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旅立ちの前夜

 懐かしい夢を見た。あれは、それから起こる事への――予兆――だったのかもしれない。



 綺麗な薄い透き通るような白に近い銀色の髪がゆれる。寂しそうに下がった眉。申し訳なさそうに綺麗な顔に寄せられた眉間のシワ。苦しそうに色を無くした蒼白い肌。悲しそうにふせられた瑠璃色の瞳が沸き上がる涙に揺れて見える。


「ごめんなさいね……私のかわいいセリーナ」


 ふわりと銀色の長い髪が揺れて、セリーナと呼ばれた少女は母に抱き寄せられた。震える華奢な体が、か細い力を込めてセリーナを抱き締めている。それだけでこのきれいな母が心を痛めているのが伝わってくる。


「……向こうにいったら、元気になるんでしょ?」

「えぇ…きっと、元気になって……」


 セリーナを抱きしめる細い腕が震え、その声が悲しい色をのせている。


 妹を抱き締める母と、母にすがり付く妹。兄である少年はぐっと拳を作った手に力を込める。努めて何でもない声を作り、そこに歩み寄った。


「リーナ…暫く見れないリーナの顔が泣顔では母上も気が休まらないだろう……母上に笑顔を見せてさしあげなさい」


 兄のヒューバートがセリーナの小さな頭を、クシャリと撫でた。「僕がいるよ」と言う優しい兄の声に背中を押されて、大きな目にあふれんばかり溜められた透明な雫を、少しも溢さない様にとグッとこらえセリーナは微笑んだ。

笑んだことで結局溢れてしまった雫を、母ソフィアは握りしめたハンカチを震わせながらで拭ってくれた。その手をハンカチごと握りしめセリーナは「兄様がいるから平気よっ」と努めて明るい声を出した。

 泣きながらも笑みをつくる健気な娘に応えてソフィアは、銀色の髪を揺らし娘と同じ瑠璃色の大きな目に涙を浮かべながらにっこりと微笑んだ。



 瞼を持ち上げると、見慣れた星空の描かれた天蓋。自室のベッドの上で目を覚ますと、金髪の娘は両の腕を天に向け、グイッと体を伸ばした。

 目尻が濡れていた。


 ――あれは、5歳の頃だったかな…

 ――あの後、お父様に急かされて……、 

 ――次に会える約束も出来なかったんだよね


懐かしい夢だった。夢の中でも母に会えたことに、金髪の娘セリーナは少しだけ嬉しくもあり寂しくもある。だってセリーナは、あれから母には一度も会えていないのだから。


 ――母様、あたしもう15歳になっちゃったよ…


 王都の東、広大なガーランド侯爵領の一部で森と海に挟まれ港を構えた小じまんりとしたそこは男爵位である父の管轄する土地だ。そこにセリーナは暮らしている。まるで何かから隠される様に。ひっそりと。


 母から離され、父の領地から出る事を許されず、幼かったセリーナは兄であるヒューバートと共に過ごした。あれから折々にカードやプレゼントを贈ってくれるが母自身は戻らず、母にベッタリな父も、母のいるところを拠点に仕事をしほとんど帰ってくることは無かった。そして、セリーナが11歳になった頃、兄であるヒューバートも勉強の為にとその地を離れる事となった。


 それから4年。


領地から出られることなくセリーナは、屋敷て世話をしてくる使用人と共に過ごしていた。


 ――母様も、兄様も、元気かなぁ

 ――ついでにお父様も……


 その日、スペンサー男爵家に仕える長身で色々とスペックの高い執事が朝から慌ただしく何やら準備していた。それは年に1度、下手をすれば年に1度だって顔を合わせる事のないスペンサー男爵家の当主、バーナード・S・スペンサー男爵が娘であるセリーナの住むこの邸宅へ今回は1年半ぶりに帰って来る為であった。


 やはりと言うかバーナードは帰って早々、執事を伴って自身の執務室へと入っていってしまった。娘とは一言も言葉を交わす事なくだ。しかも今回は、かなり慌てた様子で。その姿を廊下の端から見ていたセリーナは、自室へ素早く戻り自前の魔具を取り出し、そっと魔力を纏わせた。


『とうとう、馬鹿共(貴族連中)にばれてしまったようなんだ』

『…セリーナ様の存在が、という事でしょうか……それとも…』


 ――あたし?


