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騎士の小父様

 大きく紋章が描かれた白い魔導列車はたった1両のモノで、ルードヴィヒとラジットが乗ってきた。魔導騎士団の特別製らしい。

その列車の一室を人払いし、3人は正方形の机を囲み席に着いた。

 羽を生やした小さな乙女スピカは物珍しそうにパタパタと飛び回り列車のあちらこちらを覗いている。スピカの何時もとからわない様子に落ち着きを取り戻したセリーナは、深呼吸をし右側に座るルードヴィヒと視線を合わせ頷くと、正面に座るラジットに視線を向けた。


 ――よくわかんないけど、ちゃんと話さなければいけないのね…


 改まって真摯な目をラジットに向けるセリーナ。その視線を受け、ラジットは目を細め「大きくなったね」と笑った。柔らかいその笑みに、胸の奥がザワリと騒いだ。


「え?」

「……こうすればわかるかな?」


 徐にマントを脱ぎ、茶色い髪を手から出した水で後ろへと撫でつけ、風魔法で顎に蓄えている髭をすっきりと剃った。額に露わになる古いやけどの痕。セリーナは息をのんだ。柔らかく微笑む姿に思い当たる人物が頭を掠める。ふわりと胸が軽くなった。


「……騎士の、小父様……?」

「久しぶりだね 小さなお姫様?」


 ぬっと延びてきた手がセリーナの頭をなで、そこにどこからか取り出した赤い小さな花を挿した。


「っ!! 小父様っ御久し振りです」


 ニッコリと優しく笑うラジットは、パチンと指を鳴らして髪を乾かし、マントを再び羽織ってしまった。髭を剃ったばかりの顎を撫で、微笑んだままだ。その傍らで、小刻みに肩を揺らす朱色頭。


「クっ ()()()()って ククッ」


 セリーナの小父様呼びがツボに刺さったようで、ルードヴィヒは腹を抱えて笑いだした。やっと解ってくれたかと、ラジットの肩からは力が抜けたようだ。


「…すこしは、信用してもらえるかな?」


 ラジット・ニコラウス。

 過去に1度だけ会っていた。クラーワ王国の騎士として数年前荷物に隠れてセリーナの元へ来てしまったルードヴィヒを迎えにきた魔導騎士がラジットだった。当時紹介された時は黒い騎士服を身に纏い、今してくれた様に髭は綺麗に剃っていて髪を後ろに撫でつけていたのだ。後からセリーナの父バーナードとルードヴィヒの父リーベルタスの魔法の師匠とも呼べる人だとも聞いていた。


 ――ルーが無断で出てきたことは怒ったけど……、

 ――あたしのところへ来てくれた事を、大人で唯一褒めてくれたんだよね


 いつまで笑っているんだとルードヴィヒの朱色頭を叩いたラジットは、ではとセリーナに話を促した。


 ――直接あたしを知ってるし、お父様の魔法のお師匠様だもんね…

 ――今さら何を隠しようもないしなあ…

 ――何より、あたしはこの人好きだっ


 列車は王都へと動き出した。魔導騎士団専用の列車の一室で、セリーナは事のあらましをルードヴィヒとラジットに説明することにした。

 家を出る事になった経緯を思い浮かべ、小さく息を吐く。政略結婚が嫌だなど、階級社会に生まれたのに何を言っているのかと諌められるかとも思ったが、ラジットは難しい顔をしたまま黙って聞いてくれた。ガーランド侯爵家と王族の婚姻の話には、溜息と共に頭を抱えていた。


 ――騎士のおじ様……、ラジットさんも想うところがあるのかな…?

 ――ていうか、あたしはお父様がすべて話してくれたとは思っていないのよね 

 

 ――ガーランド侯爵家と、王族に何かがあったんだろうな…


 傍らでルードヴィヒが真朱色の目を細め、たまに眉を動かしながら聞いていたが、すぐに飽きたようでスピカを突いて遊びだしている。呆れた目をルードヴィヒにむけるセリーナ。


 ――はぁ……ここだけ平和なんですけど…フフッ

 ――ほんと、ルーは変わらないなぁ


 ――ついつい、ホッとしちゃうじゃんかっ


 先日から、自分の身におこったことをかいつまんで説明し終え、続けて魔導騎士団の門をたたくにあたってセリーナは身分を少し偽ることとなっており、その際に出された条件の説明を始めた。


 まず名前は、セリーナと名のらない。仮の名をセレナ・スペンサーとする。出生届から存在がばれてしまったガーランド家直系の娘セリーナは、母譲りの病弱で表には出れないことし、今もスペンサー領で静養している事になっている。セレナはソフィアの産んだ娘ではなく、セリーナの話し相手として遠縁から養女にしていた事となった。ガーランドの遠縁としたのは、セレナの占星魔法が万が一、人目に触れてしまった際のいい訳にもなるからだ。 

