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そろそろ待ち合わせの時間なんですが……

 

 ラウルスの街を、歩く娘の金色の髪が陽の光を反射してキラキラと光っている。それを梳く様に優しい風が揺らめき、髪を留めたリボンを揺らした。


 ――ふふっ……ふふ、ふぅ

 ――デネブ、手紙わたしてくれたんだよね……

 ――大丈夫かなぁ…

 ――あいつ…筆より先に行動しちゃうからなぁ…


 スペンサー家を出る前夜、つまり家を出ると決めた晩に白鳥座のデネブに仕事を頼んでいた。幼馴染の元に迎えの催促の手紙だ。一方的に場所と時間を指定したが断りの連絡は、無かった。という事は、彼はこちらに来てくれるので間違いないとは思うのだ。――が、心配だ。


 ――せめて、『わかった』とか『了解』とか返事くれればいいのになっ

 ――まぁ……そういうの苦手だもんなぁっ


 空を見上げれば、深い蒼と鳥形のような真っ白い雲達。ゆっくりと飛んで行く白い鳥たちを見送り、深呼吸をして辺りに視線を巡らせた。

 朱色の燃えるような暖かい髪色と、濃く深い真朱色のつり目が楽しそうに弧を描くのを思い浮かべると、娘は上機嫌に足を運ぶ。念の為ともう一度キョロキョロと辺りを見渡すが、やはりそれらしい人物は見当たらなかった。


 ――早く、会いたいなっ


 隠されて育てられただけあって、娘は超が付く程の箱入り娘だ。知り合いといった類は、ほとんどいない。父親や母親の親しい友人位なものだ。数少ない知り合いの中たった一人同世代の幼馴染で、王都とスペンサー領とで離れているが常に連絡を取り合っていて、気の置けない関係を築いている。


 ――昔した約束、覚えているかな?

 ――2人で、遠いとこまでお出かけ……

 ――今なら誰とでも出かけられるけど……きっと、誰よりも楽しいんだろうなっ

 ――なんかワクワクしすぎて、緊張しちゃうかもっ



 箱入り娘であっても、生まれ育った港町である父の治める領地では散策くらいした事はある。だがそこは皆が顔見知りであったし、港に船が入る時や街の外から人が来る時は屋敷から出してもらえなかったし、どんな時でも護衛付きだったりした。


 ――あたし一人でって、星獣の森の屋敷にレオやエリアスに会いに行く時だけだったかも

 ――まぁ、今だって一人じゃないけど…


街歩きや買い物の知識はあるし、他の人に見えないが傍らにはスピカ。先程髪を梳いたエアリスも、風に乗って近くにいてくれているようだ。


 ――心配も、不安もないよ

 ――……ほんのちょっとだけ…

 ――ドキドキの方が何倍も大きいしっ


 はじめての街は、ついついキョロキョロとしながら歩いてしまう。露店からあれこれと売り込みの言葉をかけられるたびに、娘はキラキラと目を輝かせ覗き込んで歩いた。何か掘り出し物は無いかと真剣だ。


 ――買い物って、どうして見ているだけで楽しいんだろう

 ――そういえば、値切る事も大事だったよねっ


 目に入ってくる露店の数々。港町とは何もかも異なっている。どうしたって初めて目にする光景ばかりでワクワクと心が弾んでくる。待ち合わせにはまだ時間がある。娘は、目についた露店の主人に向かって、にっこりと微笑んだ。


「これ…いくらまでお安くなりますか?」


 キョロキョロと通りの脇に並ぶ露店に目を輝かせれば、店番に声をかけられる。欲しいものがあれば、こっそりスピカに妥当な値段を聞いて値切ってみる。上手くいったりいかなかったりだが、商売人との会話だけでも楽しいものだ。

 話のテンポが合った露店で干し肉を袋に大量に積めてもらった。


 ――ふふっ

 ――シリウス達、喜ぶかしらっ


 露店主から受け取った袋を、キャスター付きの鞄と、腰にぶら下げたポーチにそれぞれ入れた。いいものが安く大量に手に入ったのだ。得した気持ちで、娘の足取りも軽くなっていた。


 ――楽しいっ




「イヤァァァァァァ!!」


 つんざくような女の高い声が響いた。娘の後方からの声に、金色の髪を揺らしながら振り返ると人影が目に入った。


「ちょっと、離してっ!!」

「いいから話聞けって!」


 娘の瑠璃色の目に、若い男女の喧嘩風景が見てとれた。「離して」だなんだと叫んでいるが、女の方は頬を膨らませるだけで、身じろぎひとつしていない。元々、その場を離れる気はないようだ。男が腰を下ろして、何やら説得している様子に危機感が全然湧かなかった。


