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星々の願い

 風のない静かな夜だった。昼間、自分をここまで育んでくれたスペンサー男爵家邸宅を出発し、娘は己の足でひたすら歩いた。友人達の元へ。すっかり陽は沈み、月の光が優しく注ぎ星が天に輝いている。


 星の色を頭にのせた金髪の娘セリーナは金糸のような細く輝くその髪をサイドの高い位置に一括りにし、軽やかに揺らしながらそこにたどり着いていた。

 

 前を向いて突き進むと心に決めて。それを友人たちに伝える為に。


 ――本当は、昔あったことを聞きたい

 ――母様が懸念している事を……でも…

 ――きっと貴方達は教えてくれないんでしょ?

 ――はるか昔の伝える人がいない話はしてくれても、いま事情を知るのもがいれば本人に聞けって言うものね…

 ――母様の話は、母様に聞かなきゃだしねっ


 スペンサー男爵領の端、ガーランド侯爵直属の領地との境にある大きな木々に囲まれた森の奥。

 泉から湧きでた透き通る水。湖底が見えそうなほど透き通りでも底知れぬ深いエメラルドグリーンの湖。その湖畔に、外部から見つからないようにと森と結界に守られた屋敷がある。


 ――今日は、挨拶に来たの

 ――いつも、いつだってあたしを想ってくれて

 ――ありがとう 皆


 屋敷の中には祭壇が設けられており、先程到着した金髪の見目麗しい若い娘が一心に祈りを捧げている。娘の体から光の靄が湧き出し、祭壇を通って天に放たれる。


 ――皆

 ――あたしは、行くことにするよ


 娘の祈りに応えるように、屋敷を囲む大きな木々が騒めきだしたようだ。

静かだった森に風が吹き、湖面が揺らめき水飛沫をあげる。鬼火のように宙に浮く白や黄や緋、青などの焔。地が音をたて、地中から鉱石が跳ねだしていた。


 ――来てくれたんだね


 屋敷から出てきた娘は、導かれるように湖の前に佇んだ。

淡い月や星の輝きが森の中にある深いが小さな湖に降り注ぎ、ゆらゆらと揺れる湖面が金色に染まる。穏やかな風が木の葉をゆっくりと揺らし優しく渦を巻く。地面がコトコトと音を立て、湖面が小さく水の球を弾ませた。

 

 白く輝く焔を纏って、黄金の獅子が木の影から出てくる。その頭には手のひらサイズの金色のサソリがのっている。


『行くんだね』

『行くのね』


「そうだよ レオ、ピオラ」


 サソリは自身の体程の大きな尾を揺らし、金色の獅子は立派な鬣から蒼い目を覗かせ、まっすぐと娘に向けている。


 反対側の木陰から風が吹きぬけ、娘の傍らに風の渦が入った水瓶を抱えた水のように透けている半透明の整った顔立ちの青年と、その脇から羽の生えた手のひらサイズのかわいい乙女。


『…風になり…どこへでも共にいこう』

『置いて行かないよね 姫』


「エリアス、スピカ…」


『我も行くぞっ』

『おいらもっ』


「シリウス、パルム……」


 四足を地についていても娘より大きな白銀のもふもふ毛で覆われた大きな犬と、その5分の1程のサイズの子犬が、風にのって現れ菫色の目を瞬かせる。湖面から覗く者、森の獣の体を借りて出てくる者、木の上から覗く者、風に紛れる者―。それ以外の者も、ここに集まった彼等は皆、娘を優しい眼差しで見つめる。


「皆、ありがとう」


 娘の声が森に染み渡る様に、響いた。

 両親の帰らない家、兄も帰らなくなった家。でも、家族のように暖かく包んでくれた星獣達。それは娘にとってかけがえの無いものだった。例えこの森でしか姿を見せてはいけないと決められていても。いく日も足しげく通っていた。此処へだけは外出が許されていたし、彼等は娘にとって大切な友人であり、家族みたいなものでもある。心を通わせる皆が、娘の顔を覗き込む。


『『『どこに行くの?』』』

『『『帰ってくる?』』』

『『『それは、あなたが望む事?』』』

『『『辛くはない?』』』

『『『楽しめる?』』』


 それぞれが発する声が重なる。その言葉一つ一つはすべて彼らに愛される娘の心に響いてくる。


「大丈夫 心配ないよ」


「これからは、どこでだって会えるよ」


「あなたたちのお蔭で、あたしはいつだって幸せだよ」


 星に愛された娘の大切な友人達。これまではこの地に赴きこの森のみで一緒に行動してきた。幼い頃は、なぜ屋敷に一緒に来てくれないのかと嘆いたりもしたが、それは星獣の姿を他者に見せないためであり、星獣と共にある娘を隠すことに繋がっていたようだった。これからは、あるものは風にのり、あるものは大地に溶け潜み、ある者はネックレスやピアス等のアクセサリーになり、武器になり、銀の懐中時計になり、地上に住む妖精や獣の姿を模した。呼ばれればどこにでも行けるが、彼らは娘に付いていくのだ。


 大切な友人達は星の精であり星獣と呼ばれている。一般的に畏れ敬われる星獣とは、地上の妖精や元素そのものを掌る存在であり、通常神話や伝説上のものとされている。その彼らを呼び出し、隷属させる魔法がある。それが娘の家系に血で伝わる古い魔法だ。



 現在その魔法を受け継いでいるのは、娘とその母だけである。同じ血を引く娘の兄であってもその魔法は使えない。ただ魔法で隷属しなくとも、少しお願いし星獣が承諾できれば彼等は喜んで娘やその一族に力を貸すのだ。大切な大切な彼らのお姫様を共に護る者であれば尚更だ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


レオ→獅子宮(しし座)のレオ・火・黄金の獅子・見目の良い金髪青い目の人になれる。基本男性姿だが、女性にもなれる。主がモフモフ好きなので獅子の姿が多い。頭が良く他の星獣達のリーダ的存在。知的で王子様気質。

白く輝く高熱の炎やレーザーを打つ。一人称は「わたし、もしくはオレ」


ピオラ→天蝎宮(さそり座)のスコーピオ・水・金色のサソリ。赤や青のサソリにもなる。目にしただけで人を惑わすほどの褐色巨乳の美女にもなる。巨乳は肩がこるのと、邪険にしても寄ってくる人がめんどくさいのでサソリ姿が多い。毒針の剣にも姿を変える。


エリアス→宝瓶宮(水瓶座)のアクエリアス・風・風に混じり込みどこ見でも吹き抜ける。水瓶を抱えた青年の姿になるがその姿は透けている。又は水色の宝石になりアクセサリーに交じり込む。風を従え、伝達からサポート、攻撃を避ける為主の周りに竜巻を起こす。一人称は「ボク」


スピカ→処女宮(おとめ座)のバルゴ・地・手の平サイズの羽のある乙女。妖精のよう。戦う力は持たないが植物を育て実らせる力でたまに悪戯をする。

※ポリマとして現れる時は、天使のような見目に変わり予言の女神となる。


シリウス→大犬座のカニス・コヨル・風・白銀のもふもふ毛並みに菫色のまんまる目。軽自動車並みの体の大きさ。風に乗って移動する。主の枕にされて昼寝するのが好き。好奇心旺盛でにおいに敏感。


パルム→小犬座のカニス・ミノル・風・シリウスの子分。白銀の毛並みに菫色の目。一般的な子犬程度の大さの為、人の要る処ではシリウスの代わりに番犬として主に付き従う事がある。所作子犬で好奇心旺盛無鉄砲出もかわいい。



お読みいただきありがとうございます。まだ続きます。

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