 そして、養女であるセレナは15歳となり自立の為、育ててもらった恩を返す為、魔導騎士団に入団する事にしたのだという事になる。


 セレナとしての設定は出来上がったとはいえ15歳で成人とされるこのクラーワ王国では、新成人の貴族は成人のあいさつの為登城しなければならないとされている。所謂社交界デビュー、テビュタントだ。それは成人した年から翌年の間とされているが、何らかの理由により翌々年まで伸ばすことができる。

 セリーナは病弱を理由に翌々年まで伸ばすことにしているのでセリーナに与えられたセレナとしての期限は2年とされたのだ。養女セレナの成人の登城も、セリーナと共に予定している事とした。


 貴族が親のいない子を実子の遊び相手として養子に迎え、成人後自立の為に支援するという事はわりとよくあることなのだ。遠縁といえ縁があれば実子の遊び相手とは関係なく養子にすることも多い。むかしは政略結婚などを強要される事もあったが、恋愛結婚が主流となっている現在はそれもなく、貴族籍の継承権や相続権は与えられないが悪評が発つ事がなければ家名や、そういう身分用に設けられた姓を名乗らせてもらえる。養子からしてみれば育ててもらった恩を名を売ることで返すことができるのだ。


 以上が、魔導騎士団に入団するための条件として父に開示された内容だと伝えた。本当の色に関しては誰にも語れないので沈黙だ。自身でさえ知らなかったのだから、幼馴染であるルードヴィヒでも知らないことだろう。何よりうそをついているわけではない。

 フムフムと、顎に手を当て頷きながら聞いていたラジットの脇で、スピカと遊びながらも話を聞いていたらしいルードヴィヒは真朱色の目にセリーナを映している。小さな姿のスピカは飽きてしまったのか、テーブルの上で主の腕に寄りかかり居眠りを始めようとしている。


「では、これからはセレナと呼ぼう。どちらにせよ魔導騎士団内では登録の時以外は、姓を名乗ることはない。『王立魔導騎士団所属、セレナ』という肩書になるからね 改めてよろしくセレナ」

「よろしくお願いしますっ」


 笑顔になるセリーナ、改めセレナ。セレナは、傍らに座るルードヴィヒに目を向け眉を下げ口を開いた。幼馴染の顔はなぜか不機嫌に見える。


「…だから、ルーもセレナって呼んでね?」

「………んだか、ヤダな」


 唇を尖らせるルードヴィヒに、呆れたように諭す様にラジットが口を開いた。


「セレナ、この調子では説明していないだろうが、身分的にルードヴィヒも呼名をルイスと変えている。カークス家は何かと有名だからなのだが…ルイス、お前も呼名を変えているだろうが」

「だってよぉ…何か他のヤツと一緒でつまんねぇなって…」


ぷくりとふくれるルーの頬をつつきながら、しょうがないなとセレナは笑う。


 ――そう言えばこいつは、父親だけでなく身内認定した者に対してはベッタリと甘いのだ

 ――普段は、無口キャラなのにコレだもんなぁ

 ――そう考えると、ラジットさんのことは身内扱い……気に入ってるんだろうなぁ


「フフッじゃぁ、セリーナの時はリーナだったから、……レナでどお?」

「レナか……わかったっ」


 ルイスの早変わりに、ラジットは呆れた視線を向ける。その視線に気が付かずに、セレナはルイスの真朱色の目を見つめた。


「ねぇ。ルーはルイスだし、このままルーって呼んでてもいいでしょ?」

「……リーナは…レナは、ルーでいいぞっ」

「ふふっ」


 セレナの大きな瑠璃色の目が、優しく弧を描く。言葉を挟まないでいたスピカは、ふわりと浮かび上がるとルードヴィヒの顔の前で、しょうがない子だと呟いた。その様子にスピカの頭を突いてやろうとルードヴィヒが指を伸ばすが、それをスピカはふわりと避けセレナの金色の頭の上に乗っかった。傍から見ればルードヴィヒが1人で手遊びしているようだ。その様子を考えるように見ていたラジットが、ポツリと呟いた。


「で、1ついいかな?」

「……はい?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ラジット → ラジット・ニコラウス 46歳 魔導騎士団団長 セリーナの両親、ルードヴィヒの父リーベルタスと知り合い。バーナードとリーベルの学生時代、魔導騎士団からの派遣で魔法の教鞭をとっていた。勝手に師匠扱いされ、色々と尻ぬぐいさせられていた。基本面倒見がいいので面倒くさがるけれど、本心では苦ではない。

 茶髪に黒目、浅黒い肌。成人男性にしては小柄。無属性の魔法を使い身体強化・肥大など、体を変化させて戦う。全属性使える。


レナ → セレナのルードヴィヒ専用の愛称

ルー → ルードヴィヒのセレナ専用?の愛称

ルイス → ルードヴィヒの魔導騎士団内の愛称


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