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妖精って事でお願いします

 神妙な様子でセレナを見つめるラジット。


「……気になっていたんだが、その光の集合体は()()()かな?」


 ラジットの問いに、セレナは肩を揺らした。そろりと自分の頭の上に乗っているスピカを見ようと視線を上にあげた。セレナの頭の上からフワリとスピカが浮かび上がる。ルードヴィヒは流石に自分が話していい内容ではないと判っているのか、ラジットから視線を外し口を真一文字に黙るようだ。


『あら。ハッキリではないようだけど、見えるのね』

「……えっと… あのっ…」

 

 額から生温い汗が伝い落ちる。あきらかに焦っているセレナに、スピカが落ち着かせる様に優しい口調で窘めた。


『馬鹿正直に星獣だという必要はないわよ。姫、落ち着いてっ』

『…でも、ラジットさんには嘘…つきたくないな』


 本来、占星魔法が使えなければ星獣と意志を通わせることはできない。その為星獣と共にいるという事は、占星魔法が使えるという事に繋がってしまうだろう。というか、星獣を見て話せる事が占星魔法の一つでもあるのだが。他の何は知れてしまっても占星魔法のことと本来の髪の事は知られるのは非常に不味い。


『どどどどどうしよう、スピカが星獣ってバレちゃったらっ』

『慌てないのっ ふぅ……姫、任せてっ』


 本当の事は言えないがどう説明しようかと考える間もなく、スピカ自ら姿を現し口を開いた。これは黄道12門の星獣や魔力の強い星獣であればできる事である。


「はじめましてラジットでいいかしら? 私は地の()()のスピカよ」


 鈴の音の様なソプラノがラジットの耳に運ばれる。その目の前には手のひらサイズの羽の生えた乙女が浮いている。興味津々の表情で、うんうんと頷くラジット。


「はじめまして。スピカ殿はセレナ嬢の……うん。()()()()になるのかな?」


 契約妖精とは、その属性の魔法を極めた魔導士に呼び出だされ契約を交わした妖精の事である。契約内容に沿って魔法の力添えをしてもらうのだ。もっぱら、力を貸してもらったことに対してどんな対価を支払うかの契約になる。大抵は対価として菓子を用意することになるらしい。属性魔法を極めること自体が困難な上、妖精同士の相性もあり多属性の妖精と契約できることは珍しい。妖精は純粋なだけ気難しいとされているのだ。


 スピカは、ラジットにむかってフフフと微笑むとちょんとその鼻を押した。


「いいえ。私達は姫の守護をするものよ」

()()()()なのか……()()?」



 守護妖精とは、生まれ持った資質が妖精に好かれる者に、自然と寄ってきて魔法の手助けや危険から守ってくれる妖精だ。契約ではないので妖精の気まぐれに振り回されることもあるが、基本対象を家族のように大切にしてくれる。意志の疎通ができるので契約妖精の様に対価――菓子――を与え、人の意志に合わせて力添えをしてもらう事も可能である。複数の妖精に守護されることもあるので1つの属性に縛られずにすむが、妖精に好かれる資質を持つもの自体が稀な存在であるのだ。


 スピカはそれ以上答えず、くるりくるりと宙を舞いセレナの肩に戻ってきて、ラジットの視界から姿を消した。スピカが消えた宙を見ていたラジットは、視線をセレナに定めた。


「……他にもいたりするのかい?」


 ラジットがキラキラとした視線をセレナに向ける。好奇心満載のその視線に、セレナは思わず後ずさりしそうになるが、耳元でポリマ――スピカの第2の姿――に『この人は大丈夫。姫の力になるから、何人かは紹介しておいた方がいい』と囁かれた。


 ――ポリマがそういうなら…


 セレナは小さく頷き、サイズ的に列車の中に呼べる友の名をポツリと呼んだ。


「パルム、ガーティ……、あと……そうね、オフィ、おいでっ」


 そこに、銀色の毛の小犬、黄金の小獅子――最早ただの猫――、手のひらサイズの白衣を着た少女が現れた。小犬はセレナにぴったりと寄り添いブンブント尾を振っている。その菫色のまん丸の目には、主しか映していない。小獅子は、セレナの足元に身を屈めふわぁとあくびをしていて、白衣の小人はセレナの膝に乗りラジットに向かってぺこりとお辞儀をし、ふわりとジャンプしてテーブルに移った。

 

「オフィ?」

『姫様、見ててっ』


 小人オフィは、ジッとラジットを見つめおいでおいでと手招きをする。なんだと顔を近づけたラジットの髪を引っ張り古傷の火傷に手を当てた。フワリと水が滴ると周りの皮膚を引っ張って突っ張って火傷痕が見る見る薄くなった。そしてにっこりと笑って、消えた。


「……すごいっ」


 ラジットは感慨のため息をもらし、火傷のあった場所を触りながら、暫く黙ってしまった。ジッと何かを考えているようだ。

 

 星獣の姫の友、星獣は伝説や空想のモノとされている。人が目にすることがあまりにも無かった為だが、実際は妖精の上位の存在であり、妖精を教育し導いたりもしている。妖精はなにかしらの要素、成分の集合体が意志を持ち産まれてくる。その時に大抵の妖精は上位の星獣の形を真似する事が多い為、姿かたちが似たものが多い。その為、セレナの友人たちが姿を見られても、大抵の人は妖精を目にしたと喜ぶだけだろう。妖精自体もめったに人前に姿を現さないのだから。


「あのな、セレナ……」


 暫く押し黙っていたラジットは、自分は見せてくれと強請っておいてなんだがと前置きし、セレナの、星の友人達をあまり人目に触れない様にと念を押された。スピカ一人くらいなら混乱もないが、多数となると良からぬことを考える者も出てくるかもしれないという事。魔導士からしたら、妖精は喉から手が出るほど契約を交わしたい、欲しい存在なのだ。


 それに加え、縛りつける者ではないが今後、魔導騎士団に入団し任務に就く際は互いの魔法を晒し合う必要もあるが、その場合は星の友人たちの事を口外しないと魔導契約書を交わしていいという事と、親しい人以外には自分から言うのは控えた方がいいとの事だった。星の友人たちをさらし者にする気は毛頭なかったので、セレナはラジットの提案に素直に頷いた。


 それからオフィが治した火傷痕を鏡で確認したり、ルイスの懲罰房行になった経緯等を聞き、パルムやガーティを撫でまわしたりしながら列車は進む。



 魔導騎士団所有の魔導列車は、まもなく王都に到着する。







「まぁそんな感じで、セリーナ・ステラ・スペンサー男爵令嬢。好きでもない人と結婚したくないので、セレナ・スペンサーと改め、魔導騎士団に入って魔物を倒しまくろうと思います……入れるかなぁ魔導騎士団…」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

パルム → こいぬ座(以前に説明あり)

ガーティ → こ獅子座 黄金の毛並みの小獅子。獅子座のレオの小型版。その見目は、ただの子猫のよう。

オフィ → へびつかい座 黒髪で白衣を着た小人(女の子)口数が少なく静か。頭が良く医療を研究するのが好き。

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