 ――なんだ…

 ――痴話げんかか…


 足を止め、その光景を見ている内に男女は手を取り合っていた。フフフッと苦笑を浮かべ乍ら金髪の娘は進行方向に向きなおり、新しい生活に必要なものを詰め込んできたキャスター付きの大きな鞄の取手を握りなおそうとした時だ。


 がくんと身体が揺れる。


「……っ!?」


 少女の大きな鞄を抱え脱兎のごとく逃げていく小さな後ろ姿が、少女の目に映った。


 ――こども……?


 突然の事に、呆然と子供の後ろ姿を見送ってしまった娘は、はっと意識を取り戻した。


 ――…………!?

 ――あぁ……しまったぁ

 ――もうあんな向こうに……


 転ぶ寸前で体勢を立て直した少女は、眉を下げ小さく息を吐く。自分のカバンをもって逃げていく後ろ姿からして、それはまだほんの子供だ。


 ――魔力で鍵かけてるから、あたし以外には開けられないんだけどなぁ

 ――エリアスが見てるだろうし…

 ――あんま手荒な事は……したくないんだけど


 さてどうしたものかと、思案しようとした時――閃光が空を突き抜け、風の渦が空にあがった――


 ――あ……まずいっ


 一本に結い上げられた金色の髪が空に舞い、石畳を叩くブーツの音を響かせる。露店が並んでいた通りから脇道に入り、建物の間をぬって娘は走った。


『誰かいる?』

『スピカも手伝うよ 姫』


 頭に直接響いてくる声は、先程から一緒にいた絵本にでてくる妖精のような見た目のおとめ座のスピカ。直後、道の脇に植えられている木々が成長し、娘が通り過ぎた道を塞いだ。他の草花もさりげなく娘のむかう先と街道からの道を塞いでいく。


『スピカ、ありがとっ 風と水の子達もスピカに力を貸してっ』


 走りながら、心の声を上げると風が吹抜け白銀の毛皮を纏ったおおいぬと、2匹の魚が空を泳いできて綺麗な女性の姿になり、娘の脇に並ぶ。


『シリウスは、防音と被害がでないように気をつけてあげてっ』

『わかった』

『ピスケス、来てくれてありがとう 水膜はって平穏な幻影と結界っ』

『……(コクン)』


2人が従ってくれると、手伝ってくれる友人たちに『ありがとう』と魔力を乗せて囁く。娘の声が星獣達に十分な魔力を与え、それぞれがこれから起こるであろうトラブルが外に漏れない様に力をふるう。


『兎に角、ここに人が近づかない様にお願いねっ』


 向う先では、吹き抜ける凶悪な暴風が渦を巻き、光のように白く輝き全てを焼く焔が火柱を上げているのが見える。

近づくにつれ周囲の温度が上昇し、渦を巻く爆風と白く輝く焔の柱が衝突する。あたりの石や岩、砂、土の塊が宙に舞い上がりぶつかり合う。地に植わっている木々や小さな小屋の壁までを引き剥がし、持ち上げようとする勢いだ。


 それらを視界に捉え金髪の娘は目を見開いた。一本に結わかれた髪が娘の動きに合わせて揺れる。呼吸が落ち着かず息が乱れている。娘は息を整え、そこで衝突している友人達に非難の目を向けた。


 ――あれ……?


 そこに、娘の鞄を引っ手繰って逃げた子供の姿はない。


 ――鞄……取り戻したのかな?

 ――で、何であんた達が喧嘩してるのよ……


娘の避難めいた視線に気が付くことは無く、お気に入りのキャスター付きの鞄の上でにらみ合う 透けて見える青白い青年エリアスと、金の獅子レオの姿。ぶつかり合う風と焔の渦の中にその姿が見える。


 ――ちょっとこんな街中で暴れないでよ~!!

