる。そして私は準備を整え始める。
数十分後。
誰一人殺せないまま無人攻撃機のほぼ全ては撃破されていた。
元よりこの程度でやれるとは思っていないが予想よりかなり早い。少し見誤っていた。だが戦闘を見ていてわかった事がある。
奴等は、アマチュアだ。
そうと決まればやる事は決まった。
私は奴等の前に姿を見せる。
そして短機関銃を威嚇程度でばら撒いた後、離脱する。ここからが賭けだ。
奴等が追いかけてくる。異常に足が速く、間も無く追いつかれる。
だが賭けには勝った。
私は道の突き当りのビルに入り、姿を隠す。
奴等は怒声をあげながらビルへと入ってくる。
バカな奴等だ。ビルごと私を攻撃すれば良いものを。
私は予め用意していた脱出口で見つかる事なくビルから離れる。少し離れた民間の物陰に隠れ、
ビル中に仕掛けた爆弾を起爆させる。
面と向かって戦うつもりは無い。閉所なら勝てるとも慢心していない。
ビルが望み通りに倒壊した。少なくとも1人は殺せたであろう。
倒壊が落ち着いてから偵察用のドローンを飛ばす。
すると、上半身のみとなった女の周りに咽び泣いている奴等がいた。奴等は私を警戒する事なくひたすら泣いていた。
あと3人。
最早こんな子供騙しの策は通用しない。
防人にはやらねばやらぬ時もある。それが今だ。
私はドローンの操作を放棄して突撃銃を装備し、奴等に乱射しながら突き進む。
奴等は動揺したものの、しっかりとバリアの様なモノを張った。
私は舌打ちをしながら突撃銃を捨て、新たな兵器を取り出す。
RPG-7。ロケットランチャーだ。
私は素早く膝をつき、しっかりと照準を合わせ、発射する。
寸分過たず奴等に弾頭が突き刺さり、爆発する。
破砕音が鳴った。バリアが壊れたのであろう。
そう考え、ロケットランチャーを捨てて私はガトリングガンを取り出す。
地面に設置し、毎秒何十発という鉄の嵐を解き放つ。
バリアを張っていた女が奴等を庇いミンチになり、死んだ。
奴等の目がやっと変わった。命の奪い合いをする者の目だ。
火の玉が飛んでくる。かろうじて回避する。
反撃は—不可能。回避しきれておらず、両足が炭化していた。
元々不利な戦いだった。
自分と同等の相手が5人。むしろよく耐えた方であった。
奴等が向かってくる。
私の首に刀を突き付ける。
奴等の目は憎しみに満ちていた。当たり前だ。私だってそうなるだろう。
「言い残す事はあるか。」
空を見上げる。ここの空は私がかつて居たであろう場所と異なり全く変化しない。だが嫌いでは無かった。
なぜなら、
ここが私の故郷なのだから。
「私は防人。故郷をお前の好きには決してさせない。」
私は残る力全てを出して拳銃を取り出し奴等に乱射する。
届かない。
バリアを張れるのは1人では無かった様だ。
腕を斬り飛ばされる。
「最後まで油断ならない奴だ。」
今度こそ、終わりだ。
国破れて山河あり。よく言ったものだ。
刀が煌めき、私の身体を切り裂く—。
衝撃音。隣のビルが崩れる。
二度、三度、次々に地形が破壊される。
駆動輪の音が聞こえる。
瓦礫を踏み倒し進行している。
そして無数の靴音。
[こちら爆撃部隊セイバー。プロテクターへ、ご苦労であった。後は我々が引き継ぐ。]
[こちら機甲部隊レッドナイト 。プロテクターへ、勇敢であった。敵は我々に任せてくれ。]
[こちら歩兵隊ブルースカウト。プロテクターへ、お前は英雄だ。ゆっくりと休め。]
空に無数の爆撃機が飛翔している。
砂埃を切り裂く様に装甲車が進行している。
多様な火器を抱える兵士がその目に故郷の誇りを持って隊列を組んでいる。
そうだ。忘れていた。
私には友がいた。
地獄を共にした友。
誇りある戦いをした友。
敵味方の枠を超えクリスマスに奇跡を起こした友。
共に故郷を守った友。
[こちらプロテクター。全部隊へ、故郷を仇す我らの敵を滅ぼしてくれ。]
言うことはこれだけだ。
[[[了解した。]]]
私の誇り高い友は必ず奴等を滅ぼしてくれるだろう。
私は奴等に初めて笑顔を向ける。
「言い残す事は?」
「...ッ!」
もう何も恐れる事は無い。
私は救護隊に担がれ、その場から離れる。
奴等は私を攻撃しようとするが、友はそれを許さない。そして、赦さない。
無数の爆発音、発砲音の中、私は微睡みへと落ちる。
その中で私は自分の正体に気が付いた。この異常な事も全て理解した。何、答えは最初からあったのだ。
私達は兵士。
私達は防人。
私達は戦士。
そして、私達は故郷を愛していた。
ただ、これだけの事だ。