少しの間。執事の言葉に否定しないという事は、バーナードが頷くなりして肯定したのであろう。


『全てではないが、出生届が見つかってしまった。カークス公が再び隠匿し圧をかけてくれているが、日との口に戸は建てられん…その内広がっていくだろう…お披露目と称して王都に引っ張り出されるのは確実だな……王の前に引っ張り出されれば……ソフィの苦労が…………王国の為に王族に嫁がせるか……だが…いや……、娘の身で王国の盾や矛となる為に戦わせるか…イヤ……身を守るには……戦う力はどちらにせよ必要か…』


 珍しく言いよどむ父の声。


 ――あたしの事よね……?

 ――嫁がせる…?

 ――戦う…なに……と?


 父の執務室に仕込んでおいた通信用魔具から聞こえてくる内容に、セリーナの背に冷たい汗がつたう。


 ――嫁がせる…って、あたし!?

 ――やだ……っ!!

 ――昔は知らないけど……今は貴族だって恋愛結婚が主流のはずなんだけどっ


『相手が王族ならやはり…嫁がせた方が普通の貴族の娘にとっては……いや……だがな……』

『…セリーナ様は最近15歳になったばかり。王子はまだ3歳ですし、それに……』

『わかっている…手も打ってきた……だが、血筋は血筋ど……あちらがただ黙っているとは思えん。それに、相手が王子とは言えんだろう……先代の事があったんだ』


 ――って、どこに嫁がせる気よっ

 ――王子って何!? 王子じゃなくてもそれ相応って事!?

 ――どっかの高位貴族って事?

 ――まさか王様の側妃!?


 執事のもっともな問いに、バーナードの苛立った声が返ってくる。あの様子では、なんとなく相手は予想できて居そうだ。苛立ちに、机をたたく音が響いてくる。


『何の為にっ……ソフィー達に寂しい思いを強いてきたというのに…くそっ!』


"ガタンっ!!"


『クソッ何でだ……うまく隠せていると……油断していた』

『旦那様、言葉遣いがなってませんよ…』


声を荒げ、机を叩いているであろう騒音が響いてくる。荒ぶるバーナードに相対している出切る執事のユニは、実に冷静に会話している。


『くそっ!!……わかっているだろう……元々上品な産まれでもないんだっ』

『…まったく…、ここにいる間だけですよ……して、ソフィア様はなんと……?』


『……』

『……』

『……はぁ』


少しの無言が続き、ため息が1つきこえた。


『ソフィーは、責任を感じている』

『寝込まれましたか……』


 ――母様…っ


『ああ』

『ソフィア様の事もあります。何か抜け道が…』


 ――母様の??


『いや…ソフィーは物心つく前から準備していた……されていたし……少々状況も違うだろう……』

『……あちら側に、最大の味方もおりましたしな』


話しが深刻になりそうな予感に、セリーナは金色の髪を耳にかけ乍ら魔具に顔を寄せた。


『ただ、まだセリーナの本当の色は知られていないはずだ』

『では、強制は逃れようもあるというものでは?』


 ――色?


『…だといいのだがな』

『どういうことでしょうか』


『王の前に立てば、ソフィーの魔法で守る事が難しくなる』

『では謁見すれば、すべて……暴かれてしまうと言うことですね』


『ああ。今のソフィーの魔力では王の前でまでは難しいだろう。保険かけてあるがな…。色がバレてしまう事をギリギリまで伸ばしたところで、ソフィーとヒューバートしかいないとなっていたガーランドの直系が、…色が違えどその血を引いた娘がいると知れれば、回りの馬鹿共も……五月蝿くなるだろう』

『頭の悪いかたがたは色が違えば尚の事、熱心でしょうな…ガーランドの血が欲しい方々は多いですからね』

 

 ――魔力?

 ――母様の?