 ――取り合えず、誰ともすれ違わずにここまで来たけど……

 ――……誰かにケガさせたら、どうすんのよっ


 さてどうしたものかと思案しようとした時、閃光が空を突き抜け、風の渦が空にあがった。


 ――あ…あれって… 


 深いため息と共に落とした娘の視線に、小刻みに震える毛玉が見えた。どこからか紛れ込んでしまったか、偶々そこに居たのか小動物の姿だ。その子は完全に腰を抜かしている 。小刻みに震えるその様子は何とも可愛らしい。当の本人からすれば恥ずかしい姿なのだろうが。娘は再びため息を落とし、まずはその小動物に歩み寄った。

 犬らしき蒼い毛の小動物。その真黒くまん丸な目の前でしゃがみ込むと、そっとその震える頭を撫でてやる。すると 真っ黒な目が、娘を見上げた。そのまん丸の目は人のように動揺の色をのせ 瞬いている。


 ――珍しい毛色だけど、犬だよね……?


 娘は優しく微笑んだ。蒼い毛の犬をなだめるようにその背を撫でている。


「ごめんねぇ…怪我は、ない? 」


 娘の言葉に小動物はぼーっと 意味を模索するように娘を見上げている。


 ――何この子、かわいいっ


「そうだっ…これ食べる? 」


 先ほど乾物屋の露店で友人の為に買っておいた干し肉を、金髪の娘はサイドポーチから取り出し蒼い毛の犬の前に差し出した。

 すると、真っ黒でまん丸の目がもっとまん丸になった。鼻をひくつかせ蒼い毛の犬はそれを一口かじるともぐもぐと噛みしめ、咀嚼した。そしてかじり付いた残りを一旦下に置くと、頭を持ち上げ黒くまん丸の目を娘に向け、その手をペロリと小さな舌でなめた。その後、地面に一度置いた干し肉をもう一度口に咥えると、それを食べずに震えていた体をよろよろと起こし森の方を見た。


 その様子に娘はクスリと笑みをもらす。


「おかわりもあるわよ? それは、あなたが食べたら? 」


 顔を持ち上げた蒼い毛の犬に袋にたくさん入った干し肉を見せてやる。ひと口齧った残りの干し肉を咥えているその口からだらりとよだれが垂れた。


 一心不乱に干し肉を平らげていく蒼い毛の犬。


「……お腹、空いてたんだね」


 そのふわふさの蒼い頭を撫でながら 娘は目を細めた。

 蒼い毛に包まれた耳が、気持ちよさそうに垂れている。


「ごめんね…巻き込んじゃったまみたいで…… 怖かったよね…」


 そのタイミングで蒼い毛の犬はブルブルと体を震えさせた。それをすかさず撫でてやる。


「……かわいいわね 蒼い毛のワンちゃん?」

『それは、狼じゃないかしら?』


 耳元で、戻ってきたスピカら囁く。


「そうなの? じゃあ、蒼い毛のオオカミさんね」


 再び頭を撫でるとまん丸な黒い目が娘を見上げ、またその手をペロリと舐める。出してやった分の干し肉を平らげた蒼い犬に、残りの干し肉が入った袋をリボンで結わきその体にくくりつけてやった。


「誰か、待っているんでしょ? 」

「ウォンッ」

「仲良く分けるてね……約束っ」


 蒼い毛の犬もとい、狼は何度か振り返りながら森の方へと消えていった。  

 真っ黒でまん丸の目、珍しい蒼い毛の狼だった。


 ――あんな色の狼もいるのね

 ――きれいな色だったなっ


 狼を見送った後娘は、まだ尚揉めている友人2人へと目をやった。そこは、地面がはがれ、辺りの木々が折れ、近くの小屋の屋根が剥がれかかり、そこかしこが燻った煙を上げている。


『そこから退くんだっ』

『お主がどくのだ』

『いいから引っ込めばいいんだっ』

『これを取り戻したのは、ボクだ』

『いーや、オレだ』

『ふざけるなっ! 引っ込むのはそっちだ』

『なんだとぉ!!』


 ――普段は離れたところにいるから、あたしもうっかりしてたけど……はぁ

 ――どうしてこの2人は、何でもかんでも競い合っちゃうかなぁ…はぁ


 娘のお気に入りであるキャスター付きの大きなカバンの周りを、白く輝く焔と渦を巻いた風が飽きもせず衝突し合っている。


 ――ついさっきまで、快晴だったのに……はぁ


「ピスケス、ちょっと魔力を頂戴」

『……(コクン)』


 ピスケスから水の魔力を受け取ると、娘は深い息を吐き出し腰に掛けてあった柄を握り受け取った魔力をとおした。柄から魔力が形を得て水の鞭がグネグネとのびていく。


”バチーンッ”


 地面を叩けば、魔力の鞭が唸り大きな音を響かせた。そして娘は、すぅっと息を吸い込み腹に力を入れた。


「ふ~た~り~と~も~っ!!」

『『!?』』


「いいかげんにしなさ~いっ!!」


”バッチーン!!!!”