魔具の先では、中年の男2人がため息交じりに話し込んでいる。憤りの色が見える会話だ。


『王家以外が血を混ぜたとて、無駄な事なのだがな…貴族には馬鹿が多すぎる……ソフィーも苦労したしな……』

『……左様でしたね』


『なにより、魔力の消耗が増せばソフィーの身体も心配だ』

『もっともな事ですね』


 聞き耳を立てていたセリーナもはっと息をのんだ。

6歳にもならない頃分かれてそのまま、会う事も叶っていない母ソフィア・フィビー・スペンサー。母の存在はセリーナにとって何よりも大切なものだ。その母は男爵である父の治める領地の大元であり、母の実家でもある侯爵家、ガーランド侯爵家の本邸で静養をしている。


 セリーナの父であるバーナード・S・スペンサー男爵は、当時第2王子であった人物と婚姻を進められている母と結ばれる為、恵まれた商才を活かし財力で王国に恩を売り、男爵の地位を得た上で母の実家の侯爵家から領地を分け与えられ、なんとか侯爵家の令嬢であった母を娶ったという結構すごい事をした人物らしい。それも、母の産む子供を侯爵家の跡取りとして迎える事を条件にだが。


 ――ずっと閉じ込めてたくせに、いきなり結婚させるってあんまりじゃないっ!?

 ――っていうか、お父様と母様は見ず知らずの人に憧れられるような大恋愛して、結婚したくせに…ずるいっ

 ――なんで……なんで、あたしっ!?


 ――外に出れないせいで、母様にだって会う事が出来ないんだしっ

 ――お父様なんか、どうせいつも母様のところに帰っているくせに……ずるいっ


なんだか体に熱が集まってきてしまう。怒りに身体が反応してしまっているのかもしれない。身体の熱が上がるとともに、セリーナの魔力が揺れてしまった。

 

 ”ゴトッ”


 ――っ!!

 ――しまったぁっ


『!! ……セリーナか…聞いていたか…』


高ぶったセリーナの魔力が部屋に張り詰め、魔具をとおして父の部屋に隠していた魔具の片割れを揺らしてしまったのだ。


『…聞いていたならちょうどいい。話しをしようセリーナ』


 ――えぇぇぇ


 父であるバーナードの声の後ろで、ドアの開閉する音がした。続いて、コツコツと廊下の絨毯を踏む音。


『お前は…、片田舎で育て目立たない様に人目に触れないように過ごさせてきた。全ては、お前を隠すために…。カークス公の協力もあったおかげで、王都でも認識されていなかった。…のだが、全てに忘れられていたわけではない。数は少ないが、お前の存在を知っている者にも……我が娘は 、ソフィーの血を濃く引き体が弱くベッドから起き上がれない事になっている。わかるか? セリーナ…』


絨毯を歩く靴の音が、コツコツと廊下に響いているようだ。どうやらバーナードはセリーナの魔具を持ったまま移動しているらしい。


 ――隠すって……何?

 ――何のために隠してきたのよ……母様に会えないでも我慢してきたのに…


『我が娘セリーナは、病弱だろうが伝統あるガーランド家の血脈だということだ。子供が産めないと決まったわけではないからな……馬鹿共(貴族連中)、放っておいてはくれないだろう……ソフィーの…はぁ…ガーランド侯爵家のいわれは……知っているな?』


父のため息交じりの声に、セリーナも大きなため息をおとす。


 ――忘れてくれていてよかったのに…


 魔具の向こう側から聞こえていた廊下の靴音が止まった。もう部屋に父が入ってくるのだろう。セリーナはうなだれ乍らも魔具をもってソファへ移動した。


 ――これって、兄様がよく言ってた ”ガーランドの呪い” ってやつ?

 ――はぁ



 ”カチャ”


 小さな音を立てて、セリーナの部屋の扉が開く。部屋に入ってきたバーナードは、自分と同じ金色の髪を持つ娘の前に座った。そして愛しい妻であるソフィアと同じ色である娘の瑠璃色の目をまっすぐと見つめ、淡々と言った。


「このままでは、近々、お前に婚約者をあてがう事になるだろう」


「そんなの……承諾できませんっ!!」

「そうか…ある意味安全ではあるのだがな……」


強い眼差しで即答する娘に、バーナードは眉一つ動かさず告げた。


「…………では……家を出て…自分の力だけでのし上がりっ、他の誰もが口出しできない地位を手に入れるしかないなっ!」

「旦那様っ」


バーナードの何かを降りきるような強い口調とその言葉の意味に、セリーナを幼い時から知る執事のユニは声を荒げた。

それを、手で制してセリーナは父を見据える。


「…口出しできない地位とは? 」


セリーナの強い眼差しは変わらずバーナードを射抜いている。その眼差しにバーナードは一瞬眉を下げ、サッとまたいつもの無表情に戻った。


「我がクラーワ王国は貴族社会であり、力の階級社会でもある……セリーナ、魔導騎士団に入れ」

「魔導騎士団? 王都のエリート騎士団の事?」

「そうだ。魔導騎士団長は、各騎士団の総大将であり今やこの王国で王や王妃、王太子に次ぐ宰相と同じ地位にいる。王の次の地位のようなものだ。魔導騎士団で団長に認められ、そこで功績を残すか、地位をもらえれば横槍を入れられず自分の意志を貫けるやもしれん……危険だがな…」


バーナードの眉間に深いシワがはいっている。


「…それって確実じゃないんじゃない? 」

「セリーナの本当の色がばれなければ、まぁ大丈夫だろう。身を守るすべも、身に付く。そこでいい人を見つけられればそれこそ勝手に結婚相手を押し付けられないですむ……私が気にくわないこともあるがな…」


深い眉間のシワに加え、口がへの字になっているバーナード。それには触れずにセリーナは、会話を続ける。


「本当の色? 」


 何の事かと眉間にしわを寄せるセリーナ。それを目にバーナードは、チラリと執事のユニに視線を送った。バーナードの視線を受けた執事は、常に纏っている手袋を外し、セリーナの前に腰を折った。そして、その手をセリーナに伸ばした。


「本来はソフィア様でなくてはいけないのですが、少しの間でしたら、セリーナ様のお力も混ぜれば、私でも何とかなるでしょう。失礼いたします セリーナ様」


 首を傾げたセリーナの後ろに流していた金色の髪を一房掬いしその華奢な肩に掛け、反対の手をセリーナの前に差し出した。その手の上に小さな水球を作り出し、そこに肩に掛けていた一房の金色の髪を取り込んだ。


「ユニ? 」

「この水球にセリーナ様の魔力を込めてください」

「……うん」


 なんだかよくわからないが、論より証拠なのだろうとセリーナは言われた通り目の前の水球に魔力をとおした。透明の水球が薄桃色に染まっていく。


「では、ご覧ください セリーナ様」


 執事のユニに促されセリーナは水球から出された一房の自分の髪に目を向けると、言葉を失った。そこには輝く銀色の髪。


「……これが、お前が密かに育てられた原因のひとつでもある」


 淡々と告げるバーナード。ユニは、先程作り出した水球を、空気の中に飛散させていた。

己の銀色の髪から、目が逸らせないでいるセリーナの口から震える声が紡がれた。


「うそ……なんで……? 母様と、おなじ?」


 セリーナの呟きに、バーナードはゆっくりと首を横に振った。


「ソフィよりもはっきりとした銀色だ。セリーナ。お前のその本来の髪色はガーランド家特有の色だ。その銀色の髪と瑠璃色の瞳をもちガーランドの血筋に生まれた娘は、星獣の力をかり、星々を詠み占星魔法を使う事が出来る。……星獣達の姫のような存在だ。 それは知っているな?」

「はい…あたしを姫と呼んでくれる子もいるから…」


銀色の髪からバーナードへと視線を移したセリーナの目は、まだどこか遠くを見ているようでもある。


「そうだな。よく聞けセリーナ。クラーワ王国では古くから、ガーランド家に銀髪に瑠璃色の目を持つ娘が生まれた際その娘は、王家に嫁がねばならん事になっているんだ…」

「え……母様は?」


 ぼんやりとバーナードを視界に入れていた瑠璃色の目がはっとしたように見開き、今度はしっかりとバーナードを捕らえた。


「…ソフィ―の叔母上がいろいろあってな…ソフィーは自分の娘を王家に嫁がせることを嫌がって、お前を産んですぐ……出産で大量に魔力を失っていたのに無理を押して、お前の髪の色を魔法で変えて誤魔化したんだ」


 一気に捲し立てるように、言葉を繋ぐバーナード。ユニはその後ろに黙って控えている。少しだけ片眉が上がり、目が細められた気がするが、気のせいだろう。


「えっと……そうじゃなくて、何で母様は王家に嫁がなかったの?」

「……伯母上というのは、お前のお爺様の妹で……」


「お父様? 」

「………」


 黙るバーナード。先程から、答えてほしい事を答えてくれない。セリーナの眉間にシワがよっていく。


「……あたしも、母様と同じ様にできないの?」

「それは……っ」

「出来ないでしょうね」


 急に視線をそらして言い澱むバーナードに変わって、執事のユニが静かに答えた。目は笑っていないのに、微笑んでいる。そして、深いため息がユニの口から漏れた。


「ソフィア様は、生来体が弱く占星魔法の資質があってもそれを施行する事が難しかったのです……まぁ、少しだけですが?」

「……うん?」


 ――産まれたばかりのあたしに魔法をかけて、体調を崩したんじゃないの…?