 ビックンと肩を揺らす輝く焔を纏った金髪の男と、薄い蒼の長い髪の水瓶を抱えた男。

2人は、そろってそろりと娘の方に振り向いた。


「……まだやるの?」


 娘が瑠璃色の目をそこで小競り合う2人の周辺の悲惨な様子に向ける。その視線を追う様に険悪な様子であった2人は揃って視線を巡らせた。


「でぇ? まだ()()()? 」

『『もう、やりません…』』


 しょんぼりと肩を落とす輝く焔を纏った金髪の男と、薄い蒼の長い髪の水瓶を盛った男、2人の周りを妖精姿のスピカが楽しそうに飛んでまわる。


『プフフフッ 怒られちゃったわねぇ アハハハハハッ』

『くっ』

『う…』


 恨めしそうにスピカを見上げている二人の足元に、星屑の鞭がバチンと音を鳴らした。再び肩を揺らす二人。


()()()()()、お()()()しましょうね? 」

『『……はい』』


 本来のこの辺りの様子を、近くに漂っていた妖精に聞いたくれたスピカが、指示を出しその一帯を元々あったように修復していく。


 ――まったくもう……本来の目的忘れて、どうしてケンカするかなぁ


 普段は王都にいる娘の兄の元にいる獅子宮のレオと、スペンサー領を中心に風に流れて漂っている宝瓶宮のエアリスは、寄ると触ると意見をたがえ張り合うのだ。星獣達は他の地に住みながらも、星獣の姫からの祈りで星獣の森に現れる事が出来き、昨日王都から来たレオはそのまま娘の旅の道中を見守ることにしていたのだ。

 因みに魔力の多い星獣は地上に顕現していなければ、何処で呼んでもその場に顕現する事が可能だ。つまり星獣たちが元々存在する亜空間にいる星獣とはいつでも連絡が取れるが、地上に顕現している星獣とは物や人、魔術を介さなければ連絡が取れないのだ。


 ――どっちがよりあたしの役に立っているか? だっけ?

 ――ダントツの1位は紛れもなくスピカよね


 片付けにいそしむ2人を脇目で見ながら、娘は飛んできたスピカを肩に乗せた。


『姫、そろそろこっちの道に来れない人が、怪しんできたわ』

「っ!? 不味いわね…」


 まだ文句を言い合いながら片付けているレオとエリアスに、ため息を一つ送ると娘はポケットにしまっていた銀時計を取り出した。


『おねがいロロ、壊れたモノの時間を戻してくれる? 』


 両の掌で包み込んだ銀の懐中時計に話しかけながら、魔力を送る娘。銀時計が光り出し、レオとエリアスによって壊された小屋や、バケツ、めくれ上がって所々にあいてしまった地面の窪みを元の様子に戻してくれた。


『マスター、完了ですロロ』

「ありがとうロロ スピカもピスケスもシリウスもありがとねっ」


 辺りを確認してカバンを回収してからスピカに頼んで、見えない・認識できない・聞こえないの結界を解けば、すぐに人の声が近づいてきた。見知った道を間違えて、迷子になるなんて調子が悪いのかもなどという会話も聞こえてくる。


「もーっ! 早くここを離れなきゃっ」


『……姫、元気ダシテッ』


 フワフワと宙に浮く、羽の付いた手のひらサイズの小さな乙女。そのまるで妖精のような姿は透けていて、彼女が許可を与えればその姿を人に見せることもできる。スピカ同様に12宮の星獣や、輝きが強く魔力の多い星獣は同じ事が出来る。姿を見せる許可は、それぞれの星獣本人に任せられている。


『マスター、時間ロロ!! 時間ロロ!!』

「えっ!!」


 スピカとの会話にポケットの懐中時計から声がかかった。セリーナはハッとして、その懐中時計に話しかけた。






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

シリウス→おおいぬ座・風属性


ピスケス→魚座 2匹の魚の姿で泳ぎ、人魚にも人の姿にもなれる。長く蒼い髪。金色の鱗・金色の目 エロスの美の女神様 無口 水属性


銀の懐中時計(ロロ)→時計座のホロロギウム・・時間の一部を少し戻したり進めたり、管理したりできる。『~~~ロロ』と言葉の最後にロロが付く 火属性


ダーッと進めてきましたが、頑張ってこのまま序章を更新していきたいと思います。その後は下書き期間を経てまた更新していければと思います。まだまだ序章です……<(_ _)>

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