 ――ってことは、元々って訳じゃないのよね……?


 セリーナの頭に? が浮かんでいる事はありありとわかるが、ユニは”コホン”と咳払いひとつで話を戻してしまった。


「当時の王家としましても占星魔法が使えなくては、王家に迎えても意味がないのではないかと揉めまして……まぁ、揉めるようにもっていったのですがね。どっかの誰か様方が。……そして、揉めている最中にバーナード様がソフィア様を身篭らせまして、見事掻っ攫ってしまわれたのです」


 長身の執事服を纏った長身の男の端正な顔がにっこりと静かにほほ笑んだ。セリーナは口をぱっくり開けたままそこで固まっている父を一瞥し、視線をユニに戻した。


「王家だからこそ、他の殿方の子を身籠っている娘を王家に迎えることはできなかったのですよ」

「……ヒューバート兄様誕生の秘密ね…」

「そうにございます」


 ユニがにっこりと満面の笑みを顔に張り付けている。


「それに……母様、確かに体は弱いけれど普通に魔法使えるよね?」


 ユニの微笑は完璧だ。完璧に感情が読めない。窓の開いていない部屋の中を乾いた風が吹き抜けた。気がする。


「……まぁいろいろあってだな…コホンッ」


 わざとらしく咳払いをしたバーナードは娘と目を合わせる事が出来ないようだ。

すっかりセリーナの部屋の空気が乾いた。

今日話をするまで、取っ付き辛く自分を遠ざけていると思っていたし、常に表情を変えない厳格だと思っていた父親の、照れて頬を染めた顔なぞ娘は見たくもない。チラリと父親の顔をみてそっと天井に視線を逸らすセリーナ。目を泳がせていたバーナードは居た堪れなくなったようで徐に立ち上がると、踵を返した。ばつが悪いのか、どうやら娘の部屋から出ていくようだ。


「兎に角、貴族の勢力争いに巻き込まれて誰とも判らん奴と結婚させられたくなければ、自分の力でのし上がるしかない。期間は2年。それ以上はお前の成人の儀を伸ばすこと出来ん。その上で本来の髪色と、星獣の彼等を呼び出すところ、星獣と共に魔法を使うところを決して人に見られてはならない。知られてしまえば、王家に嫁ぐこと以外にお前に未来はないと思えっ」


 いい放ってバーナードは足早にセリーナの部屋を出て、執務室へ戻ってしまった。それにユニも従う。ポツリとバーナードが座っていた所の前にセリーナの盗聴用の魔具が置かれていた。2人の背を見送り、部屋のドアを閉めるとセリーナは呆然と自身の部屋の天井に描かれた星々を眺める。



「……よしっ とりあえず……荷物まとめるかな…」





『旦那さま、よろしかったのですか?』

『よろしくなくてもしょうがないだろう……心配だっ!! 心配に決まって要るっ!! あの子はまだ15さいだぞっ……だからと言って、あの子の意志を無視して何も知らないまま王城に閉じ込めさせる訳にもいかん』

『セリーナ様のことです、このまま帰ってこないかもしれませんよ…わたし達はどこへでも付いていきますが』

『…あの子を、しっかり監視してくれ……あまりにもソフィーに似ている……』

『確かにセリーナ様の行動力は、申し分なくソフィア様の血です。が、申し訳ありません 旦那様』

『なんだっ』

『ソフィア様のご命令でスペンサー家の使用人をしておりますが、我々はソフィア様もしくはセリーナ様の命令にしか従いません』

『はぁ……そうだったな 一角獣座の星獣ユニコーン』


『はい…ですが、友人の頼みとあらば私個人は吝かではありませんよ』

『…ユニ、あの子を頼むっ』




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

リーナ=セリーナの愛称

ソフィー=ソフィア(セリーナの母)の愛称

カークス=ソフィの幼馴染で、バーナードの学友

ユニ=一角獣座の星獣ユニコーン。長身イケメンのスペンサー家のパーフェクト執事。


お読みいただきありがとうございます。

続きますっ

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